おっさんの声とか無いわー
「なろう」には初投稿の作品です。頑張って書いたので、最後まで読んでいただけるととても嬉しいです!よろしくお願いします!
「はあ~、やっと買えたぜ。」
俺、一条トウマは、長い長い電車の旅を乗り越えてやっと手に入れた人気ゲームの初回限定版を手に、優越感を得ていた。
今はその長旅の帰り道。ガタンゴトンと揺れる電車に揺られ、早く家に帰ってこのゲームをプレイしたい、それが今の俺の1番の願いだ。
「ったくー、アニマイト限定販売とかふざけやがって!俺の家は田舎なんだからそんなアイランドねえんだよー。店舗拡大しやがれっ」
とんでもなく自分勝手な願いをぼやきながら、俺の心は天に昇天しそうだった。
そのとき、俺の乗っている電車が急ブレーキをかけたのか、
キィィィィィという音を立てている。
しかし電車は一向に止まる気配を見せず、むしろスピードが上がっている。
「な、何が起きてるんだ!?」
俺は慌てて、窓に顔を思いっきり貼り付けて外の様子を伺った。
すると眼前に見えたのは大きなカーブだった。
(そういえば、広島カープって広島カーブでも違和感なくね!めっちゃ球曲がるよ的な!)
ってそんなこと言ってる場合じゃねえーー!
どうする、俺どうする!
このままのスピードであのカーブに突っ込めば、脱線して事故が起きることなど目に見えている。
ゲーム攻略のことしか考えてこなかった頭に、いきなり大事件を防ぐ方法を考えろって言われたって無理な話だ。
マエケンが、じゃなくてカーブが眼前に迫っている。
「くそっ!ここで俺の人生終わるのかよーーーーー!」
♢♢♢
「生き...てる?」
なぜか俺は浮いていた。床も天井もなく、横を見れば終わりなんてないのではないかというほどに果ての見えない空間の中に、俺は漂っていた。何が起こっているのか見当もつかない。
「いったん頭を整理してみようかー。えーっとー、俺は電車に乗ってて広島カーブでよくね!って話になってー、いや、そういうことじゃなくて!なんだったっけー、えーっとー」
「おっ前よく喋るなー」
いきなりおっさんの声が聞こえてきた。しかもちょっと悪口?
俺は、突然すぎることに驚くも、なんとか自我を持って得体の知れない声に問いかける。
「えっと、あんた誰?
俺的には美少女女神が俺の前に降臨してきて、きゃっきゃうふふを期待してたわけで、
帰ってもらえる?」
これは俺の心で密かにラッピングされてあった願望であり、そして自我である。常日頃から美少女とのハーレムについて脳内会議を開いている俺としては、さっきの言葉は漢のロマンも含めての言い分である。
「お前ってけっこうきついこと言うなー。
わしだってこの仕事に就いたばかりの頃は美少女ハーレム願望もあったさ!でも現実を見てみろ。美人な子はイケメンによっていくんだよ!わしなんてノミ扱いだよ!生き物であるだけマシって言われたんだけど!女って怖えよぉぉぉ!」
得体の知れないおっさんが悲痛な叫びを上げている。
(うっわ、その女ひっでえ!ちょっと同情するなぁ)
真実は残酷だ、という言葉があるが、あれは決して間違ってはいなーい!俺もそう思うよ、おっさん!
同志を手にした今の俺に敵などいない!
俺は現実をうっかり見てしまった同志に慰めの言葉をかけてやることにした。
「なあ、おっさん。俺はお前のことぜんっぜん知らねえけど、俺もハーレムを追い求める身!その気持ちはわかるぜ!男はハーレム求めたくなるよな!同志よ!」
俺も日々ゲームの中でハーレム生活をおくっているため、あの子たちがいきなり俺のことをノミと言ってきたときのショックは計り知れないものだということはわかりきっている。
おっさんはわかってくれたか、という声で話し始めた。
「いやぁ、わかってくれるってこんなに嬉しいものなんだねえ、ぐすっ。では自己紹介をしようか、同志よ!わしは天の声じゃ!」
「天の声?うん、それでー?俺はどうなってるのかな?」
今俺はふざけた自己紹介にキレているが、寛大な心で続きを促す。だって同志だからな。
「少々話が長くなるがよく聞けよ?
まず、お前は死んだ。電車の人身事故でな。若くして死んだお前をかわいそうに思った神たちが、お前にたっぷり残された余生をおくらせてやろうと、お前は今ここにいるんだ。
ここまでわかるか?」
「うーん、まあなんとなく!」
正直、全然理解できていないが話が長くなるのも嫌なのでわかったふりをした。てか、いつまでもおっさんと話をする趣味は俺にはねえ。
「うん、理解が早くて助かる。
そこでだな、お前を異世界に転移させようと思う。それの確認や説明をしたいんだがいいか?」
これはキタぞ!これから俺の異世界ハーレム生活が始まるんだ!
この時だけは死んでよかったと思う。
(んもう、神様ったら~。これはなんのご褒美?俺って何かいいことしたっけ~。
あ、そっか!俺は生まれてきただけで神様に感謝される存在だったんだ~!きっとそうに違いない!)
「えっとー、妄想してるとこ悪いけどお前を転移させておk?」
なんか俺の人生を軽い調子で決められそうになってる気がするが、今は見過ごしてやる。
そして、俺の答えは決まりきっていた。両手の親指を立てて他の4本の指を握った手を前に突き出したGoobサインを出した。
「もちろんオッケー!いつでも転移させてオッケーよ!あんためっちゃいい奴なんだなー!見直したぜ!」
「いやぁ、そんなことを言われると照れちまうぜ!じゃあ、詳しく説明するぞ!
お前は初期装備も宿も用意されている好待遇!感謝しろよ!
まず、お前の転生先は宿屋のベッドの上だ。
さあ!いきなりで悪いが、寝てくれ!」
「ん?寝る?ああ!そゆことか!俺が寝てる間じゃないと異世界に転送できないってわけか!」
なるほどな。けっこう本格的じゃん。なんか魔法的なものなのに妙にアナログなところとか異世界間でてるよ!さすがだな!
「いや、別にそういうわけじゃなくて、ただ雰囲気を盛り上げるためのいわば前振りみたいなやつかな?」
今の俺のこめかみにはきっと怒りマークが出ていることだろう。
なるほどなー。けっこうしっかりした雰囲気あるじゃん?魔法的なものに遊び心とふざけ心入れすぎちゃったーみたいなーぁ!ふざけんな!
「はぁ、まあいいや。さっさと俺を転移させてくれ。なんかもう、お前に逢いたくねえわ」
「ええ~マジで~!わしはまたトウマに逢いたい~!」
「はあ、まあもう少しで美少女ハーレム生活が俺を待ってるんだ。我慢だ...我慢だ...」
俺はうっざいおっさんの話に耳を傾けないようにした。
「はい、じゃあ寝ろー。あ!もしかして眠れない?わしのこの美声で子守歌でも...」
「却下。おっさんの子守歌を聞く趣味だって俺にはない」
てか、このおっさん。いつからオネエキャラに変わったっけ?
どうでもいっか!
その時、俺の耳に見過ごせない声が聞こえてきた。
「えーっと、まずはこのボタンを押して...ああ!まー違えちった!でも大丈夫。次にこのボタンを押せば...あ...まいっか!ポチッとな!では、また会おう!トウマ君!」
「おい!おっさん!絶対なんか間違えただろ!おい!おっさーーーーーーーーん!」
俺の声は無情にも響くだけであった。