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虚空(そら)の深淵  作者: 神井千曲
第二部
13/19

1話 監察官

――現地時間午前10時頃 会議室

 この建物は、人工島ラピタにある未確認星域調査局本部が入った庁舎。そしてこの部屋は、その地下深くにある一室。一般職員は、まず知る事はない場所だ。

 幹部級職員しか入ることの許されないエリア。そこで開かれる会議ともなれば、各省庁の重鎮クラスが集まって行われる極秘会談だろう。まず俺など参加出来るはずもない。

 そう。そのはずだ。

 そのはずなんだが……。

 そのテーブルについた面々の前には、それはご大層な肩書きのついたプレートが設置されている。

 まぁその大半は、遠隔地からネットワーク経由で参加しているメンツで、ここに見えているのは実体のない虚影(ヴァーチャルビジョン)なんだがな。

 とはいえ……

 どういうワケか、その末席に俺が座っている。

 どうしてこうなった……。

 一応俺の前にも名札が掲げられてはいるが、知るものはいないだろう。

 他の参加者からは時折『誰だコイツ』と言いたげな視線が注がれ……いや、被害妄想かもしれんか。

 まぁ、いいさ。

 とりあえずは無視して、手元の携帯端末に配信された資料を読んでおくか。



 そうして待つことさらに十分ほど。

 壇上に現れたのは、ラインディース参事官だ。

 まずは簡単な挨拶。そして、彼の秘書がいくつかの報告を行った。

 主に最近行った探査の結果や、今後行う調査の予定などだ。

 この中には、先日俺たちが行ったトゥルス7での調査報告も含まれているんだよな〜。

 まぁ、仕方ないんだけどさ。正直、あまり取り上げられたくはない。

 そして一通り報告が終わると、その内容についての質疑が行われた。

 う〜む。あの件に関してはイロイロ問題があり過ぎるんで、スルーしてくれたら良いんだがな〜。

 思わず肩をすくめてしまう。

 時が過ぎるのが、かなり長く感じる。



――そして、しばしのち

「ところで、このトゥルス113での調査に関してですが……」

 参加者の一人が発言した。

 ……やっぱりダメだったか。

「一時的とはいえ調査船が鹵獲(ろかく)され、調査員が拘束されたとあるのだが……これは一体どういうことか?」

「調査途中に遺跡内から異星生命体が出現し、それが人類生存圏であるイシューラ星系にまで到達したとあるが……人的被害はあったのか?」

「カダインに異星生命体が降下してしまったそうだが……政治的な問題が発生する可能性があるのではないか?」

 などという質問が、他の参加者からも寄せられた。

 ……胃にちょっと痛みが走った気がする。

「その件に関しては、一応の決着を見た。リーダーである周防君の活躍でな」

 って、俺の名前出さんで下さい参事官! つか、指差すのは止めてくれ!

 ……そして俺に注がれる視線。

「若ぞ……いや、ずいぶん若いな」

「スオウ? どこかで聞いたような……」

 まぁ、そう言う扱いだよな。つか、軍での一件の事持ち出されやしないだろうな……

 今、軍にいる時にやらかした個人的な“暴走”の件に触れられるのはマズいだろう。

「ああ。紹介しておこう」

 と、参事官。

 ちょっ……待ってくださいよ!

 などと声を上げる間もなく。

「彼がイシューラ星系探査チームのリーダを務めた周防達麻君。周防管理局室長の息子だ」

 oh……。

 まぁいい。こうなりゃ仕方ないか。

「周防です。よろしくお願いします」

 開き直るしかない。立ち上がり、皆に向かって挨拶する。

 それはともかく……親父、管理局室長なのか。

 とはいえ、ここで親父の名前出されるのも俺としちゃ少々不服ではある。

 親の七光りとか、そんな風には思われ……

「ああ、あの……」

「まぁ、彼の息子ならそうもなるか?」

 ……へ?

 何やら視線が妙に生暖かい。

 『やらかすのも仕方ない』といった風にも見えなくもない。

 この組織での親父がした仕事については、あえて調べたりとかはしていなかったんだが……一体何やらかしたんだ?

