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We for Yute. Yute for me!!!

「……なあディア、本当にあいつらで良かったのか? 今更だが、すげー不安だ」

 3人を見送った直後、洞窟の入り口を見ながらボヤいた。

 ディアが何かを告げるまでキャットファイトしかけていた3人が、たった一言で桃園で契りを交わした義姉妹のように仲良くなったのだ。まさかとはおもうが、何か裏がありそうだ。

「……コンコルド、わたしがやったのはあの3人に魔王として1つ条件を出してやる気を引き出しただけ。でも、この一手はあの3人を協力させるにはこの上なく適した一手」

「まあ……ちょっとばかし嫌な予感はするけど、多分これがベストなんだろうなぁ……」

 結果的にベストだったのだろうとはいえ、この後酷い事態に陥ったのだが……


「……うふふっ、やるわねミラちゃん……それとイアリちゃんにアリスちゃん」

 広いとは言えない洞窟内を巧みに飛び回りながら、エキドナさんが賞賛の言葉を送った。

「当然ですわ。イアリは年増の炎蛇エキドナからハニーを助けだすために、100%の本気を出したのですわ」

「おにいちゃんのためにぜんりょくと言った割にはよわかったけど」

「それは言わないお約束ですわ!」

 イアリちゃんとアリスちゃんが漫才を繰り広げる中沈黙を保っていたミラさんは、まるで戦士のような雰囲気を纏っていた……

「ママ、どんな理由があろうとも……抜け駆けは流石に許しませんの」

 ねぇねぇミラさん、怒るべき所はそこなのかなぁ? ただ母親に抜け駆けされたぐらいで、そこまでガチで怒るようなことなのかなぁ?

「ふぅん、みんなやる気なんだ……それじゃあ、そろそろ私も本気を出した方がいいかしら?」

 エキドナさんがそう呟いた直後、洞窟内に突風が吹いた……

「うわっ……!目にゴミが……!」

「あぅっ!」

「いたいっ……!」

 巻き上げられたゴミによって目を塞がれている間に、立て続けにイアリちゃんとアリスちゃん、2人の悲鳴が聞こえた……

「あらあら、ディアちゃんでさえ懐柔という手を取ったハニーホーネットの王女蜂とあのリリスさんの妹だから期待したのだけど……どうやら期待はずれだったみたいねぇ」

 手で擦りながら頑張って目を開けると、アリスちゃんとイアリちゃんが倒れるまではいかずとも、片膝をついていた……

「アリスちゃん! イアリちゃん!」

「これが私とあなた達の経験の差よ。厳密に言い直すなら……一度も命懸けの戦いを経験した事のないあまちゃんと、少なくとも3回死地を抜けたお姉さんとの差よ」

 ……ツッコんじゃいけないんだろうけど、お姉さん……かなぁ? いや、人間換算でいっても魔人としてもかなり若いのは分かる。分かるんだけど……

 ……なんていえばいいんだろうね、僕と同い年の娘がいるのにお姉さんって……

「おばさん、ちょっと口が過ぎるのですわ……!」

「……アリスは……まだ戦える、おばさんがなんて言おうとも……まだ……たたかうよ……!」

「おばさ〜ん? …………お姉さんでしょうが!?」

 怒りに任せた尻尾攻撃が2人にトドメを刺す直前……ミラさんの尻尾が行く手を阻んだ……

「流石にお姉さんはちょっと……きつい、ですの!」

「……チェッ、成長したわね、ミラちゃんも……」

 はじき返された尻尾をさすりながら、エキドナさんが呟く。

「ありがとうですわ、ミラ」

「ありがと、ミラおねえちゃん」

「フン、別に助けたワケじゃありませんの。ただユートの評価を上げたかっただけですの」

 その一言によって上がった評価がほとんど削られたのだが。

「……相手は負傷した娘が2人とミラちゃん、そしてこっちはほとんど無傷……試すなら今ね」

「ママ、何をする気なの?」

「うふふっ、それじゃあママは〜まず洞窟内を対象にダメージコントローラーを張るわね〜?」

 ……詳しい原理は知らないけど、魔女センパイとの特訓の時に大まかな解説は聞いた。

 確か、結界内における魔法によるダメージを軽減する効果だったハズだ。それでも、痛い物は痛いのだが。

「そしてぇ〜……あなた達、本気を出してね? 私は本気の火力でやっちゃうから」

 そうミラさん達3人に告げ、エキドナさんは虚空にいくつもの魔法陣を……今までみたどの魔法陣よりも……魔女センパイの本気(全力とは言っていない)さえも越えた量の魔法陣を幾重にも重ね合わせていた……

「合計魔力ではそっちが勝つけど……魔力の引き出し方や魔法陣の組み方を考えればこっちの魔法が上回るわ! さあミラちゃん達、ママにダーリンを……ユートちゃんを取られたくなかったら本気でこの魔法を破って見せなさい!」

