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武装契約者の学園記  作者: 猫颯
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◆噂◆

 噂。それは、根も葉もないどころか実態があるかどうかも怪しいもの。

でも広まった噂には、根ないが骨が。葉はないが、鰭が。実態はないが、身が付いていくものである。

 そして今夜も、噂の真相を確かめようとするものがいた。

その噂は、よくある噂の一種に過ぎない。

だが、よくあるからこそ人の興味を引き付けたのかもしれない。

 草木も眠るような丑三つ時。一組の男女が、薄暗い洞窟の中へと入って行く。

 「ねぇ、本当に大丈夫かなぁ?」

 「心配すんなって!あんなのただの噂に過ぎないから!それに、俺たちだってもう二年だ。〈契約種〉との信頼だって深まってきてるし、心配いらねぇよ。それにここは、学園が使っている洞窟の中でも難易度はかなり低いしな」

 とある噂を確かめる為に男女が訪れた洞窟は、確かにここ〈エフェリタ学園〉が使っている洞窟でもかなり難易度の低い一年生向けの洞窟だ。

その洞窟の名は、〈禊練の洞窟(みそぎれんのどうくつ)〉。(名前が長いため、〈みそれんの洞窟〉とも呼ばれている)新入生である一年生が、戦闘の基礎などを学ぶために使う洞窟だ。

