番外編 人は聖夜を平和に過ごせるか?
※開幕から既に平和じゃありませんが、聖夜が平和ならば良かろうなのです
今日はクリスマスイブ……お父さん達は子供のプレゼントをこっそりと買いに行き、お母さん達は奮発してちょっと豪華な夕食を準備し、子供達はサンタさんに良いプレゼントをお願いする日……
まあ、ほんの数日前まで僕の周りではクリスマス? 何それな雰囲気だったわけだが……
『ほんの数日前まで』、だが。
「ねぇみんな、クリスマスを知っているかなぁ?」
発端はラトのその一言だった……
「クリスマスというのはね、好きな人と一緒に過ごす日なんだよ……そして、ぼくにとってはユートとスゴォッ!」
最後の叫び声は発言の最中に先輩に殴られた時の悲鳴だ。
……まあ、ラトがこんな事言わなきゃ、僕の争奪戦にならなかったし、最初から脱落しなかったんだけどね……
そんな話がどこからか広まって、話が寮の一室から寮全体、そして学校全体……更には魔界全土へと広まった……
風の噂によると、クリスマスの噂を聞きつけた魔王が勇者を拉致したらしい。
そんな事はどうでもいいとして、ラトの一言から始まった争奪戦はとんでもない決着を迎えようとしていた……
『さあ始まりました! 第一回小杉ユートさん争奪戦! 実況はわたくし魔界新聞のミクヤ・ヴァルシスと!』
『解説……デュラス・ホロウだ』
『デュラスさん! 誰が優勝してユートさんと聖夜を過ごせるのでしょうかね! わたくしはアリス様を応援するのですが!』
『…………知らん、勝敗などは我の管轄外だ』
本当にどうしてこうなった……
闘技場の実況席に縛り付けられながら、そんな事を考える。
どこぞのラトの一言から始まったクリスマス騒動は魔界全土を巻き込んだ一大イベントになっていた……
ちなみに主催者は魔界全土を統べる、魔皇リリスさん……ちなみに現魔王の母親……らしい。
聞いた話によると、僕の平常時魔力の約100倍以上の魔力を持つ魔女先輩でさえ辛うじて1分程度だけなら戦える現魔王さん、そんな魔王さんよりもリリスさんの方が遥かに強いらしい。
つまるところ逆らうのもアホらしくなるほどの強敵だった。
試合が始まった途端、何故この闘技場が選ばれたのか……非常に疑問に思うような地味な戦いが広げられた。
ポーカー対決という名のイカサマ合戦、腕相撲、ソリティア対決(1人でやっていろと言う間もなく決着が着いたが)、その他諸々の非常に地味な対決が半数を占めていた。
端から見れば馬鹿らしい対決だったのだが、至って真面目な表情で取り組む彼女達(少数ながら男も居た。大半は一回戦敗退だったが。)を見ているとそんな事はまるで気にならなかった……
むしろ、ついつい熱くなって両方を応援するまでに至った。
『さあさあ勝負も本戦! 見事予選を勝ち抜いた方々によるバトルロワイヤルです! 正に、闘わなければ生き残れない! そんな戦場の掟に則り、死なない程度にキャットファイトしていただきたいものです!』
『死が見えない……残念だ』
サラリとデュラスさんが酷いことを呟いたが、会場の熱気はそんな呟きをかき消すほどのものだった……
『ファイターの紹介に参りましょう! まず、我らサキュバスの王女様! アリス・キャロル様!』
ミクヤさんの身内贔屓が半端じゃなかった。まあ、実況なら別にいいのかも知れないけどね。
「おにーちゃんはわたしのものだからねー」
『非常に可愛らしいですねぇアリス様は! ……さて、お次は……その眼光はまるで飢えた狼かカエルを睨む蛇か! ミロン・エキドナ!』
飢えた狼の眼光とは、ほめ言葉なのだろうか? というかなんでエキドナさんが参戦してるの……
「若い子には負けないわよ?」
『エキドナか……興味深い……』
「まあ、まだ私もわか」
『娘が参加しているのに若いとはいったい……? 続いては』
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
『百万千万の働き蜂を統べる王女蜂! イアリ・ホーネスト!』
イアリちゃんも参戦していたとは……まあ、後ろから迫っているお姉さんに負けないように頑張って欲しい。
「イアリのターン? ハニー、イアリがんば」
「マイクを寄越しなさ」
『そこの年増うるさい! ……さて、次は……次期魔王候補及びその配下! いつもの4人! ……あれ、3人? ……いつもの3人! ガイギンガ! サマエル! ユラ!』
いつもの4人もしくは3人といわれても、まったくチームとしての馴染みがないのはどういうことだろうね……
「ドラグはどこだ! 裏切り者のドラグはどこ行った!」
「アッハッハ☆裏切り者は死有るのみ☆」
「おーこーなーのー! ユラはおこなの! ぷんすか!」
ドラグさんだけを倒す気満々のチームだった。本戦だけのチームらしいが、一戦もすることなく敗退する予感がした。
『まるで週一ペースでヤラレチャッタする悪役3人組ですね! そして次は……正体不明の蜘蛛乙女! 仮面スパイダー、ザウラス!』
アラクネ……? ……嫌な予感がしなくもないけど……
「………………」
……仮面付けてるけど絶対いつか会った子だ……
『なんか喋ってください! 次は……異世界の神! かみ』
「はいよろしくお願いします」
イズモ君さんそれフライング! チョンボ!
