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人は学を修められるか?その8

修学旅行の最中ですが、とりあえずシーホースさん回に参ります

 岩場と海の境目で僕を待っていたのは予想外の人だった……

「ユートさん……ごめんなさい、わたくしのワガママでこんな場所に連れてきてしまって……」

「いや、僕は別に気にしてないよ?(メタトロンさんに誘拐された事以外は)」

 シーホースさん(もう被り物は捨てたか部屋に置いたままにしたかしたようだ)は岩場にそっと手を添え、流されないようにと上半身だけを水上に出しながらその場所にとどまろうとしていた。

「……あ……ところでシーホースさん、なんで僕をここに呼んだの? ここに何かあるの?」

「…………ユートさん、あなたはここに来たことがありますか? ……いえ、あなたはここに来たことを覚えていますか? そして、わたくしと出会ったことを……」

「……覚えて……ない、けど……でも、この場所に既視感はある」

「ユートさんが覚えていなくともわたくしは覚えています……5年前の夏、ユートさんと出会ったこと、そしてユートさんとの思い出を……」

 5年前の夏……確かにミラさんはそう言った……

 5年前、順調に伸びていた身長が突然ピタッと成長が止まった時期、そして……原因不明な、突如泳げなくなった時期とぴったり重なっている……

 もしこれが偶然の代物なら、僕の運命を決めた神は相当に意地悪だろう……

「ユートさん……5年前のあの日、偶然こちら側の世界に来てしまったわたくしはあなたとこの海で出会いました……そして、その時に色々あってあなたは不完全ながら海神の加護を受ける身に……不完全な半人魚インスマスになってしまったのです……」

「……インスマス?」

 ふと、数ヶ月前にラトに連れられていった博物館で読んだ、人魚伝説の資料の内容が頭を過ぎった……

 人魚の肉を食べてしまった少女(八百比丘尼)は年をとらず病や外傷によって死ぬこともなく800年は生きた。

 …………あっ、なるほど……

 量が少ないとはいえ、人魚の肉に準ずる物を食べてしまった……ということかな?

「ユートさん……あれは事故だったのですよ? たまたまユートさんがわたくしが岩礁で怪我をしてしまい…………っ、思い出したら恥ずかしくなってしまいました……!」

 ……だいたいわかった。怪我をしたシーホースさんの傷(というか血)をたまたま舐めてしまったと……

 身長の方はだいたいそんな理屈だろうけど……なんで泳げなくなったんだろうか?

「だからといって気絶するまで水中に引きずり込むのは流石にやりすぎでしたよね……? ででででもあの時はとっさにテンパってしまったのでして……アワワワワ……」

「…………シーホースさん、僕の心よんでるわけじゃないんだよね?」

 四天王戦の真っ最中なのに打ち切りにされた漫画並みにスピーディーな自己解説だったが、ひょっとしてシーホースさんは……いや、ただ弁解してるだけだよ、きっと……

 ……急に空気を読まない電話が来たので、極力不機嫌な声を作りながら応答した。

「…………もしもし」

「もしもしユート君! 大変だよ大変! 今どこ……ってそんな事はともかく今すぐ隠れて!」

 直後、その言葉が聞こえていたシーホースさんに腕を引っ張られてバランスを崩して海に向かって倒れ……

 それとほぼ同時に左腕を何かが超高速で掠め……

 取り落としたスマホが液晶を上に、岩場に落ちた音と同時に海に転落した……

「ユート君! 大丈夫かい!? ユート君!」


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