そのため中にいる、〈暴走種〉と呼ばれる他の〈種〉〈族〉のレベルも低い。

 その中を一年間知識と戦闘技術を積んできた、二年生である自分たちが行くのだ。

不安なことなど何一つ無いのだろう。

 「でも、実際に何人かの生徒が返り討ちになってるんだよ?」

 「あぁ、そんだけ強いんだったら文句はないだろ?」

 「文句がないとかの問題じゃないんじゃ」

 「大丈夫だよ。返り討ちにあっているのは、一年だけだし。それに、死亡者の話は聞かなかっただろ?」

 「それはそうだけど……」

 そんなことを話しながら、二人は道を辿りどんどん奥へと進んでいく。

そして、ものの数分で一番奥までたどり着く。

 「?なにも居なかったな」

 「そうだね。普段なら見るはずの〈暴走種〉の姿も見てないし?」

洞窟の中は、異様なほど静かで物音一つない静寂の中に包まれていた。

 「やっぱり、あの噂はただのでっち上げだったのか?」

 「そうだとしか考えられないね。もう帰ろっか?」

 「そうだな」

二人はそう話し合い、帰ろうとした。その時……

 がたっ。奥の祭壇で音が鳴った。

 「んっ?なんの音だ?」

 「さぁ?」

 二人が振り返ると、さっきまでは誰も居なかった祭壇の上に一人の少女が座っていた。

その少女は、深海を思わせる蒼黒の髪と夕闇を思わせる青紫の瞳を持つ美少女だった。

 「なぁ、あんな子居たっけ?」

 「嫌居なかったと思うけど……」

 祭壇の上の少女は、こちらを見て微笑む。

 「ここでは、始めてね。新入生以外を見るのは」

 「何のことだ?」

 「それよりあなたは誰?」

 「あなた達は、気にしなくていいのよ。どうせ、ここで死ぬんだから」

 「ここで死ぬ?何を言ってるんだ?こんなところで死ぬわけないだろ?それよりも質問に答えろよ。お前は、誰だ?」

 その質問に少女は、首を振り答えない。

そのかわり、またもや彼らの背後で物音がする。

ただし、その物音は生物の息遣いに近かった。ふしゅぅ。ふしゅぅ。と息遣いが、かなり近く感じる。

 「なんだ!?」

 青年が弾かれたように振り返ると、そこには異形の化け物がいた。

体は、黒いどろっとした液体に塗れており、人型と言う以外に判断が出来ない。手の中には、一本の槍が握られていた。

 そんな異形の化け物を、祭壇に座る少女は熱のこもった視線で見ていた。

 「あぁ。久しぶりの客人で、我慢できずにもう来ちゃったのね?じゃあ、私はこれで失礼するわ。この子たちは、あなたにあげるから」

そう言い残し、少女は〈ミスト・ハイド〉と唱える。その詠唱と共に、少女の体は霧に包まれたかのように薄く消えていく。

 「おいっ!待てっ!」

消えていく少女を追いかけようと、祭壇に駆けようとする青年の前に化け物が立ちふさがる。

 「くそっ!」

焦る青年に、少女が声をかける。

 「ねぇ、もしかして噂の〈暴走種〉ってこいつのことじゃ!?」

 「確かに、こいつかもしれない。ホントに居たのかよっ!」

 「どうするのっ!?」

 「どうするもこうするもない!倒して、〈暴走化〉を解いて〈契約〉してやるんだ!手伝ってくれ!」

 「もうっ!危なくなったら、逃げるからね!」

 「了解!」

 化け物は、こちらを警戒しているのか、なかなか仕掛けてこない。

だが、その時間は二人にとってありがたいものだった。

 「よしっ!今のうちに。〈我は、鋼を喰い、鋼を操るものなり。機械神アスチールよ、我が呼び声に答え我に力を!召喚(サモン)、アスチール!〉」

 「私も!〈我は、虫を住まわせ、虫と共にあるものなり。魔虫キリング・ビーよ、我が呼び声に答えよ!召喚(サモン)、キリング・ビー!〉」

二人は、自身と契約してる〈機神・契約種〉と〈魔虫・契約種〉を呼び出した。

二人の右側に幾何学的な、紋様が現れた。

 その紋様から、〈鉄機神・アスチール〉と〈蜂魔虫・キリング・ビー〉が現れる。

 「何か用か?主人」

 「私、眠いんだけど?」

二人?は、それぞれの主人に対してそれぞれが思ったことを言い始める。

 「ゴメンな?実は、あいつをどうにかして捕えたいんだ。力を貸してくれ」

青年は、二人に対して手短に状況説明をする。

 「わかった」

 「わかった~」

二人は、今ある状況を理解してくれたようだ。

 「よしっ!いくぞ、アスチール!〈我が魂を写し、汝の魂と混じり合い武器と成れ!契約武装・ナイトオブアックス!〉」

 「いくわよっ!キリング・ビー!〈我が魂を吸い、汝の魂と合わせ武器と成れ!契約武装・キルニードル!〉」

二人の手には、それぞれ一本の戦斧と一組の戦爪が握られあるいは、装着されていた。

 「一年間、訓練を続けてきたんだ。なめるなよっ!」

 「私だって、やればできるんだからっ!」

二人は、勇敢に化け物に立ち向かっていった……

 しばらく、洞窟の中には武器と武器がぶつかり合う音と、火花が舞っていた。

化け物は、槍を使いこなし数の不利さを感じさせないほど有利に戦っていた。

 「くそっ。こいつ、強すぎる!」

 「なんていう、強さなの!私たち、二人が押されるなんて!?」

 そんな劣性で、戦うこと数十分。

 「ぐあっ!」

 「きゃぁ!」

 二人は、祭壇の側へと追いつめられていた。

 「う……あな……たちの……魂……」

槍を構え、化け物はぶつぶつと呟きながらこちらに一歩、また一歩と近づいてくる。

 「くそっ!ここまでか」

 「一旦出直そうよ!」

 「そうだな。よしっ!〈我は、帰還の命を受けし者なり。我が命を完遂するために我が身を送り届けろっ!【バック・ホーム】」

 帰還呪文を唱えた、青年の体を黄緑色の光が包み込む。

この呪文は、唱えた対象者を自分が本拠地として定めたところまで、送り届けてくれる。いわば、〈テレポーション〉だ。

同じ呪文を唱えたのだろう。少女の体も黄緑色の光に包まれていた。

そして、青年たちの体を包んでいた光がよりいっそう強く光青年たちの体は、学園の校門まで転移して、いなかった。

 目を開けば、先ほどと同じ洞窟の風景が広がる。

 「なっ!なんで、校門前じゃないんだ!」

 「これはどういうことなのっ!?」

二人は、パニックになりながらも再び同じ呪文を唱えた。だが、結果は何度やっても同じだった。

 そんな中、化け物は青年たちの目の前へと迫っていた。

 「くそっ!〈帰還呪文〉がだめなら、ほかの呪文で!」

青年たちは、焦りの中必死に思いつく限りの呪文を試してみたが、どれもこれも成功しなかった。

 そのうちに、自分たちの〈契約武装〉にまでノイズが走り始めた。

 「どうした!アスチール!?」

 「どうしたの?キリング・ビー!?」

 「なぜか……実態が……」

 「ゴメン……もう」

その言葉を最後に、青年たちの〈契約種〉は消えてしまった。

 そして、とうとう化け物が青年たちの目の前へと到着した。

そして、青年たちの首元へ槍を突きつける。

 「あなた……ちの……を……べる」

 「くそっ!こんなとこで、死ねるかぁ!」

 「嫌よっ!まだ死にたくないっ!」

青年たちは、化け物を背に祭壇の方へと走り始めた。

 そんな、青年たちの横からさっきまで後ろにいたはずの化け物の槍が突き刺さる。

 「がっ!」

 「ぐっ!」

化け物は、突き刺さった槍を無造作に薙ぎ払う。

二人の体は、綺麗に切断され血が泉から湧くように次から次へと溢れ出す。

 その光景に化け物は、熱のこもった笑い声をあげる。

そして、青年たちの〈契約紋様〉の描かれている左手と右手を槍で切断し、おもむろに咀嚼し始める。

 その日の夜。その洞窟には、何かを食べる音だけが響いていた……

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