比翼(2)
「颯っ!」
はっと俺は目を開けた。
「颯、大丈夫?」
何が?
俺は呆然としたまま、瞬きをした。その拍子に瞼から自分のほっぺたに、何か暖かいものが流れていった。
目の前に華月の顔。
心配そうに覗き込んでいる。
「…嫌な夢でもみたの?」
華月はそっと俺の頬の涙を拭う。
…涙?
夢?
夢なのか…今のは…。
「えっ!颯!?ちょっと、ねえどうしたの!?」
ほっとしたのか、後から後から涙が溢れる。
自分で気が付かないほど、こんなに苦しかったんだな。
苦しくて苦しくて。
泣いてたんだな。
ああ、夢でよかった。
俺は、力いっぱい抱き寄せて、華月を抱きしめてた。
「うわっ」
最初困惑していた華月は、何も言わずにそっと俺の背中をぽんぽん叩いてくれた。
余計に涙がでた。
俺は何事もなかったように朝食を準備した。
華月の心配そうな視線を随所で感じながらも、平然としてテーブルについた。
俺は、なんとなく目で母さんを追っていた。
母さんはいつものように、ぼーっとしたまま朝ごはんを食べ始めている。
俺の頭の中を、夢でみた光景がよぎり、一瞬にして不安が全身を覆いつくした。
「母さん」
俺自身も思いがけない低い声に、家族の視線が俺に集中した。
「ん?」
母さんもきょとんとして、目をぱちくりしている。一瞬にして目が覚めたようだった。
「…今日、階段気をつけて」
「…階段?」
「そ。階段」
「颯、どうしたの?今日変だよ?」
華月がますます心配そうに顔を覗き込んでいる。
「…そんなことないよ。早く食べないと遅刻するぞ」
知らん顔をして、そう返事をした。俺はそれ以上何も言わないつもりだった。
そして、その日は、何事もなく過ぎていった。
その日は。
だから、すっかり安心しきっていたんだ。