 そして放たれた炎の魔法は……幾重もの魔法陣から出た途端に凝縮され、人のような……もしくは妖精のような形を取った。

「イアリ達が結束しなければあの炎精イグニスを倒せないですわ……!」

「わかった……イアリ、ミラおねぇちゃん」

「……わたし達3人の力があれば、ママを越えられますの。そして……ユートを取り戻せますの!」

 直後、誰が言うでもなくぴったりのタイミングで三色の……青と黄色とピンク色の魔法陣が重なり合い……なんとも言い難い、色の不協和音を奏でていた……誰も悪くないのだが、色々と台無しだった。主にピンク色のせいで。

「穿て、氷結龍槍ブリューナクですの」

光天騎士ホーネスト、ですわ!」

P・P・Pプリティープレミアプライマル……これが、結束の力…………?」

 むしろ不協和音の原因はイアリちゃんとミラさんのようだった。

「強いわね、でも……砕け散りなさい! 炎精イグニス最大火力フルバーン!」

 エキドナさんの目前にて、溶けない氷槍と燃え続ける炎精がぶつかり合った……



「……強くなったわね、ミラ」

 全身ボロボロのエキドナさんが、ミラさんの頭を撫でながら呟いた。

 その姿は本当にちゃんとした母親のそれであった……

 ……全身ボロボロというか、局部的にギリギリ服の残骸で隠せているという、アリスちゃんでさえ赤面したくらいに、破廉恥な格好だが。

「…………ママ」

「……エキドナさん」

「…………おばさん」

「おばさん」

「だからおばさんじゃなくて、せめてお義母さんにしてちょうだい?」

 僕達四人(エキドナさんの目の前に立つミラさんも同じ気持ちだろう)のジトっとした目線を故意に無視してエキドナさんが言ったのだが、僕もエキドナおばさんと呼ぶ事を検討するくらいに、この場を和ませるには不適切であった。

「エキドナおばさん、まず僕達の部屋諸共、寮の壁をかなり壊しましたよね?」

「う゛っ……」

 ちなみにディアさんが洞窟の外で静かに怒っているとのことだ。

「更に言えば、誘拐そのものが既にマコトに聞いたら大問題らしいんでしの」

「うえぇ!?」

「コンコルドおにいちゃん……おばさんが撃退したんだよね?」

「…………」

 3コンボにて既に顔面蒼白になっているエキドナさ……エキドナおばさんに対して、更にイアリちゃんが追い討ちをかけた。

「占いによれば、今すぐに謝れば獄龍鎌の柄でゴンと一発、逃げれば峰で三発……になりそうですわ」

「………………」

 エキドナおばさんがフリーズしていた。まあ、動機からなにまで自業自得なのであまりフォローする気分にはなれないが。



「ミロンママ、どうしてこの手段をとったのかはわたしも分かってる。でも……今回の作戦は計画性もなく突発的で行き当たりばったりで、あまりにも適当過ぎる」

「…………はい」

 魔王城最深部にある玉座の魔にて、ミロンが正座をしながらディアと向かい合っていた。

 ミロン本人にとって、ユート達の仲を取り持つつもりは(ユートとミラの仲を除いて)ほぼ皆無だったのだが、反論してはマズいとあえて口を挟まなかった。

 ディアがミロンの処分をどうしようかと思考を巡らせていると、窓から蝙蝠の大群が侵入し、人形を取り、言葉を発した。

「……のうディア」

「パパはちょっと黙っていて。今は女同士の話をしてるからまた後で」

 ……実の父親に対してあんまりな仕打ちではあるが、ただ強いだけの吸血鬼でそれなりの貴族である彼は魔界最強クラスの魔王にとってはどうでも良いとまではいかずともユートまで含めた身内で最下層の存在である故に、ディアやリリスからの扱いは若干ぞんざいなものであった。

「あのだな……儂の預かりしらぬ場所でなのだが」

「パパ? だから少し静かに」

「吸血鬼の反乱が起こったのだ。」

「…………」

 一向に父親に取り合おうとはしなかったディアも、父親の一言で途端に黙った。

「新鮮で健康な血を飲みたいとな、若い衆が中心になって……魔王ディア、そしてあの男……マコトに反旗を翻したのだ。儂にはもはや血に飢えた奴らを止められん。だから……」

「ミロンママ、ユート達4人と……変態ユウとそのハーレムを指揮して……パパ、吸血鬼の指導者は?」

「トリス・ディエゴと名乗る者だ……真名や顔もさえも分からぬ、真に闇に生きる者だ……ただ、本拠地は分かる……魔界南部のネヘムス、そこへと吸血鬼が集まっているようだ」

「…………ミロンママ、これで帳消しにするから……お願い。それと……ちゃんとみんなで生きて帰ってきて。」

「かしこまりよ、ディアちゃん」

 ディアの『お願い』に対して、ミロンは敬礼で応えた。


やさぐれ真理「『私達はユートの為に、ユートは私の為に』か……良い台詞だね、感動的かなぁ。無意味だけどねぇ」

イズモ「真理ちゃん、やさぐれるのも無理は無いけど、少しだけでいいから自重してほしいんだけどさ……まあ、無理なのは一応分かってるけど」

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