 一度問い詰めねばならんか。

 俺は内心で頭を抱えつつ、固く誓った。



 そして、ようやく質疑が終わる。

 ああ……胃がヤバかった。

 俺にも直接質問されたりとかしたからな。

 まぁ、大体は納得してもらえたようだが。

 ともあれ、後で胃薬飲んでおいた方が良さそうだな。



 と、参事官が会議室を一通り見回し、おもむろに口を開いた。

「さて、諸君に集まってもらった目的は、もう一つある。新たな“監察官”が着任されたのだ」

「“監察官”、か……」

 会議室は、(さざなみ)のようにざわめきが広がった。

 歓迎、と言う雰囲気では無い。どの面々も、“監察官”というものに対しては思うところがあるようだ。

 まぁ、考えてみれば当然か。

 大抵の人間は“監察”なんぞされたくないからな。

 それも身元が明らかな相手ならいざ知らず、海のものとも山のものともつかない異星人の、ともなればな。

 ……というか、アイラ――いや、監察官としての名はフォージか――が来るのか。

 そういえば、着任直後に一度会ったきりだな。まぁ、俺なんぞがそうそう会える立場でもないか。ある意味彼女は超越者(オーヴァー・ロード)な訳だしな。



 そして一度裏へと戻った参事官とともに、監察官(アイラ)がやってきた。

 その顔には、初めて逢った時と同様の能面のごときマスク。そして身体を覆うのは、ベドウィンの様なゆったりとした服。

 なるほどな。この格好ならその“本体”の姿が分かりにくいか。アイラの姿はヒューマノイド、というより人類そのものだからな。

 一方、その姿が現れた瞬間、室内には緊張が走った。

 列席者は固唾を飲み、その一挙手一投足に注目する。

 にしても……アイラのヤツ、ずいぶん緊張している様だ。

 あの服越しとはいえ、その仕草を見るとな。おそらく他の連中には分からんだろうが……。

 そういえば監察官としては新米だったか。だが、サオラスが付いていないということは、一応一人前扱いということなんだろうが。

 ……そうか。

 俺がこの会議に呼ばれたのは、こういう理由もあるのか。

 アイラに向かって軽く手をあげる。

 と、彼女は俺の姿に気づいたようだ。

 よし。

 そして彼女に、落ち着く様ジェスチャーで伝える。更に声には出さずに口の動きで、『落ち着け』と言ってやった。

 他の連中はアイラの方を見てるので、気付かれることはあるまい。

 と、俺の一連の動きを見、参事官がニヤっと笑った。

 どうやら俺の解釈は当たりだった様だな。

 一方のアイラも、明らかに落ち着きを取り戻した様だ。やれやれ……。

 彼女は室内を一通り見回すと、おもむろに口を開いた。

「はじめまして。私はフォージ。この度アトラス連合より、監察官として派遣された。今後とも、よろしく」

 男とも女ともつかぬ、無機的な機械音声(マシンヴォイス)

 挨拶自体も、あまりにそっけない。

 が、“地球に赴任してきた異星の監察官”としては、こんなモノでいいのかもしれん。

 むしろヘタに人間的な面を出してしまうと、色々不都合なことも多くなるだろう。

 周囲の連中を見るに、畏怖なり猜疑なり、各々そうした思いを抱いている様だ。

 まぁ、上手いこと行った、とはいえるのだろう。



 そして、数人の出席者が参事官からアイラに紹介され、互いに挨拶を交わす。どれもこれも、ニュースでたまに見る顔だ。

 そんななか、一人の重鎮らしき人物が口を開いた。アレは……外務省の次官だっけか?

「ところで……我々はいつまで“監察”されねばならないのか?」

 その言葉に、会議室がざわついた。

 大半は、外務省次官の言葉を肯定している様だ。

 確かにそうだろう。上から見られている様なモノだからな。

 少なくとも、我々人類は恒星が放出する全エネルギーを利用することが出来る、カルダシェフ・スケールでいうところのII型文明になりつつあるし、また恒星間通信能力も得ている。そして何より、超光速航行も開発済みなのだ。そして、半径50光年ほどの光世紀世界レベルとはいえ、多数の星系をその版図としている。

 少なくとも、宇宙文明としては一人前といっても良い段階だろう。

 にもかかわらず、他宇宙文明との接触を制限され、あまつさえ監察を受けるという状況は我慢しかねる状況であるはずだ。外交の専門家としては。

 少なくとも、アイラと再会する前の俺でも、そう思っていただろう。

 だが、彼女の持つ装備品の数々。そして、あの怪物……

 間違いなく現時点では地球人類が太刀打ちできるものではないな。

 とはいえ、それを見たことのないこの会議の面々にはそうした事情を理解できないだろうが。仕方がないとはいえ、な。

 さて……アイラはこの問いにどう答えるつもりか?

