三姉妹、出生の秘密(1)
まるでスローモーションのように、颯が倒れていくのが見えた。
「颯!?」
慌てて私は颯に駆け寄った。
つられてママも颯の傍に駆け寄る。
「だ、大丈夫なの?」
ママも心配そうに颯を覗き込んだ。
私は夢中で颯の体を揺り動かす。でも、颯が目を開ける気配がない。
完全に眠りに落ちてしまったみたいだった。
私の頭は真っ白だ。
「どうしよう……」
颯が気を失った原因にはすぐに思い当たった。同時に、今回のタイムスリップをする直前の颯の言葉が私の頭にこだまする。
“俺がもし先に気絶したら、まずは自分の身の安全のことを考えるんだ。俺はいつ目を覚ますかわからない。目を覚まさない可能性だってあるんだ。それに、おそらく、かづも遅からず意識を失うだろうから、そうなる前に自分の安全の確保と、万が一の時は……かづだけでも帰る方法を考えるんだぞ。いいな”
「身の安全の確保だ」
私は小さくつぶやいた。
「それから、帰る方法を考える……そんなこと言っても〜」
颯に頼ることはできない。
自分で考えろ。
考えるんだ。
「何、どういうことなの? 彼は大丈夫なの?」
ママが何がなんだかわからないといった顔で私を見つめる。
「うんとね、説明すると長いんだ。とりあえず、ママ助けて」
私はすがるようにママの手を取って続けた。
「颯をまず、寝かせてあげてほしいんだ」
◇◆◇◆◇
やっとのことで颯をママの家のリビングにあるソファーに転がした。
ママも私も肩で息をしながら、ソファーの横に座り込んでしまった。
「もう、颯重すぎ!」
「あれだけ、ずるずる引きずったのに全然起きなかったね」
「いろんな所にぶつけたのにね」
私たちは二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。
「とりあえず、お茶入れるね。麦茶でいい?」
ママは立ち上がり、台所に向かった。
私はそっとママを目で追う。
確かに声や見た目は若いけれど、その一つ一つのしぐさは私のよく知るママそのものだった。
なんだか私はうれしくなった。
もうパパとは会っているのかな。
今何してるのかな。
お祖父ちゃんやお祖母ちゃんはどんな人だったのかな。
聞いてみたいことはいくらでもある。
「それで?」
ママは両手にマグカップに入れた麦茶を持ち、再び私のところへ戻ってきた。片方のマグカップを受け取り、私は思わずつぶやく。
「あ、このコップ知ってる」
「コップ?」
ママは驚いたように私の手の中のマグカップに視線を注ぐ。
「うん、これ今も使ってるよ」
なんだか、この時代と私の知っている時代を繋ぐものを見つけるのが、すごく嬉しく感じた。
でも、ママには伝わるわけもなく、眉間にしわを寄せて首をかしげている。
「それで、君たちは何しにうちに来たの?」
ママは麦茶を飲みながら問いかけた。
「ママに言われて来たの」
私は即答した。
「さっきから、ママって何?」
ママはいよいよ混乱したみたいで、マグカップを持ったまま腕を組んだ。
「私たちは、ここから21年前から来たの。私は華月。父は松本新。母は美桜希。この転がってるのが双子の弟、颯。私たちの前に白い猫が現れて、そいつがなんか何か言い出して、そしたらタイムスリップできるようになっちゃって。それで……」
私が一息に言うと、ママは慌てて「ちょっと待った!」と口を挟む。
「今、21年前がどうとかいった?」
「うん」
私は深くうなずいた。
「母親の名前は何て言った?」
「み、さ、き。桜のように美しい希望で美桜希」
一音一音くぎって、わざとらしくこれでもかという気持ちで、その名を本人に伝える。
「それって、私?」
ママは自分を指差して確認する。
「だから、さっきからそう言ってるじゃん。ママはえっと……ここが21年前だから……あと6年後に双子を生むのよ」
「よりによって双子!? たしかに、男の子と女の子の両方ほしいし、いっぺんに生めるのは嬉しいかなとか思うけど……」
「うんうん! ちょっとお得な感じはあるよね」
「そう、そんな感じよね。育てるのは大変だろうけど」
「え〜楽しそうじゃない?」
「あ、そうか〜。そうかもね」
二人で、ひとしきり盛り上がってから、一瞬の沈黙。
「って、話ずれてる!」
「うん、ずれた!」
やっぱり親子だなあと思うのは私だけだろうか。
おかしくなって笑みがこぼれてしまう。
そこへ、階段を下りるような軽快な足音が近づいてきて、ママによく似た私と同い年くらいの女の子がひょっこりとリビングに顔をだした。
すぐにそれが千明希叔母さんだと分かった。
千明希叔母さんはゆっくり近づいてきて、ママに声をかける。
「誰?」
「それが、どう説明していいかわかんないんだよね」
「どういうこと?」
叔母さんは私と颯に交互に視線を送ると、ママに答えを求めるように見つめた。
「この子が言うには、私の娘と息子らしい」
「……はい?」
「しかもね、未来からタイムスリップしてきたんだって」
「誰が?」
「私と颯が!」
私は思わず二人の会話に口を挟むと、二人は同時にこちらを無言でじっと見つめた。
今度は私が代わる代わる二人の顔を覗き込む番だった。
「あの……」
恐る恐る口を開くと、すぐに女の子がママの方を見て「何で家に入れるかな〜」とため息をついた。
「だって、男の子は倒れちゃうし、この子は必死だし」
「……宗教じゃないの?」
ママは千明希叔母さんの言葉に、驚いたように私を見た。
急な展開に私は慌てて首を振る。
「違う違う! 宗教じゃないし!」
ママはその言葉にほっとしたような顔をしたものの、千明希叔母さんの冷たい疑いの視線が私を突き刺すように降り注ぐ。
どうしよう……。
何て言えば信じてもらえるんだろう。
こんな時に暢気に眠りこける颯が恨めしい。
私がちらりと、ソファーの上で気持ちよさそうに寝息をたてる颯をにらみつけた瞬間、玄関の方からの「ただいま〜」という声がその場の緊張を打ち壊した。
「何してんの?」
ひょっこりとリビングに女の子が顔を出す。
その顔は、確かにママや叔母さんに似ているけど、誰だろう。
ママには妹は1人しかいないはずじゃ……?
私が分けもわからず首をかしげていると、ママがその子に向かって手招きをした。
「ん? 誰、この子たち」
その子は私たちを見とめてきょとんとした顔をした。
「それがさぁ〜……」
「宗教の勧誘」
ママが説明しようとしたところを千明希叔母さんが遮る。
「……だから違うってば」
これじゃ、もらちがあかない。
どうしたら信じてもらえるんだろう……。




