ちがう、と言いたくなる気持ち
静かそうで、ながい髪がきれいなおんなのこ。
「××から引っ越してきた梅田翔子といいます。皆さんと一緒にいられる時間は短いかもしれませんが、よろしくお願いします」
黒板の前で、一礼。
転校生は多くを語らなかった。
でも中学生である僕の心の中には、何だかざわざわしたものが。
(……どきどきする)
溢れかえって、たくさんの言葉になりそうで。
早く彼女に話しかけてみたかった。
*
お昼前の授業の終わり、右斜めに振り返るとかろうじて彼女が見える。
席遠いなあ。
彼女は廊下側の一番後ろで、僕は窓側の前から二番目だから仕方ない。……仕方ないけど、席が近かったらもっと普通に話しかけられるのに。
(こんのヘタレがっ)
自分で自分に一喝入れて、最終的には酷く落ちこむ。勢いで机に突っ伏すと、掛けていた眼鏡の渕がガツンと当たって痛かった。
そのまま顔だけを上げつつ限界まで首を斜め後ろに動かすと、やっぱり彼女(梅田さん)が見えるのだった。かろうじて。
かろうじてと言うのは、梅田さんの座る席の周りを他の女子たちが囲んでいて、見えにくいからだ。
転校生だもんなあ。興味を持たれるのは当たり前だろう。梅田さんに話しかけてる女子たち、ずっと笑っててすごく楽しそうだ。梅田さんも座ったまま何か喋ってるけど、……緊張してるのかな? あまり笑顔じゃない。
もしかして僕と同じコミュ障タイプ……。
親近感を持ってかなり嬉しくなった。まただ。またどきどきしてる。どきどきして、色んな浮わついた言葉が隙をついて口から漏れてしまいそうで、それもあの梅田さんの前でーー。ずっと後ろ見てたから首が痛い! もう!
「いでででででで」
「なに、育矢って女子のストーキング始めたの?」
首に手を当ててから前に向き直ると、普段は隣の席にいる祐稀が正面に立っていた。
お前の弱み握ってやったぜ、みたいな顔でニヤニヤされている。
「ムッツリだなお前」
「はあ? ちげえし」
「がはっ! 何がちげえんだよ」
祐稀は一人で爆笑していた。爆笑しながら盛大にツッコミを入れてきた。笑いながら喋ってるせいか裏声が交じっている。
「だってたまたまお前のほう見たっけさ、アヒャー! 何か……何かずっと女子がいる同じとこばっか見てんだもん。ぼげーーーって! つーかさっきからフエッ、フオハハハハハハ! 顔赤いぞ? ん? さては育矢くん」
笑い声が狂った鳥の鳴き声みたいになる奴、たまにいるよね。
「恋ですかな? ンンン、臭いますぞ」
「ちがっ! ちーがーいーまーすー」
真っ先に否定したかったものの、こいつの笑い声につられて頬が緩んでしまった。つられたからだ。決して僕が浮かれているからではない。絶対に!