『……気を取り直しまして、次は……覇王龍の末裔! ドラグリアさんです!』
「3バカだけには負けない……!」
いや、勝つ気で戦おうよ……
『気合いも闘志も十分ですね! 次は……物理半減×魔法半減×精神半減×絶対防御=最強! 最強スライムにして兄を超える妹になれるかもしれない! 神河マリ!』
「ん? あ〜、お兄ちゃんをちゃちゃっと片づけちゃって後は二位……じゃダメだね、一位をねらわないとね〜」
某連邦ネタかと思いきやトップを狙う辺り、真理ちゃんも本気のようだった。
『残るは2人です! まず1人……旧き大魔術師少女! 本名不詳! 通称魔女先輩!』
「ども〜! ユートはん! 今夜は寝かせへんで〜?」
……魔女先輩が優勝するということだけは回避して欲しい。
『そして、最後に……オバサエキドナさんの娘にして、努力の天才少女……ミラちゃん!』
「………………優勝以外、眼中にはありませんの……!」
……その言葉通り、今のミラさんには誰が相手だろうと勝つという気迫があった……
たとえ神が相手であろうとどんな卑怯な手を使っても勝ちにいこうとする、そんな覚悟をした目をしていた……
『……それでは! 決勝戦! レディ…………ファイト!』
合図と共に……ほぼ一斉に呪文が唱えられた……
それとほぼ同時に、イズモ君さんは結界を張りながら中心に突っ込み、全ての呪文を反射した……
「ちょっと卑怯でしたかね、これ……」
確かに卑怯な一手だった。端から見れば、カウンターで勝ったようなものだったから……
……いや、まだ他に2人立っていた……
魔法を唱えずに何かを投げつけていた真理ちゃん、そしてまず真っ先に回避行動を取っていたミラさんだった……
「まあ、お兄ちゃんならそうすると思ったから……魔法を唱えなくて正解だったね〜」
そう言った真理ちゃんは少し小さくなっていて……
……イズモ君さんの体には白いスライムが付着していた。
「……ゑ?」
困惑するイズモ君さんに対して、ミラさんの尻尾が叩きつけられた……
「へヴぃ……」
「ツメが甘いですのよ」
イズモ君さんもまた、ミラさんの一撃によってやられてしまった……
「……ねぇミラ〜ボクも巻き込むなんて酷くないかな〜?」
「蛇だから言わせてもらいますの…………そこにいたあなたが悪いんですの」
何かの台詞の引用なのか、ミラさんはちょっと意味のわからない事を言った。
「ところでミラ〜ボクとミラ……いや、スライムとラミアのどっちが有利かは火を見るよりも明らかだよね〜」
「でも……鐘の音色が叩かなければ分からないように、戦ってみなければ勝敗は分からないものですのよ?」
「まあボクはどっちでもいいんだけどさ……じゃんけんで決めない?」
「……じゃんけん、ですの?」
じゃんけん? ……いやまあ、流石にじゃんけんで決めるのはどうかな……? そもそもミクヤさんの許可も
『じゃんけん対決でも大丈夫です! 問題はありません!』
「大丈夫なの!?」
まあ、ミクヤさんの許可がある以上じゃんけん対決でも問題はないんだろうけど……
イマイチ釈然としないというかなんというか……
「……っ、最初はグッ!」
「ぐ〜」
「「じゃんけん……! ポッ!」」
チョキ
チョキ
グー
「…………あ、アハハ、ごめんね2人とも……ボクが勝っちゃった」
じゃんけんに勝ったのはイズモ君さんだった。
「…………ミラ〜」
「…………マリ」
「……え? いや、ボクだって何の理由もなくこんな事したわけじゃ」
「「吹っ飛べ(ですの)〜!」」
イズモ君さん、空気読んで……
あの後イズモ君さんはみんなにボコボコにされたのか、全身包帯巻きになっていたけど、最初から事情を説明しておけば酷い目に遭わなかったんじゃないかなと思った。
まあ、半分自業自得だけどね。
イズモ君が空気を読まなかった理由に関しては明日投稿予定のお話しでフォローします。色々とすみませんでした




