人は拾った幼神を保護出来るか? その8
真理は空を仰いだ……月の明かりもない、真っ黒い空だった……
どうしてワタシは動かなかったの?
理由は分かっている。もし仮にワタシだけが逃げ出せたとしても、魔女先輩達は置いていくしかない……否、正確に言おう。魔女先輩達を含めた3人では『禁誘屍人』に勝てるハズがないから、逃げるしかない……けど、ワタシが逃げるとすれば2人を置いて一目散に逃げるしかない……けど、ワタシはそれをしたくない……
お兄ちゃんとユートがベッドに残したメッセージに気付いてくれていれば、助けに来てくれる。
そういう考えに至った直後、強くなれない自分を自嘲した……
所詮ワタシはただのスライム……駆け出しの勇者に撃退されるような弱い存在だから……
そこまで心の中で呟き、「でも」と続けた。
スライムにはスライムのプライドがあるんだよねぇ……特に、お兄ちゃんが神で、更に神の力をちょこっと使えるボクには譲れない事が沢山あるんだよねぇ〜!
ダアト達の状況を確認……まだまだダアトとお兄ちゃん達は遠くにいるっぽい。
……『禁誘屍人』の状況、ラトの手を踏んで勝ち誇っている最中。つまり……慢心中。喉笛を噛み千切って素敵なパーティーするなら今だねぇ!
「行くよ、ボクの分身……!」
直後、慢心しているデッドマン目掛けて小さなボクの大群が襲いかかった……
「神河イズモ……あなたは妹を……神河真理を見殺しにするつもりかしら?」
あからさまに腹を立てているダアトちゃんが、イズモ君さんを呼び止め、睨みつけた。
「真理ちゃんを見殺しに? まさか……もうすぐたどり着きますよ」
そう言って、再び歩みを進めようとした……
ミーミルちゃんもイズモ君さんに不信感を抱くには一連の謎の行動で十分だったらしく、イズモ君さんの目の前で両手を広げて立ちふさがった。
「イズモ様、もしこの無駄な行動のせいで真理が死んでしまってたら、明日にでも辞表を出すのデス……いえ、辞表じゃ済まないのデス。ルシフェル様以下七皇と一緒に謀反を起こすのデス」
「……無駄、ですか……? 10分後にもそう思っていたら、どうぞご自由に……神の座だって譲りますよ」
そう言って、ミーミルちゃんを避けてイズモ君さんが数歩進んだ……
……直後、イズモ君さんの姿が消失した
「あんにゃろうどこに行きやがったデスか! 天使斬りの魔剣持ってカーススラッシュ使ってぶった斬って」
数瞬前までイズモ君さんへの殺意を露わにしていたミーミルちゃんも、数歩進んだところでイズモ君さんの後を追うように消失した。
「…………小杉ユート、理屈は分からないけどあと3歩歩いてみなさい」
何やら悟ったらしいダアトちゃんと一緒に3歩進んでみた……
……直後、周りの風景が森の中から洞窟へと、一瞬で変貌していた……
「役者が揃ったか」
「ユート……? ……ちょっと……遅かったかなぁ……」
倒れている真理ちゃん達3人と余裕そうに慢心してみせる仮面の男を見て全てを悟り……
「やめろ小杉ユート……!」
「ユート君!」
「あかん! その手は使ったら」
膨大で有り余っていた魔力と怒りを目の前の仮面の男に対して爆発させた……