 彼女は一瞬戸惑った様に視線を泳がせ……そして、俺と目があった。

 とりあえず、目でうなずいてみせる。

 と、アイラは落ち着きを取り戻した様だ。

 一つ息を吐くと、彼女は会議室の面々を見まわす。そして口を開いた。

「では、あなたがたに問おう。覚悟は、あるか?」

「覚悟、とは?」

 外務省次官が問い返した。

「そう。覚悟だ。死地に飛び込む、な」

「……死地、だと?」

「その通り。……もしあなた方が異種族と接したとき、一体どうするつもりなのだ?」

「どうする、か……。まず交渉し、外交を……」

「交渉出来ぬ相手であれば?」

「……相手が知的生命体であれば、わずかでも交渉の余地はあるはずだ」

「なるほどな。では……交渉していただこう」

「交渉、と言っても相手が……」

「ここにいる」

 フォージは懐から取り出した石を机上に置いた。

「……何のつもりだ?」

「交渉だよ。今ここにいる“彼”と交渉していただこう」

「……ふざけているのか?」

 外務省次官は、当惑の声を上げる。

「大真面目だよ。あなた方は主張しただろう? 知的生命体なら交渉の余地があると。ならば、このケイ素生命体と交渉が可能なはずだ」

「なっ……」

 次官は絶句したまま、アイラと“彼”を見比べていた。

「……どうか?」

「……今の我々には無理だ。今は、な」

「そういう事だ。まだ、あなた方にはそうした力はない。故に現状維持を了解していただきたい」

「う……む……」

 次官は腕を組み、唸る。

 納得はできないが、反論は難しい、といったところか。

「そしてもし交渉の余地のない、決して相容れぬ存在と邂逅してしまった場合どうなる?」

「むぅ……」

「それは、鏖戦(おうせん)だ。かつて我らは、知的生命体の精神を喰らう存在と邂逅した事がある。精神を喰われれば、死あるのみ。たとえ草木に知性があったとしても、それを喰らう牛馬と交渉できるとお思いか?」

「……無理だな」

「そう。同じ地球に生けるもの同士でもそうなのだ。もしそれが、異星のものであれば?」

「…………」

「宇宙は闘争に満ちている。この地球上よりもはるかに、な。故に、一度闘争の輪の中に踏み入れれば、決して立ち止まる事は許されない。例え血を吐こうとも走り続けねばならないのだ。さもなくば……絶滅が待っている」

「……赤の女王仮説か」

「そう。常に我らは必死に走り続けてきた。様々なモノを犠牲にしてな。あなた方に、それをする覚悟はあるか?」

「う……む」

 外務省次官は、腕を組んだまま押し黙ってしまった。

 重い沈黙。

「……時間も押しているので、次の時代に入りたいのだが、よろしいか?」

 と、参事官。

 アイラと次官も、無言で肯定の意を示した。

 そして、今後の探査予定や装備の調達予定など事務的な報告が行われたのち、会議は終了となった。

 やれやれ、精神的に疲れた。

 危険と隣り合わせの調査現場の方がまだマシかもしれんな……。

 ……おっと。そういや今日はこの後研究室に行かねばならないんだよな。

 う〜む。忙しいことだ。



――東京旧都心、夕刻。

 ここは、かつての日本の首都であった。

 21世紀半ばに首都機能の分散が行われ、また日本が西太平洋同盟に加入して以降は巨大国家連合の中の地方都市の一つとなっていた。しかしながら、未だ一千万近い人口を抱える、世界有数の巨大都市である事には変わりはなかった。

