エキドナの復習
「ユート……逃げてぇ……」
瓦礫に潰され、身動きの出来なくなっている真理ちゃんが涙ながらに言った……
でもどこに? 犯人の魔の手はすぐそこまで……否、エキドナさんの魔の尻尾はすぐそこにまで迫っている……
「やめろエキドナ……! そいつを……小杉ユートを連れて行くな……!」
ダアトちゃんの嘆願も虚しく、エキドナさんの尻尾は僕の体を締め付け……
「は……っ、夢か……」
なんだ夢かと思いながら、『いつもと違うベッド』から降りてキョロキョロと周りを見た。
見知らぬ天井……というより、まるで洞窟のそれであった。
嫌な汗を流しながら、キョロキョロと周りを落ち着いて見回した……
……まさしく洞窟だった。
「エキドナさぁぁぁぁぁん!」
まあ、とどのつまり……夢で終わらなかったとさ。
「エキドナさぁぁぁぁぁん! どこにいるんですかぁぁぁ! 僕からあなたに伝えたいこ」
「はいはーい、なにかしら? マイダーリン?」
流石エキドナというべきか、ゴツゴツとした岩場をものともせず、シュルシュルと僕の隣に這い寄り、抱きついてきた。
「あの、だからここは……って、darling?」
これはひょっとしてギャグ? ……いやいやいや、今はボケてる場合じゃないし、それにあの目はマジの目だし……!
「ダーリン、私は火山の溶岩とサラ師匠の御陰で生まれ変わったの。愛しのダーリンが振り向いてくれないなら振り向かせるまでアプローチする……それが今の私、ネオミロン・エキドナ・NEXよ」
「アッハイ」
ネオとNEXのどちらかにしてくださいとか、結局あまり変わってないじゃないですか、とか色々とツッコみたかったのだが、今のエキドナさんには有無をいわさぬスゴミがあった。
「さてとダーリン? 私の生涯の伴侶に……いえ、ミラちゃんの義父になってちょうだい?」
「No!」
「私と1つになりましょう?」
「いいえ」
「私の気持ち、受け入れてくれるかしらぁ?」
「それには まだ はやいです」
「んもぅ、イジワル……」
「か、可愛く言ったってまだ時期尚早といい答えは変わりませんからねっ!」
修行の成果か無自覚かは知らないけど、痴女のイメージが強かったエキドナさんの急な可愛らしさアピールに、ときめいて……いやいや、ついつい怯んでしまった。
「ンフフ、ツンデレ可愛いゾ、ダーリン」
ほっぺたをツンツンされてからかわれてしまった。ちくせう。
「そういえば! 聞く前にエキドナさんに脱線させられましたけど」
「フフッ、ダーリンったら」
「脱線! させられました! けど!」
声を大にして誤魔化さなければやっていられなかった。
「真理ちゃんとダアトちゃんは大丈夫だったんですか!? さっきエキドナさんが壁を突き破った時に酷い目に遭ってましたけど!」
そう問いかけると、病んだ笑顔でエキドナさんが呟いた。
「ダーリンにくっついてたお邪魔虫2人なら、無事死なない程度に排除しておいたの」
「そうですか、それなら一安心……出来るはず無いでしょうがコラァァァ! なんでサラリとそんな事を言ってのけるんですか! それと、さっきから思っていましたけどエキドナさん、あなた痴女からヤンデレにワープ進化してますよ!」
「ダーリン、それ以上暴れるのなら……」
そう言ってエキドナさんは背中の小さな翼を、そして尻尾を自らの炎で燃やし、洞窟の一角を焼き始めた……
「炎に囲んじゃおうかしら?」
僕はそっと抵抗するのを諦めた。
真理(……解せぬ)
ダアト(…………解せぬ)




