きみが映るとき
「あーめちゃくちゃ笑った」
目の前の祐稀は勝手に笑って勝手に満足していた。マジでこいつの笑いのツボが分からない。
「何がそんなに面白かったんだよ」
「いろいろ!」
色々って。
「それよりさ、早く机くっつけなよ」
真顔に戻った友人に指摘されて、ああ、と我にかえる。給食時は近くの六人で机を固めて食う決まりだけど、気づけば僕だけが離島状態になっていた。重たい机を持ち上げて九十度右に回してからくっつけると、はい。島完成。
「きょう育矢の好きなオムレツだってよ。よかったじゃん」
掲示されている献立表の前から帰ってきた隼人が、笑顔満開で教えてくれた。
「マジで!?」
「あー腹減った。早く取りにいこうぜ」
空腹のせいなのかどこか弱々しい祐稀に続いて、僕たち五班は長い配膳の列に加わった。
列が進むにつれて一歩、また一歩近くなる。何に、と尋ねられれば答える。オムレツゥ! オームレッ! イッツァオームレッ!!
僕の脳内でオペラ歌手(テノール)が暴れている。好物のせいだ。きっと好物のせいでテンションがおかしくなっているんだ。
「で、デッカイのをな? とびきり上玉なのをお願いしますわネーチャン、うへへえぁ」
配膳係の女の子に向かってこんなことは言えないから、黙って願うのみだ。どうか少しでも大きなのが当たりますように……!
なんて食べ物ばかり眺めていたけど、よくよく見たら列の前側に梅田さんが紛れこんでいた。
その時だけ、オムレツのことがどうでもよくなった。
*
僕の学級では、給食のいただきますを皆で合わせて言うことになっている。しかも担任が絵に描いたような熱血野郎なので、声がショボいともれなく強制ワンチャンを喰らう羽目になるのだ。
せーの。日直が声を出したあと、
「……イタダキマス」
「やり直し!」
「いたーーだぁきます!」
ネタに走った男子数人が小学生並の声を張ったことで、丸く収まった。
皿の上には黄金色に輝くオムレツが待機しているのに、今の僕にはそれよりも見つづけていたいものがあって。
何でだろう。
さっきまであんなに早く食いたいって思ってたのに。
向かいで温食に手をつける祐稀の肩を通り越して、視線をもっと奥にやってみた。梅田さんが箸もつけずに相槌を打っている。真顔のままだから楽しいのか怒っているのか分からないけど、相変わらず同じ班員からの会話攻撃に遭っているようだ。
食わせてやれよ……。
でもどんなことを話してるんだろう。前までいた町のこととか、好きな食べもののこととか? 気になる。僕も今度聞いてみようかな。
……いつ? どのタイミングで?
そこまで考えて、盛大にむせた。まだ何も口に入れていないのに。