 そしてその一角。

 駅前から少し離れた住宅街にある小さな居酒屋、『巽』は賑わっていた。

「では、乾杯〜〜!」

 チェンの声に、俺とアイラが座ったテーブル全員のビールジョッキが掲げられた。

 今行われているのは、俺が属する研究室の歓迎会。

 新たな仲間――アイラ――の加入を祝しての事だ。

「プッハ〜、美味し〜!」

「止めんか、オヤジ臭い」

 隣に座るアイラを軽く小突く。

「いいじゃないか。こういう場だしね」

 と、桂木教授が笑う。

「ハイ……。でも、ほどほどにしとけよ」

 とりあえずもう一つクギ刺しとくか。

 が、聞いちゃいねぇ。

 全く……

 あの会議のプレッシャーから解放された為か、完全にハジけてやがる。

 まぁ、仕方がない事だとは思うので、大目にはみるが。

 あの会議の後、俺は大学の研究室に向かった訳だが、そこで俺達のゼミに新たなメンバーが加わったことを知らされた。

 それが、アイラである。

 他の面々は、既にその事を知っていたらしい。というか、歓迎会の予約までしてやがった。

 知らなかったのはどうやら俺だけの様だ。

 チェン曰く、『てっきり知ってるモンだと』だそうな。

 いや、俺が知らないこと分かってて教えんかったなコノヤロウ。

 後でコイツもシメねば。



 そして、次々と料理が運ばれ、酒が進む。

 と、研究室の仲間の一人が、アイラの、俺とは反対側の隣に座りやがった。

 コイツはジェド。ちょっとチャラい男だ。アイラ目当てだな。

「アイラちゃんだっけ?」

「ええ。よろしく〜。ジェドさんだっけ」

「覚えてくれたんだ。よろしく。ところで……」

 ジェドのヤツ、チラと俺を見やがった。

「スオウさんと昔からの知り合いみたいだけど……」

「うん。えっと……近所の頼りになるお兄ちゃんだったから」

 ン? ほぼ同年代だし、普通の遊び仲間だろ?

「そっかー。そういえばアイラちゃんって、何歳?」

「えっと、二十歳で〜す」

「は?」

 思わず横から突っ込む。

 と、

「!」

 コイツめ、脇腹ツネりよった。

「そ、そうなんだ……」

 俺の異常に気付いた様で、ジェドの顔が微妙に引きつってやがる。

 その後、当たり障りのない会話ののち、ジェドは別の席に向かった。



「……ずいぶん豪快にサバを読んだものだな」

 ジェドを見送ると、アイラの耳元で囁いてやる。

 少なくとも二十代後半、俺とほとんど変わらん歳のはずだ。

 まぁ、異星文明のアンチエイジング技術のせいで、二十歳といってもバレない肌のツヤではあるが……。

「だ、だってさ、このあいだまで暮らしてた所なら、“一年”は地球よりも長いよ」

「それ、ただ公転周期が長いというだけの話だろ? 統一した暦があるだろうが……」

「ぐぬぬ……」

 黙りよった。

 いや、それよりもだ。

「なあ、もしかして……実は俺よりはるかに年上だ……痛っ!」

「同い年よ!」

 脇腹を殴りよった。痛い。

 つか、今のでサバ読んだのバレてないか?

 まぁ、俺には関係ない事だが。



――四時間後

 十時を回ったあたりで新歓コンパは一旦お開きとなる。そして飲み足りない有志は二次会へと突入していった。

 そしてカラオケなどを楽しんだのち、二次会も終了となった。

 流石に三次会とかいう事にはならず、各自帰宅の途につく事になった。

 ジェドあたりは夜の店に繰り出すようだが……

 俺はこのまま帰宅することにしたのだが、問題が一つ。

「あはは〜、タッちゃんが二人いる〜」

 完全に出来上がってしまったのが一人。

 そう、アイラだ。

 体内プラント――体内に注入されたナノマシン群――を使えばアルコールを完全に血中から排除できるんだろうが、ここまで酔ってたらそれを起動させることもできんか。

 これじゃ一人で帰れなさそうだな。

 女の子(?)を下手にそこらへ放り出して帰る訳にはいかない。道義的にも、だが……

 いくらこの辺りは治安がいいとは言っても、変なのはいないわけじゃないしな。そこにアイラ(コイツ)を放置しといたら、ちょっかい出された挙句に身元不明の肉塊(命だったモノ)が路地裏一面に散乱する事態にもなりかねん。大惨事だ。

