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想い出のバラ園  作者: 月野メグ
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第1話 貴方へ

二人の想い出。

それは美しく咲き乱れるバラ園。赤、ピンク、青等様々なバラが、園を彩る。

そこで、約束をしたんだよね、秀。あの約束。覚えてるかな?

私のこの想いが、あなたに届きますようにーー。


AM7:30ーー目覚まし時計が、けたたましく鳴る。布団を頭まで被っていたが、布団から手をだるそうにニョキッと出し、時計のボタンを押す。時計の音が鳴り止むと、再び手を布団に引っ込め、グウグウと眠り始める。


「何やってるの和葉(かずは)!遅刻するわよ、起きなさい!」

母の大きな声が、部屋中に響く。

「ん~……あと5分……」

いかにも眠たそうな声で、絞り出すように和葉は言う。

「何言ってるの、ほら、今日入学式でしょ!!遅刻なんてしたら恥ずかしいわよ!」

そう言って、母は和葉の布団をバッとめくりあげる。

「……何するのよ」

「起きるのよ、ほら!」

母はそう言うと、学校の制服をクローゼットから出して、布団の上に投げておく。和葉はだるそうに起き上がると、目を擦りながらパジャマを脱ぎ、制服へと着替える。

「あとちゃんと顔も洗って!ご飯も食べるのよ」

「えー、朝ご飯食べてたら遅刻しちゃうじゃない」

まだ若干眠たそうな声で、和葉は言う。

「じゃあ、少しでもいいから何か食べてから行きなさい。わかったわね?」

「はーい」

気だるそうに和葉は言う。

(あ、そういえば、(しゅう)とも中学一緒なんだっけ)

和葉は閃いたように思い出す。顔が一瞬パァッと明るくなる。

(クラスも一緒だったらいいな……)

和葉には自慢の幼馴染みの、児島秀一(こじま しゅういち)がいる。容姿端麗で、勉強もスポーツもできる、パーフェクト男子だ。

いつからかはわからないし、本人も自覚していないのだが、淡い恋心を抱いていたのだ。


(ふわぁ~、色んな生徒がいる!)

体育館で、校長先生のヒマな話を聞いてるなか、和葉は自分のまわりをキョロキョロと見回していた。真面目そうな子、ちょっと不良っぽい子、大人しそうな子、様々だ。クラスごとに縦に並んでいるのだが、和葉のクラスの男子生徒の中には秀がいた。秀の後ろ姿を見ると、和葉はドキッとした。

(あ……秀……!)

甘美な想いが、和葉の心に滲み出てくる。自分でもこの想いはなんだったのか、わからなかったが、心がドキドキして、少し胸が苦しかった。それが恋だとも知らずに……。キュウウと胸が締め付けられる。和葉は胸に手を当てる。頬が少し火照っていた。


校長先生の長い話が終わると、生徒達は自分のクラスの教室に移動する。和葉は1-B組だ。ラッキーなことに、親友の橋本加奈(はしもと かな)とも同じクラスだった。和葉と加奈は席が少し離れていたが、お互い目が合うと、両者とも親指を立ててウインクし合った。

和葉は秀とも席が少し離れていたが、どこか秀の様子がおかしいことに気がついた。

(……秀?)

秀は幼馴染みだ。幼稚園、小学校共ずっと仲良しで、和葉にとって何でも話せる異性だった。

いつもなら同じクラスなら同じクラスで、話しかけてくるなりしたのだが、今の秀にはそんな様子はない。どこか生気のないように感じられた。

(秀、なんか、変。どうしちゃったんだろう?)

和葉はペンケースから消しゴムを取り出し、秀めがけて投げた。秀の肩に当たる。少し栗色がかった髪を耳にかけると、和葉の方に振り向いた。和葉は目が合うとにっこり笑う。秀は少し目を見開き、驚いた様子で和葉を見る。と、すぐに暗い表情をして、消しゴムを持ち、席を立って和葉の方に歩いてきた。

「……消しゴム、お前のだろ?」

予想以上の暗い表情、そして目の生気の無さ、素っ気なさに、和葉は一瞬言葉をなくした。

「え?あ、う、うん…… 」

どこか気まずそうに、目をふせて、和葉は答える。何か気に障ることでもしたのだろうか、と和葉は思う。否、そんな感じはなく、誰にでもそんな態度をとっているように思える。明らかにおかしい。秀は心を閉ざしている。そんな風に和葉は見えた。



優しく生暖かい風が吹く。桜がフワリと舞い散り、道に桜吹雪が起きる。入学式が終わり、和葉と加奈は道に並んで歩いていた。

「それにしても、同じ組でホントに良かったよね~」

加奈は心底嬉しそうに言う。

「うん……そうだね」


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