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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
騎士クラブ編
2/111

ソフィア=名誉クラブ=精霊騎士団

『王都には悲しみの雨が降っている。偉大な王エリク・ギュンテルが暗殺された。

偉大な王エリクは熱心な信仰者だった。

彼は、12歳でエアリーシュ大陸の南部(王の庭)で載冠、成人すれば大陸の実権を掌握した。

エリクがまず始めたのは、宗教政策だった。聖堂の建設し、他国の宣教師を呼び寄せた。

そんなエリクの宗教観は南部だけではなく大陸の人々の忠誠を勝ち取り、事実上で軍事的な圧力が緩和された(王の庭)は国内支配を強め、以前にもまして強国へと進んだ、と同時に多くの敵を生み出した。それは、異教、宗教観の違い、敵対国、または近しい友であったり…。かくして、エリクは43歳の夏、暗殺された。

王に男子はいなかった。世継ぎの指名もない。よって後継者は、警護長グインがエリク王の妻マリアドネと再婚する形で推載。エリク王は歌となり人々の記憶に永遠に残るだろう。そして、新たな王グインに神の寵愛があらんことを、、精霊騎士団』



ソフィアは、教会に貼り出された紙に目を向けた。紙には几帳面に文字が書きだされており、王の暗殺が事実であることを告げていた。書き手は精霊騎士団。聞き覚えはなかった。

「そなた、それが読めるのか?」

自分でも気がつかないほどに集中していたのか、隣に人がいるとは思わなかった。

ソフィアは、はい。と短くも確かな言葉で肯定しつつ、視線を文字から声のする方へと向けた。

声の主は美しかった。夜の月を思わせる長く淡い金髪が、白い頬を撫でて揺れ。瞳は雲ひとつない空のように青く、深く輝いている。声は澄んでいて、落ち着いたリズムで言葉を刻む口調は、農民や商人とは縁のない、気品を漂わせていた。要するに、正真正銘の美人である。

突然の光景に言葉を失うソフィアを見兼ねてか、その少女は薄く笑みを零しながら張り紙を指差して

「どう思う?」と一言。

ソフィアは、自分が試されているような感覚にさらされた。

「王様が死んで、王都も大変でしょう?」

「そうでもない、王は常に変わるからな。今回は特殊だが、生きて退位出来る王は少ない。それにしても、私が王都の出身だと良く分かったな」

「ベルガモット、の香りがしましたから…。この辺では見つかりませんし。何より高いですから」

美人は、ソフィアの応答を聞いて少し驚いたのか、数回まばたきすると、ふむ、と一人納得した様子でソフィアを眺めた。青空のように澄み切った瞳は、ソフィアに興味を持っているといわんばかりに心の奥底を覗こうとし、深く、深く、ソフィアの脳裏に焼きついた。

人から、しかも名前も分からない他人から、真剣に見つめられることに慣れていないソフィアは奇妙な羞恥心にさらされ、とっさに視線を地面へと伏せた。

「この張り紙、書いたのは私だ。文は適当だが」

再び、ソフィアの視線が彼女に向けられた。

「じゃあ、貴女が精霊騎士?」

「ふふ、確かに私は精霊騎士だ、正確には精霊騎士団の騎士だ。いまどき騎士団など珍しいだろ?騎士道なんてものを信じてる騎士も少ない。もちろん、私は信じている、騎士道ではなく、高潔さや美徳を」

「王様に仕えてるのでしょう?」

「王には仕えていない、私達が仕えてるのは教会だ。だが、王のために仕事をしている」

「王のために…?」

「興味があるのか?私達に」

「多少…」

「ふむ、見たところ、そなたは頭がいい。字の読み書きもできる。私と一緒に来るか?」

「え!?」

「そなたは騎士ではないが、騎士でなくとも仕事はある。騎士でも字が書けるやつは少なくてな。いま、私のところでは、字が書けるやつを絶賛募集中なのだ」


彼女の話を聞けば聞くほど、怪しい感じが強くなる。それと同時に強く興味をそそられた。

この場所に住んでから、外の世界に興味を持ったことなどなかった。世界は小麦と水とミルクとパンと教会と税で構成されていて、この村の王はエリクやグインではなく、領主のサー・スティーグ。

歴史や歌は知っていた、ソフィアは読書が好きだし、読書のために読み書きもおぼえた。

そして何よりも、ソフィアには外に、世界へ行きたい理由があった。

「行きたいです…」

無意識に放たれた言葉だが、言った後に後悔した。もう少し考えても良かったのではないか?この怪しい宗教騎士と共に旅立つのではなく、自身、単身で旅立つほうがマシかも…。しかし、ソフィアは余りに世界に対して無知であり、身を守る術さえ知らない。裸同然の無防備で無邪気な赤子で、彼女は世界の恰好の獲物だろう。今は彼女を信じてみよう。少しだけでも…。ソフィアは名前も知らない美人を信じてみる、そう決めた。

「私はソフィア・イェルダです」

「名前を言っていなかったな、私の名前はジャンヌ・イングリッド・シェーグレン。精霊騎士団団長だ」

ジャンヌの笑みは疑いを持たせぬほどの高潔さを兼ね備えた無邪気な笑みだった。ソフィアは記憶の深くに刻みつけた。いや、無意識に刻みついた。彼女の笑みと、微かにくすぐる、ベルガモットの甘くみずみずしい香りを。

















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