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騎士名誉クラブ  作者: 雪ハート
氷の森
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白銀の世界

夜が明けるのを告げるようにナイチンゲール(鳥)の鳴き声が響き渡る。ソフィアは王都に掛かる橋の上から流れる河を見下ろしていた。隣にはジャンヌとブラッドメイアーがいた。時間が迫る、下を流れる河のように刻々と、時の流れる音を聞いたような気がした。日が半分顔を出した。山からの零れ日が、静まり返った王都を照らす。

ソフィアはその光景を焼き付けた。瞼に、脳裏に深く深く。


しばらく、するとリアナとジオ爺がやってきた。

「お待たせしたかしら?」

ニコリと笑うリアナ、どうやら酔っていないようだった。

「リアナ様の準備が予想より長引きましてな」

ほっほっほ、と見事なまでに白く染まった髭を撫でるジオ。ソフィアは彼を近くで見るのは初めてだったが、かなり長身だった。片方の目には深い切り傷があり、苦労が見てうかがえたが、身体は逞しく、戦闘によって洗練されていた。

その後、フレイムとスノウ。アンヌとアベルが来て人足が途絶えた。どうやら、他の三人は来ないようだ。無理もなかった、北部までは遠いし、何よりも危険だ。


北部はエリク王の弟バルレルが監督役として統治しているが、エリク王に迫害された人々、いわゆる異教徒が多く集まる北部は長年の恨みをため込んでいる。氷に覆われた冷たい大地で研ぎ澄まされた彼らのナイフは、冷酷かつ残酷に南部の人間の喉元に突き刺す準備がされていた。そして、突如として現れたのが老王ボニファティウス。彼は自らを『北部の王』と名乗り、北部果ての地『北の果て』で迫害を受けた人々を束ね、南部に宣戦布告した。以後、北部では激しい紛争が続いている。争いが少ない南部とは最早、別世界だ。


「では、行こうか」

もう残りの三人は来ないだろうと判断すれば、ジャンヌは此処にいる全員を一瞥し告げた。

「これで全部かよ、あいつら逃げたな」フレイムが一言。

「あら、貴方が来なければ三倍は快適な旅になりましたのに」リアナが皮肉を漏らす。

「うるせえ、リアナ嬢。俺とスノウはお譲と同じ北部出身だぜ?きっと役に立つ」

なんの根拠のないフレイムの言葉にスノウがコクリと頷いた。

「あたしとアベルはぎりぎりまで迷ったけどね。でもまあ、ちびちゃんが行くんだからあたし達も行くよ」

アンヌが呟きながらソフィアの方に視線を送る。ソフィアは振り向き、肩越しに自身の背後へ視線を向けた。背後にはブラッドメイアーが座っていた。尖った耳を立て、長い舌をぺろりと垂らしてはあはあと吐息を漏らしている。アンヌが言った「ちびちゃん」はブラッドメイアーに対してだろうと、ソフィアは思うことにした。そんな緊張感のないやり取りをジャンヌとジオとアベルの三人は苦笑気味に眺めていた。


全員が馬車に乗り込めば、そのまま『砂漠の花』の畔を目指す。ハニーワイン河、7万坪以上の巨大な林檎農園『ゴールデン農園』を横切る。途中で、大量の荷物を馬車の積み荷に乗せて運ぶ行商人や巡回中の兵士たちと擦れ違う。フレイムは返事を期待できないスノウに1日中話しかけていたし、アンヌとアベルの双子は時たまに歌を口ずさむ。ジオは眠り、リアナは一人で流れる景色を眺めている。南部の優しい爽やかな風になびくジャンヌの金色の髪。騒がしい気ままな旅ならどんなに楽しかっただろうかとソフィアは一人、微笑むジャンヌの横顔を眺めながら考えていた。

 

肌に刺さる風が次第に冷気を帯びたものになったのをソフィアは感じた。緑色の景色はいつしかなくなり、薄く漂う霧の中で見える風景は白く白くどこまでも白。その白さがソフィアの不安な心を更に駆り立てた。

身体が無意識に震える、小刻みに震えるソフィアの身体にジャンヌが寄り添い問いかけた。「寒いのか?」と…。

寄り添うジャンヌの体温とベルガモットの香りに、ソフィアの震えは止まっていた。

帰れるだろうか、南部に…。出来れば皆で帰りたい。目を伏せ、ソフィアはそんな事ばかりを考えていた。

『砂漠の花』に近づくにつれて、気温は下がり、目に見えるのは霧の中で舞う雪と、どこまでも伸びる白銀の世界だけ。ソフィアはこの世界に取り残されたような気がしてならなかった。







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