だから言うなって(2)
俺らの住む町から母さんの家へ行くには、電車にのって2駅。
俺たちはまず、最寄り駅に向かった。
そして駅にたどり着いて愕然とする。
「なんか変……」
華月が呆然と呟くのも無理はない。
俺たちの知っているこの駅は、改札が地上2階にあって、電車はいつも頭の上を走っている。
駅周辺のビルや店の様子も全然違う。銀行も聞いたことのない名前だ。
「駅の窓口で今、何年かわかる情報がないかな」
まるで独り言のように呟いて、俺は窓口の方へ近づいていった。
その事務室に貼られたカレンダーが目に入り、そこに記された21年前の年号に息を呑む。
窓口のカウンターに置かれたプラスチック製の卓上カレンダーも4月1日の表記。
時計は午後8時23分の文字。
隣にいた華月も時計を指さしタイムスリップの成功を確信したようだった。
「4月1日……」
成功したのは嬉しいはずなのに、体を言いようのない緊張が走る。
これから、どうなるのだろうか。
俺たちは何をすればいいのだろうか。
唇を噛みしめ不安そうに改札の方を見つめる華月の肩に、そっと手を置いた。
「行こう」
「……うん」
普段そうするように、俺は自動券売機で切符を買うため、千円札を機械に入れようとした。
しかし、何度入れても千円札は出てきてしまう。
「え、何で?」
その様子をすぐ隣で見ていた華月も怪訝そうな顔をする。
ちらりと隣の自動券売機に千円札を入れる男性の手元を見やる。
そして俺は気がついてしまった。
「そうか……」
がっくりと、うなだれるしかなかった。
「華月、歩くぞ」
「え? 何で? 電車は?」
訳も分からず、踵を返した俺を必死に追いかけてくる華月の質問には答えなかった。
いや、人が多すぎてここでは答えられない。
「いいから、歩くよ」
「2駅も!?」
「そう!」
「ありえないって〜! 電車のろうよ」
文句を言いながらも華月は俺の後ろから付いてくる。
しばらく歩いて、人がまばらになってきたところで俺は華月を振り返った。
華月は完全にふて腐れている。
「華月。俺たちの持っているお金は、ここでは使えないよ」
「え? 何で?」
俺は財布からさっきの千円札を取り出した。
「このお金は、この時代には存在しない金だ。ここでは何の意味のない、ただの紙切れだよ」
再び足を進めながら俺は続けた。
「小銭だって同じだよ。この時代にとっては未来の製造年号にあたるような年号が、ばっちり読めちゃうような小銭、使うわけにはいかないだろう?」
「そっか……」
華月はしょんぼりと肩を落としながら隣を歩いた。
「だから……がんばって歩いて母さんに小遣いをせびろう」
俺は少し冗談めかして言った。
「そうだね! お小遣いの前借りだね」
笑顔が戻った華月は、どうやら不安から立ち直ったようだった。
「21年間も前借りかよ」
「しょうがないよ、ママが行けっていったんだし!」
「……母さんは一度も、行けとはいってないぞ」
「え〜? だってオルゴール渡してって言ったんでしょ?」
「言ってない行ってない」
俺は勢いよく首を横に振った。
「あれ? そうだっけ〜?」
「オルゴールを持って現れたって言っただけだ!」
「同じじゃん!」
「…………どこがだ」
げんなりと肩を落とすのは、今度は俺の番だった。
「まあまあ〜。ほら、兄さん行きまっせ〜!」
華月は元気いっぱい先頭きって歩き出す。
「張り切っているところ申し訳ないが、華月さん、どうやら今のところで右に曲がる必要があったみたいだ」
前途多難だ。