第3話 かつての想い出
(わ、バラだ、キレイ……)
和葉の好きなピンクのバラだ。基本的に花は好きだが、中でも特別に好きだった。和葉は立ち止まって、バラの花に見入っていた。加奈は和葉が何を見ているのかわからない。立ち止まった和葉を見て、キョトンとしている。
つるバラは、美しくきらびやかに咲いていた。
(そういえばずっと昔だけど、秀とバラ園に行ったなぁ。覚えてるかな?)
幼い頃、親も付き添いで秀とバラ園に行ったことがあった。幼い和葉の目には、とにかく美しく、可愛らしい花に見えた。色とりどりのバラ園の中を、秀と走りながら見て、美しさに酔ったのを覚えている。子供の頃から心に焼き付いて離れない、大切な想い出だ。
(秀、どうしたんだろう?私にも言えない悩みがあるのかな……)
和葉は目を細め、そっとため息をつく。
「ねぇ……和葉、何見てるの?どうした?」
「え?あ、ううん、何でもない。ごめんね」
和葉はそう言うと歩きだした。たくさんの花びらが舞う道の中、二人は歩いていった。
(そうだ、LINEで聞いてみよう!)
和葉の風呂上がりの黒いロングの髪に、水がしたたり落ちる。タオルでわしゃわしゃと髪を拭く。下着とパジャマを着ると、2階の自分の部屋へ行く。肌のお手入れと髪を乾かすと、スマートフォンを手に取った。現代にはLINEという便利なツールがある。直接聞くのは気まずいので、LINEを使って聞いてみようと和葉は閃いたのだ。
(え……と)
指で素早く文字を打つ。
《今日、元気なかったね。どうしたの?》
1、2分すると、すぐ既読マークがついた。やった、秀は見てくれているのだ。
(返事返ってこないかなぁ……)
そわそわしながら、和葉は待つ。が、10分、20分経っても返事は返ってこない。また指で、文字を打つ。
《秀?一体どうしたの?返事ちょうだい》
また1、2分したら既読マークがついた。しかし返事はいつまでも返ってこない。