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魔石調律のお値段は?  作者: クルースニク
間章 さすらいの美少女料理人
9/11

第二話

 ジンウルフは、エーデルカ西の広大な森林群を棲み処にしていた。

 その森林群の全容は現在も把握し切れていない。

 人類未踏の地を目指して探検隊が何度も挑戦しているらしいが、奥へ行けば行くほど強大な魔物が存在し、幾度の戦闘の末に撤退を余儀なくされているそうだ。

 ジンウルフは比較的浅い場所に棲むので、トウタには関係ない話であった。


 エーデルカから馬の足で三時間。

 森林群に到着したトウタは、松明を手に森の中を散策していた。

 食料や解体するためのナイフを詰め込んだバックを背負い、剣を腰に提げて注意深く進んでいく。


 ジンウルフは群れで行動するため、槍よりも剣の方が対応しやすい。

 木々の間で戦うため、槍が扱いづらいというのも一因だった。


(しっかし、相変わらず陰気な場所だな……)


 木々の枝葉から見える陽光がまるで星のようだ。

 王都の特務部隊で働いていた時、やむなく日が落ちてから冒険者の救出に来たことがあるが、あまり遜色はなかった。


(さてと、この辺でいいな)


 三十分ほど歩いたところで、トウタは足を止めた。

 あまりにも浅い場所だと、魔物が警戒して出づらい。そのため、ある程度奥まで進む必要があった。


 火を警戒しているからか出てはこないが、魔物の気配はある。地面の枝が折れる音や生臭い血の匂いを幾度となく感じていた

 トウタはその場で深呼吸し、気持ちを整える。剣を抜いて中段に構えた。


(……いくか)


 覚悟を決め、松明の火を消した。

 瞬間、魔物の気配が大きくなるのがわかった。そこら中でパキパキと枝葉を折る音が響き渡り、獣の荒い息遣いが耳に届く。


 間合いに入った。そう直感し、トウタは魔術を発動する。

 魔石の輝きは、白。トウタを中心に放たれた光が、辺りをあまねく照らし出す。


 それは一秒もなく消えてしまう。しかし、それだけの時間があれば、夜目に優れたジンウルフの目を焼くには十分過ぎた。

 炎球を一つ右肩の上ほどに生み出して明かり代わりにすると、地面を転げ回る数頭のジンウルフの姿が目に入った


 闇夜に溶け込むような漆黒の毛並み。体長は一メートルを超え、真っ赤な口蓋からは鋭い牙が覗く。まともに戦えば、かなり厳しい相手だったろう。


 間近に居た魔物の頭部を、トウタは一振りに切り落とす。鮮血が散った。

 剣を握るのは久々だが、腕は落ちていないようだ。それとも技術など関係なく、剣の切れ味が良すぎるのか。


 漠然とそんなことを考えながら、次のジンウルフの下へ向かう。

 食べる分だけ、というわけにはいかない。生かして帰して、あとで襲い掛かられては目も当てられない。

 全てのジンウルフに止めを刺し、ようやくトウタは解体に入った。


(まあ、こんなもんか)


 適当に肉のブロックを切り取り、紙に包んでバックに入れる。

 炎球は松明に移して消していた。魔術を発動し続けるのにも精神力が必要で、トウタはそれほど多くない。あまり使い続けると集中力が欠けて、最終的には意識を失って倒れてしまう。


 目的を遂げたトウタはバックを背負い、来た道を戻り始めた。

 思っていたよりも早くことを終えられた。あとは帰り道さえ注意すればいい。


(これであの報酬は確かにうまいな。ライラには感謝しないと)


 ディナーぐらい奢ってやろう。そう、これからのことを考えて頬を緩めた時だった。

 耳を劈く咆哮が後ろで上がったのは。



 怒り、殺意、悲しみ、あらゆる負の感情が込められた絶叫に、トウタは身を竦ませた。


(や、ばい……ッ!)


 本能が体を走らせた。伸びた枝が肌を裂くのにも構わず、来た道を全力で戻っていく。

 しかし、出口の光は見えない。膨れ上がった殺気が、背後から近付いてくるのがわかった。

 追い付かれる。そう直感し、再び光の魔術を放つ。

 辺りが真昼のように晒し出され、対象の目を焼く。そのはずだった。


「――っ‼」


 右肩に鋭い痛みが走る。直近に血の匂いが立ち込め、それが自分の物だと気付くのに時間は掛からなかった

 光が止み、トウタが松明を手に振り返ると、そこには人型の姿をした魔物が立っていた。

 身体中を埋め尽くすのは、ジンウルフと同じ漆黒の毛皮。手足は丸太のようで、毛並みの上からでも強靭な筋肉が見て取れた。十の爪は、鍛冶師の研いだ刃物の如く鋭い。

 

 恐ろしいのは、その肉体だけではない。魔物は目を閉じていた。咄嗟に光を回避したのだ。人に近い知能を持つといわれるその魔物の名は。


(ワーウルフ……ッ! なんでこんな浅い場所に、こんなヤバい奴が……ッ)


 本来ならばもっと奥地へ存在するはずの魔物だ。血の匂いにつられて出て来たのか、それとも同胞が殺されて放っておけなかったのか。

 どちらにせよ、まずい状況だった。

 トウタにとって、こういう肉弾戦タイプの魔物は酷く相性が悪い。


 ワーウルフが目を開く。血走った赤い瞳がトウタを捉える。

 両足の筋肉が膨れ上がった。


(来るッ……!)


 松明を放り、剣を鞘走らせる。

 明かりが地面に落ちるよりも早く、弾丸の如くワーウルフが飛び掛かってくる。

 突き出された右腕を辛うじて剣で受け、半身を開いて流す。

 反撃を試みた時にはすでに間合いの外。闇にその身を溶かしていた。


 トウタは炎球を生み出して明かりとするが、その光が届かない場所に身を潜めているようだった。

 どこから来るかわからない攻撃に備え、トウタは意識を研ぎ澄ます。

 しかし、一向に来る気配はなく、暗闇に光を灯し続けることに精神力が削られていく。


 ふと、視界に火の消えた松明が入る。

 火を移そうか、そんな甘い誘惑に誘われた直後だった。


「ッ……!」


 背後に殺気を感じ、振り返れば目前に鈍い輝きを放つ爪が見えた。


(死――)


 他人事のように、死を直感した刹那。

 その軌道が逸れた。否、反らされた。真横から飛来した長剣によって。


「え……?」


 凶爪は、トウタの真横を大きく外れていく。

 何が起きたのか理解できずに固まっていると、人の声が響いた。


「ヒーロー参上っ! ってところかしらね、ふふっ」


 この場に似つかわしくない、能天気な声だった。

 その声の主を振り返り、トウタは今度こそ思考を停止する。


 コックコートを纏った若い金髪の女が得意げに笑い、立っていた。


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