 それに何より、一応要人だ。

 なので、俺が家まで送ってやる必要がある。

 仕方ない……。



 とりあえず彼女を背負って歩道を歩く。適当な無人タクシー(ロボットカー)を捕まえねばならないのだが……確かめなければならないことがある。

「なぁ、アイラ。お前の家はどこだ?」

「ん〜、タッちゃんと一緒がいい〜〜。一緒に寝る〜」

 オイオイ。いきなり何を言うか。つか首絞めるな! 常人ならオチるどころか頚骨が砕けそうな力だぜ……。この腕力、調査で行ったカナダ・ノヴァスコシアでやりあった(グリズリー)並だ。やっぱりこんなのを放置しおいてはいかん。

「いや待て。でも、用意された宿舎とかあるだろ?」

 無理やり喉元から腕を引き剥がし、重ねて問う。

「え〜〜、私のコト、嫌なの?」

「嫌じゃない。でも、お前は要人だ。そんなのが所在不明になるわけにはいかんだろう? だから……」

 と、その時。

 俺たちの目の前に停まる車が一台。

 えっ、タクシー? 俺が呼んだわけではないが……

 と、扉が開き、一人降りて来た。

 ン? あれは……

 その人物は、見知ったガイノイド。

「サオラス……」

「乗るがいい。迎えに来た」

 やれやれ……これで一安心、か。



――約30分後

 俺達を乗せたロボットカーは港へと到着した。

 この一角には、俺の住処がある訳だ。

 おっと、見えて来たな。

 闇の中に浮かぶシルエット。それは、船の形をしていた。

 埠頭の中にある住処……といってもそこらに見える倉庫などではない。その一角に停泊しているクルーザーが俺の住居だ。

 元々これは調査局の船であったのを、退役後に親父が買ったという話だ。それを俺が譲り受け、そのまま使っているのだ。

 そして車はその前で停まった。

「ありがとう。支払いは……」

 俺は携帯端末を取り出そうとし……

「大丈夫だ。これは、調査局の車。その必要はない」

 と、サオラス。

 なるほどな。よく見れば、支払い用の端末は無い。

 てっきり無人タクシーだと思ってたんで、ろくに確認せずに乗り込んでしまった。

「そうか。それでは、ここで」

 俺は車を降りた。そして、

「サオラス、アイラを頼……」

 と、声をかける間も無く、サオラスはアイラを抱えて車を降りた。

 そして走り去る無人の(ロボットカー)

「え? おい、何でだ? サオラス、何故二人ともここに?」

「ここで私達も暮らすからだよ。よろしく頼む」

「ああ、なるほど……って、ちょっと待て! 何でそうなった⁉︎」

 そんな話は聞いてないんだがな。サラっと言われても困る。

「我々は地球の常識には少々疎いのだ。少なくとも一年間、素性を知る現地人である君と生活をともにすべきだろう。それに、同じ研究室と調査チームで活動するなら、ここで暮らすのが丁度良い」

「そ、そりゃそうだけどさ……」

「大丈夫だ。君の父上の許可は取ってある」

 オイ……

「あの親父……」

 何考えてるんだ、一体。つか、まず俺に確認取ってくれ。が……こうなったら仕方ないか。

「そういう訳だ。よろしく頼む」

「お、おう……。でも、家具とかとうするんだ? 一人暮らしだったから、人数分の寝具なんて……」

 一応簡易ベッドはあるがな。まぁ、最悪俺がそこで寝れば済む話ではあるんだが。

「大丈夫だ。荷物は既に運び込んである」

「えっ、ちょっ、いつの間に⁉︎」

 今朝早くにここを出るときは、異常はなかったハズだ。それに、きちんと戸締りもした。船に仕掛けてあるセキュリティのアラーム発信もない。何故そんな?

「君の父上から合鍵(解除パス)は受け取っている」

「oh……」

 あ、あの親父(ヤロウ)……いつかシメる!

