人は拾った幼神を保護出来るか? その7
「……ボクを囮にしてお兄ちゃんを誘い出そうなんていう作戦なんて、神の名が廃るんじゃないかなぁ? この卑怯者ぉ!」
「なんとでも言え、我は渾沌の破壊者ニャルラトホテプ……卑怯な手こそ我が神髄よ……!」
ロープで縛られている真理が、ニャルラトホテプの『禁誘屍人』に罵声を浴びるも、『禁誘屍人』は平然と受け流した。
(……まあ、ぬけだそうと思えばすぐにでも抜け出せるけどね)
真理はニャルラトホテプの様子を伺いながら、心の中で呟いた。
だがしかしそこは最狂最凶最脅最恐の狂言回しであるニャルラトホテプ、真理の逃げ出す隙が一切と言っていいほどに無かった……
(こりゃあ無理して逃げようとして殺されるよりも、隙をみて喉笛を噛み千切った方が良いかな〜……)
踏んだ場数からして、兄であるイズモには遥かに及ばないとはいえ、かなり優れた観察眼で冷静に分析した。
それと同時に、イズモによる救助とダアトの随従を祈った……
「……神河イズモ、もしかしてあなた、闇雲に探しているのかしら……?」
ダアトちゃんが疑わしそうな目でイズモ君さんを見つめていたが、無理もないだろう。僕達4人はユラちゃんの森をぐるぐると回っていた。少なくとも僕はそう認識していた。
さっきから何も言わなかったミーミルちゃんも同じ気持ちだったらしく、無言でイズモ君さんを睨みつけていた……
「……残業手当てを寄越せなのデス」
……どうやらミーミルちゃんは放っておいても良さそうだ。
「ボクが先導して同じ場所をぐるぐる回っているのは本当の事ですけど、ただ何も無く誤魔化しの為に回っていると思ったら大間違いですよ? ……あ、ほら、ユートさんもちゃんと着いてきて下さい」
……さて、どうしたものか……
「…………お兄ちゃんが来る前に言っておくけど、無事で済むと思わない方が良いよ? お兄ちゃんもユートも、一筋縄では行かなくて、蛮族以上に諦めが悪いからさぁ」
「……ほう、それがどうかしたのか? 我は我自身の命を投げ打ってでも神河イズモを殺す……我の命はまだ大量にあるのだからな」
「………………」
『禁誘屍人』の言い回しに違和感を抱きながらも、真理はあえて何も言わなかった。聞き返してしまえば、知りたくもない絶望を知ってしまいかねなかったから……
『禁誘屍人』は何かの気配を感じたのか、突然二歩後退した……
直後、『禁誘屍人』が立っていた場所……厳密には『禁誘屍人』の頭があった場所目掛けて5本のフォークが過ぎていった……
「……フフフ、見つけたよ……『禁誘屍人』!」
「おうおうおう! 楽しそうな事やっとるやないかァ! アタシらも混ぜてや『禁誘屍人』! アンタがキャンプファイヤーの薪になるんやけどな!」
直後、魔女先輩の言葉通りに『禁誘屍人』は燃え上がった……
「やったか! いうてフラグ立てんでも、どうせ生きとるんやろうがおどれは!」
火が収まると、そこには焼き跡一つない『禁誘屍人』が立っていた……
「これが貴様の全力か? ……炎神クトゥグァの足元にさえ及ばぬようなぬるい炎、これが貴様の全力か?」
「……く、やっぱユートはんに貰わんなん、文字通り火力が足らんか……しゃあないか、ラト! ちょい時間稼いでや!」
「邪神使いの荒い魔女だねぇ、まったく…………『禁誘屍人』、キミの相手はぼくがするよ……だけど3分間だけかな」
バトンタッチすると言わんばかりに、ラトが……ニャルラトホテプの『囁くもの』が『禁誘屍人』へと殴りかかった……
「……貴様の拳も、ダルクの炎も、児戯に等しいな」
「く……ぼくもあまり得意じゃないから……ねっ!」
返事にと言わんばかりにバク宙蹴りを『禁誘屍人』にお見舞いしたが、受けた本人は身じろぎ一つしなかった。
「今の蹴りで確証した……貴様の拳にもダルクの炎にもまるで意志が感じられない。なまくらな剣のような戦いで、本当に我を止めようとしているのか?」
「く……」
「チッ……人質とっときながらよう言うたわな! アタシだってそっちに仲間が居らんかったらアンタへの憎しみ暴走さしてこの辺一帯アンタ諸共焦土にしとるわ!」
「…………仲間……」
歯噛みする魔女先輩とラトを見つめながら、真理が呟いた。




