表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

   比翼(4)

 その日の夜、2時を回った頃、俺と華月は自宅に戻ってきた。


 まだ病院に残っている父に「帰って、少しでも寝なさい」言われ、呆然としている華月を連れて帰ってきた。

 華月は抜け殻のようになってしまって、一言も言葉を発しない。


 俺たちは、真っ暗な俺の部屋で、身を寄せ合って布団で丸くなっていた。

 制服のまま。

 ――まるで段ボールに入れられて捨てられた子猫のように。



 寝れるわけない。

 俺は夢で、母さんがこうなることを知っていた。

 そう、知っていたんだ。

 もう、疑うことはない。


 原因はどうであれ、俺はいわゆる“予知夢”を見れるようになってしまったんだ。

 だから、俺だけは、母さんがこうなることを阻止することが出来たはずなのに…。

 何もできずに…。

 結局死なせてしまったんだ…。


 俺が、今朝もっと、階段に気をつけるように、きつく注意していれば…。

 頭の中を、ぐるぐると後悔の黒い渦が回り続ける。自然と涙が枕を濡らした。


 一度決壊した涙は、もうせき止めることはできなくて、後から後からあふれ出し、声を出さないようにするのが精一杯だった。

 そんな俺に気がついた華月が、そっと俺の頭を抱きかかえるように、そっと自分の胸に俺の顔を押し当てた。

 ますます、涙は溢れていく。



「ねえ…颯…」

 

 華月は、抑揚のないかすれた声で俺を呼んだ。

 返事はできなかった。

 華月もきっと、それを望んでいないと思った。


「ママが…死んだなんて嘘だよね……」

 その、静かな声が部屋に響いた。

 まるで、自分と華月しか、今この世界には存在しないような気分になった。

「ママは…パパが本当に好きなの。パパもママがいないと、生きていけないの。…神様が本当にいるなら、どうしてそんなパパとママを引き離すの?ママは…何か悪いことしたの?」

 

 その華月の言葉が俺の中でこだまする。

「ママに会いたいよぉ……ママ……ママ…帰ってきて……」

 華月はついに声を上げて泣き始めた。

 

 そうだよ。

 なんで母さんなんだ。

 母さんと父さんは、いつも一緒にいるだけで幸せそうなんだ。

 どうしてその二人を引き離すんだ。

 どうして父さんから母さんを奪うんだ。

 どうして俺たちから母さんを奪うんだ。

 母さんが何をしたっていうんだ。


 俺は、まだ母さんに…何もしてない。

 何の親孝行もしてやれてない。

 お願いだ…。

 母さんを…奪わないでくれよ。


 俺たちから…奪わないで。




 そのときのことをあとで聞いたら華月も同じことを考えていたと、言っていた。


 その時のこと。

 つまり。



 俺たちは、そのとき時を飛んだ──。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