 とはいえ、もし合鍵がなかったとしてもそこは高度な文明の産物だ。ロックやセキュリティも無力だろうよ。

 けどな……何か納得いかん。

「ここで話していてもなんだ。まずは中に入ろうじゃないか」

 俺の思いをよそに、サオラスはことも無げに言う。そしてアイラを抱えたままタラップを上がり、甲板へと上がった。

「お、おい……」

 勝手に行くなよ。

 俺は慌てて後を追った。

 と、サオラスが扉に掌を押し当てると、電子音とともに電子ロックが解除される。

 そして彼女はアイラを抱えてキャビンに入っていった。

 勝手知ったる、か……

 と、そこでサオラスが振り返った。

「……どうした?」

「そうだ、一つ言っておかねばならない事がある」

「何だ?」

「アイラは赴任したばかりだからな。出来れば一年間は“突発的な長期休暇”は避けたい所だ。その辺の配慮を頼みたい」

「え゛」

 いきなり何を言い出すのか。

「ん? すぐに“作業”にかかるのではないのか?」

「いいいや待ってくれ。別にまだそういう関係じゃ……」

「『まだ』と言っても、これからなるんだろう? だからあらかじめ言っておく」

「あ、あの……」

 俺としてもそういう関係にはなりたいが、ちとストレートすぎるだろが。ちゃんとした段取りを踏んだ上で、だ。

「“必要なもの”は用意してある。もし足りないのなら、言ってくれ」

「お、おい……」

 そう言い残し、サオラスはアイラを抱え、部屋の一つに向かった。

 う〜む……彼らには、地球人類がそればかりしてると認識されてるのだろうか? いや、それともソリアス人は性的に奔放なのか? だとしたら、ちとショックだ。

 ちなみにベッドルームには、それなりの大きさの箱一杯の“必要なもの”が置いてあった。こんなに一杯どうしろと……。

 しかし、だ。コレが用意されているという事は……少なくとも種間雑種は作れるって事だよな?

 やはり、彼女らの種族は……

 まぁ、それはよかろう。

 まずは寝るか。とにかく、今日は疲れた。



――そして、数日後 大学

 俺は構内のカフェで、アイラと昼食を摂っていた。

 午後は、二人とも特に予定なし。

 ようやく、休みが合った。だから、二人でこれからどこかに行こうかと話し合っていた。

 と、そこにやってくるチェン。

「よう、ここにいたんだ」

「おう。どうした?」

 う〜む、せっかくの……。だが、昼飯を一緒に食うぐらいなら良いか。

 しかし、どうやら目的は違うようだ。

「ああ、教授がね。二人を探してたんだ」

「教授が? 午後は来客があるとか言ってなかったか?」

「その来客絡みみたいだぜ。食べ終わったら教授室に来いってよ」

 はて? 一体何があったのか?

 正直、心当たりはない。

 だが、行かざるを得んだろう。

「分かった。……アイラ、行こうか」

「ええ。次の機会に、ね」

 少し寂しそうなアイラ。

 とりあえず、教授室に行くか。



――教授室

「よく来てくれたな、タツマ。それにアイラ君、チェン。元気そうで何よりだ」

 教授とともに俺たちを出迎えたのは、ラインディース参事官だった。

「来客って、参事官だったんですか」

「ああ、ヤボ用もあって、東京に寄ったんだ。そのついでに古い友人に会いに来た」

「なるほど……」

 そういえば教授と参事官はこの大学の同じ研究室にいたと聞いたことがあるな。ああ、親父もそうだっけか。

「ところで俺たちを呼び出したのは、またどこかに調査に行けって事っすか?」

 と、チェン。

 十中八九そうなんだろうが……このあいだの会議資料にあった調査予定だと、新規の調査はしばらく無いはずなんだがな。

「ああ。その通りだ。ちょっとしたアクシデントがあってな。予定を前倒しにすることになった」

 なるほど。

 いきなり遺跡が見つかってしまったとかか。あるいは、地球連合に敵対する星系国家が目をつけたか。

「……というのは建前でな。実は予定通りだ」

「へ? どういう事ですか?」

「ああ、実はな。トゥルス星系の件もそうだが、どうやら調査に関する情報が漏れている様でな。少しフェイクをいれさせてもらった」

「なるほど……」

 ガスパーの件もあるか。

 おそらくはその背後で“何者か”が(うごめ)いているのだろう。

 とはいえレスターと繋がりはないと思いたいが。

「今度の目的地は、レゾリス。そこで異星人の遺骸が発見されたそうだ」

 “異星人”の、か。さて……どんな姿をしているやら。

用語解説など

超越者(オーヴァー・ロード)

 地球人類を進化させ、そして導く降臨者、とされるもの。出典『幼年期の終わり』

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