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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
永遠の森
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悪魔の福音

「白狼。おそらく、裏切り者がいます」

暖炉の中で燃え上がる炎を眺める白狼にグラヴァー将軍が告げた。

白狼は、無表情のまま暫く火を眺めた後、ゆっくりと視線をグラヴァーへと向けた。

「構わん。最早、そんな物に意味は無い」

白狼は依然として落ち着き払った様子で暖炉に一本の薪を投げ入れた。普段は暖かい南部の気候だが、既に冬を迎えて、季節の色は失われていた。

時間です、白狼。

部屋の前にいた兵が扉を開いた。白狼は静かに頷き、立ち上がる。

白狼は、ゆらりと身体を揺らして部屋を後にする。巨漢のグラヴァーに遠く及ばない引き締まりながらも女性らしい彼女の背中を眺めた後、グラヴァーも彼女に続いて歩み始めた。

白狼が長い廊下を歩み続けて、端に並んだ兵達が声を漏らして頭を下げる。一人一人が彼女に恐怖で潤んだ瞳を向ける。

白狼は、長い廊下をひたすらに歩き、正面から城の門を片手で押し開いた。

薄暗い城の中に、湿気た空気が流れ込む、空は灰色模様を広げ、小雨を落としていた。

城の外に出た白狼を迎えたのは、喝采と雄たけび。兵士や北部人が白狼に其々の声を上げる。

そして、最早過去のものになりつつある、グインの姿があった。

以前の太った身体はやつれ、覇気を忘れた瞳を白狼に向ける。怯えきった小動物のような目だ。彼は手足に枷を付けられて、かつて自身が蔑んだ北部人の目に晒されている。

「待て、殺すな。俺は王だぞ。王が王を殺すなど、蛮行にも程がある」

自身の余命を確信したが、彼は命乞いをした。その言葉も、大衆の怒号と喝采に掻き消え、飛散した。

白狼は、グインの隣に立ち、足で彼の頭を踏みつけた。

「お前達、南部人の作り上げた世界は、笑えたぞ。全てを奪われたあの日、私は笑いが止まらなかった。

最高のジョークだ。だから、私もお前達にお返しするよ。これが私なりのジョークだ。私に、気高い使命感や野心があると思っていたか?そんな物に私が興味を持つ筈もないだろう。どれも同じだ、全ては馬鹿げた小噺と同じだ。此処にいる誰もが私を理解できない、出来るはずもない。だが、私はお前達の事を深く理解している」

白狼はグインの頭を踏みつけたまま腰を静めた。小石が顔の側面に食い込んでくる苦痛に顔を歪めながらもグインは白狼の言葉に耳を傾ける。彼女のことが知りたくて、彼女の考えを理解したかった…。

「お前は、何のために今まで戦って来たんだ」

グインは口の中で土と小石を噛み砕きながら問い掛ける。

「分からないのか?バランスだ。人間の数も…全ては均等だ。南部人が北部人を殺したなら、同じ数だけ南部人が死ね。それがバランスだ。だが、それだけだと面白くないだろう?だから調味料代わりに私のジョークを加えてやった。狂った世界と言う香辛料だ。お前はあの世で、この世界の笑劇を見下ろしていろ。腹を抱えて笑うがいい。今までどおり、真剣に道化に徹する馬鹿共を見下ろしていろ。私を死ぬほど笑わせた御礼だ。私はお前達を愛してやまない」

グインは、白狼の心の内を聞いたが、理解することなど出来るはずもなかった。今までの戦いも犠牲も、彼女の中ではただのジョークだ。過去も未来も現在も…全てがジョークなのだ。グインは初めて後悔した。敵を良く知らずに戦う愚かさに打ちひしがれた。もっと良く頭を働かせていればこんなことにならなかったのでは?敵が悪魔だったことに気付けたのではないか?

これが私からの冥土の土産だ。白狼は立ち上がり。声を張り上げた。先ほどとの小声ではなく、自身が嘲笑う民衆に対しての言葉だった。

「今日で、この世界は変わる。いや、もう変わったのだ。お前達の手で、この世界の穢れの象徴は消え、我々は過去のしがらみから解放される。此処は理性と暴力の世界だ。狼の街だ。お前達は生きろ、理性で。そして暴力で他者を捻じ伏せろ。強欲に物を欲しろ。命を握り、誰にも渡すな。お前達は自由だ」

白狼は観衆を煽った。そして片手で太い大剣を振り下ろし、踏みつけたグインの頭を胴体から切り離した。グインが死ぬ瞬間に見たのは、自身の栄光の時か…それとも堕落に身を染めていた自分か…悪魔の狂気の笑みか…。

「解放の日だ。我々は長い旅の末に、永遠の森にたどり着いた!」

解放の日!解放の日!解放の日!

暗く灰色の空に声が響き渡った。まるで雲を突き抜けるような声を、観衆に紛れて一部始終を眺めていた、リアナ達は聞いていた。ただ、立ち尽くしたまま。




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