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   テイクオフ(4)

「あれ?」

 数秒後、華月の声が聞こえて、俺は目をあけた。

 目の前に華月。

 あたりを見回すまでもなく、そこは俺の部屋だった。

 

 俺は慌てて、机の時計を確認する。時計は、28日の午後23時04分。

 失敗か。

 

「ダメだったみたいだな」

「え〜。何で〜?」

 何でって言われてもな。

 俺は、わざとらしく肩をすくめて見せた。

 肩すかしをくらったわりには、ほっとしているのは否めない。

 まぁ、何事もなかったんだから、良かったことにしよう。

 少し期待していたところもあったのは否めないが。

 小さく息を吐きながら、勉強机の椅子に座った。

 

「あ、わかった!」

 

 俺が半分以上、諦めていたというのに、華月は何か大発見したかのように声を上げた。

「もう一度やってみようよ、颯」

「もう一度?」

 俺は華月を見上げる。

 まだやる気?、とは言わないが、きっと顔に出ていただろう。

「もう一度だけ!これでダメなら諦めるから」

 華月は俺の腕を引っ張って椅子から立ち上がらせようとした。俺はため息をつきながら椅子から立ち上がる。

「わかったよ」

「よし、いくよ〜」

 華月は俺の腕を両手で掴んだまま、そう言った。そしてゆっくり目を閉じた。

 何度やっても変わらないと思うけどな、と思いながら俺も目を閉じる。

「せーの」

 華月のかけ声と共に、俺は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 ――――28日午後22時30分の廊下に。

 

 

 

 

 

 

 数秒後、おそるおそる目を開ける。

 目の前に見えるのは、華月。

 そして――……

 

「あ、廊下っ!」

 

 華月が俺のセリフを取った。

 そう、そこはどう見ても我が家の2階の廊下。俺の部屋と華月の部屋をつなぐ廊下だ。

「……ホントに飛んだのかよ」

 思わず呟く。

 はっきり言って、信じられない事が起きてるのに、受け入れなければならない状況だ。

 俺は呆然としていた。

 だから、華月が俺の部屋のドアをあけようと、ドアノブに手を掛けた事に気付くのが一足遅れた。

 ドアノブが、ガチャリと音を立てる。

「げっ!」

 やばい!

 俺は慌てて華月を引っ張り、華月の部屋に駆け込んだ。

「な……」

 華月が何か叫ぼうとするので、手で口をふさぐ。そして、自分の口に人差し指を当てて、華月に静かにするように伝える。華月がそれを見て、頷いたので、俺は華月の口をふさいでいた手を離した。

 しばらくして、隣の部屋のドアが開いた気配がした。

「ママ?」

 聞き慣れた声が廊下の方から聞こえる。

 その声を聞いて俺の目の前にいる華月がびっくりしたように華月の部屋のドアの向こうを見た。そして俺の顔を無言で見つめる。

 俺は頷いた。

 まもなく、隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。

「どうやら、テストフライトは成功したみたいだな」

 俺は小声で華月に話しかけた。

「ねえ、今のって私の声に聞こえたけど?」

 華月は、まだわけがわかっていないようだった。

「今のは華月だよ」

「え?」

「よく思い出してみろよ、30分前のことだろう?」

 そう、あの時、俺が風呂からあがって自分の部屋に戻ると、すでに華月がいたんだ。そして、あーでもないこーでもないと言っている間に突然、俺の部屋のドアが開いたんだ。

 

 ――――「母さんたちが、あんまり俺らがうるさいから覗きにきたんじゃないの?」

 

 そんなことを言っていたんだ、あの時は。

 まさか、あれが華月の仕業だったとは。

「え?じゃあ……」

 華月もやっと理解したようだった。なんだか嬉しそうな顔をしている。

 その時、隣の部屋から「ふぉ〜〜っふぉっふぉっ」という華月の高笑いが聞こえてきた。

 俺たちは再び顔を見合わせて、噴き出しそうになったのを何とか堪えるので、精一杯だった。

 

 


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