第6話 ある考え
(僕の事は放っておいてくれないか……僕の事は放っておいてくれないか……)
秀の言葉が、和葉の心の中でこだまする。大泣きした次の日、国語の授業の時間、和葉はショックがおさまらず、授業に集中できないでいた。
(放っておけるはずないよ、だって、あんなに仲が良かったのに……)
中学生になってからだ。秀がおかしくなったのは。
(中学生になる前に、何かあった……?あんなに生気のない、冷たい秀なんて初めて見た……)
和葉はちらりと、2、3席離れた斜め前の秀のうしろ姿に視線をうつす。男子なのに透き通る白い肌、栗色の髪。髪を耳にかける仕草がかっこよくて、和葉は好きだった。
(何があったのか、知りたい。けど、どうしよう?)
秀の方から話してくれるとは、到底思えない。
それにしても、昨日は相当ショックだった。自分で結構繊細なんだなと、和葉は思った。が、好きだからあんなにショックだったわけで、繊細とはまた少し違う。ある意味お気楽な思考とも言える。
まだ授業は1時限目であるが、秀とは目も合わせていない。心がチクチクと痛む。あんな冷たい態度をとられたら、また泣いてしまうだろう。
大丈夫、秀は心を閉ざしてるだけだ。嫌われた訳じゃないーーと自分に言い聞かせる。
(多分、そうだよね、嫌われた訳じゃない。挨拶だって返してくれたし。何があったのか知りたいけど、秀は知られたくないのかなぁ。無理に聞いたら嫌われそうだしなぁ)
シャープペンシルをくるくる回しながら、和葉は考える。
(……あ、そうだ、秀の家に行ってみようかな?久しぶりに秀のお母さんに会いたいし……。でも、また冷たい態度とられちゃうかな)
秀の家に行ったところで、秀の身に何かあったのかわかるとは限らない。でも、秀の母なら何か知っているかもしれない。和葉は悩む。
(……うん、行ってみよう。冷たい態度とられても、気にしなければ……)
気にしない自信はなかったが、それくらいしか方法はない。勇気を持って行ってみようと、和葉は思った。