比翼(4)
その日の夜、2時を回った頃、俺と華月は自宅に戻ってきた。
まだ病院に残っている父に「帰って、少しでも寝なさい」言われ、呆然としている華月を連れて帰ってきた。
華月は抜け殻のようになってしまって、一言も言葉を発しない。
俺たちは、真っ暗な俺の部屋で、身を寄せ合って布団で丸くなっていた。
制服のまま。
――まるで段ボールに入れられて捨てられた子猫のように。
寝れるわけない。
俺は夢で、母さんがこうなることを知っていた。
そう、知っていたんだ。
もう、疑うことはない。
原因はどうであれ、俺はいわゆる“予知夢”を見れるようになってしまったんだ。
だから、俺だけは、母さんがこうなることを阻止することが出来たはずなのに…。
何もできずに…。
結局死なせてしまったんだ…。
俺が、今朝もっと、階段に気をつけるように、きつく注意していれば…。
頭の中を、ぐるぐると後悔の黒い渦が回り続ける。自然と涙が枕を濡らした。
一度決壊した涙は、もうせき止めることはできなくて、後から後からあふれ出し、声を出さないようにするのが精一杯だった。
そんな俺に気がついた華月が、そっと俺の頭を抱きかかえるように、そっと自分の胸に俺の顔を押し当てた。
ますます、涙は溢れていく。
「ねえ…颯…」
華月は、抑揚のないかすれた声で俺を呼んだ。
返事はできなかった。
華月もきっと、それを望んでいないと思った。
「ママが…死んだなんて嘘だよね……」
その、静かな声が部屋に響いた。
まるで、自分と華月しか、今この世界には存在しないような気分になった。
「ママは…パパが本当に好きなの。パパもママがいないと、生きていけないの。…神様が本当にいるなら、どうしてそんなパパとママを引き離すの?ママは…何か悪いことしたの?」
その華月の言葉が俺の中でこだまする。
「ママに会いたいよぉ……ママ……ママ…帰ってきて……」
華月はついに声を上げて泣き始めた。
そうだよ。
なんで母さんなんだ。
母さんと父さんは、いつも一緒にいるだけで幸せそうなんだ。
どうしてその二人を引き離すんだ。
どうして父さんから母さんを奪うんだ。
どうして俺たちから母さんを奪うんだ。
母さんが何をしたっていうんだ。
俺は、まだ母さんに…何もしてない。
何の親孝行もしてやれてない。
お願いだ…。
母さんを…奪わないでくれよ。
俺たちから…奪わないで。
そのときのことをあとで聞いたら華月も同じことを考えていたと、言っていた。
その時のこと。
つまり。
俺たちは、そのとき時を飛んだ──。