プロローグ
こちらは『桜華の雫』の続編となっています。
本作を先に読まれますと、前作がネタバレになります。
前作を読まなくても分かるようになってはいますが、前作をお読み頂いてからの方がより一層本作をお楽しみ頂けると思われます。
是非、前作よりお読みいただければ、と思います。
自分の耳を疑った。
正確には耳でもない。じゃあ、何なのか、と問われても俺はその答えを持っていなかった。
ただ、言葉をなくして華月と顔を見合わせるしかなかった。
「颯。あたしのほっぺた、つねって」
華月の言うとおり、目の前のそれから目を離さずに、華月の頬を軽くつねった。
小さく、うっ、という華月の声が聞こえる。
「痛い?」
「痛い…」
華月はとても痛そうに自分のほっぺたを擦っている。
「…なんか俺もほっぺた痛くなってきた…」
「颯のほっぺ、私つねってないって」
「そうだけど。なんとなく」
そう言って俺も、自分の頬を手でさすった。
「ねえ、颯」
信じられる?と言いたげな華月の顔が横にあった。
「うん、かづ」
いったい、何がどうしてこうなってるんだろう。
というか、今何が起こった?
信じられないけど、でも、俺だけが聞いたんじゃない。華月もちゃんと聞いていたのは華月の反応から明らかだ。
つまり。
今、この目の前にいる…。
「この猫、しゃべったよね」
二人の声が、重なった。
目の前のそれ、つまり猫は、俺たちを見上げながら、ふにふにと白いしっぽを動かしている。何事も無かったように。
でも、間違いではないようだった。
確かに、“聞こえた”。
──『オマエ モウスグ キエル』と。