人は神と一緒に小旅行出来るか?
「実はですねユートさん、あなたに頼みたいことがあるんですよ」
人魚姉妹とのドタバタの翌日、僕を訪れてきたイズモ君さんが開口一番に言った。
「実は、今日の夕方にですね……ちょっと極秘の計画が動き出すので、詳しい事は言えないんですけど……夕方、ボクと付き合ってください」
「……うん、どこに行くの?」
「外の八尾町です」
「…………うん?」
知っていないというワケではない。むしろ知っている。バリバリ知っている。
知っているどころか……
「僕の地元なんだけど……更に言えば、あの《ゲート》も……」
「……多分ゲートがあるからですね。あ、それと……誰にもこのことを言わないでください。ボクが代わりに説明しておきますから」
「うーん……じゃあ説明の方は任せるよ?」
本当に任せてもいいかと思ったけど、イズモ君さんなら大丈夫だよねきっと……
ミラさんには尻尾ビンタされ、真理ちゃんにはスキンシップされ、魔女先輩にはセクハラされ、先輩の助手に手を振られ、ドラグさんと会長には肩を叩かれて励まされ、アリスちゃんにはキスされかけ(その後頭を撫でてあげた)、エキドナさんには押し倒され、四天王(予定)2人には死亡フラグを強引に立てられ(サリエルのは確信犯だろう)、ハニ子さん(仮)にはイアリちゃんからの伝言を告げられ、(誰か忘れているような気がするけど)迎えた放課後……
僕達は再び、あの森を……物語の始まりの森を……訪れてきた……
ここに来るのは2、3週間振りだろうか? 流石に変わっていない。世界を渡る《ゲート》が開いているのも含めて、何も変わっていなかった。
「遊斗さん、向こうも用事が詰まっているので早く行きましょうか」
「……うん、そうだね」
案内されるがままに森を抜けると、山道の路肩に一台の軽四が止まっていた。
「……ディスウェイ。であります」
車の中から、運転手らしき女の人が僕達を呼んだ。
こっちに来なさいと言いたいのだろうか? それにしてもなんで中途半端に英語?
「今日はありがとうございますね、メタトロンさん」
後部座席に乗り込みながら、イズモ君がメタトロンという運転手の女性に礼を言った。
メタトロンさんの第一印象はクールビューティーという言葉が似合う女性だ。黒いスーツを着ているから余計に感じるのだろうか?
「……いえ、マコト殿も行かなければならない用事ですから……ついでと言うのは失礼なのでありますが、相乗りといった所でありますかな?」
「ところでメタトロン、さん? なんでその助手席の人……目隠しされてるの?」
「マコト殿は死ぬほど疲れているのであります。起こさないでほしいのであります」
「ンーー!」
「…………」
猿轡をはめさせられている所とか、どうみても起きている所とか、ツッコミ所は満載だったけど、怖いからそっとしておくことにした。
きっと合意(の部分がある)上での行為なんだ。そう思うことにした。だってイズモ君さんがツッコまないし
「そういえば、僕らって具体的にはどこ」
「……っぷはぁ……ねぇメタトロン……せめて縛るときには一言言ってよね!? 心と縄抜けの準備があるから!」
マコトさんが、的外れなツッコミをしたけど、これにもツッコむべきなのだろうか?
「マコト殿、茄子……もとい遊斗殿が目的地を知りたがっているようなのであります」
運転中だからと言わんばかりに、相方に話を……ちょっと待て
「茄子って何!? メタトロンさんも僕の事茄子って言うの!?」
「失礼、ヘブンズジョークであります」
ヘブンズジョークって何なの……?
「……ゴホン、遊斗君、君が行っていた世界の事……イズモ君から聞いたよ。ファンタジーみたいな世界なんだってね?」
「あ、うん」
「それでさ……話は微妙に変わるんだけど、君がこっち側に戻ってくる時に使った《ゲート》があったよね? あれだけど、つい1ヶ月ほど前までは……ゲームで例えるけど……プレイヤーキャラクターがある特定のX点Y点Z点にいる時に機能する《ゲート》だったんだけど、最近は常在型の《ゲート》に変わりつつあるんだよ。というかほぼ変わったんだよ」
「へー……なるほど……」
話の内容はイマイチ理解出来なかったけど、つまり僕が何度か通ったあの《ゲート》が開きっぱなしになっているようだ。
「それでね……2年前、異世界の存在を知っていた僕らはひとまず《ゲート》を観測する組織を作り上げたんだ。それで紆余曲折の末、異世界と交流するための組織を作り上げたんだ。ちなみに君は乃原さんの推薦で交流者……二つの世界の架け橋に選ばれたんだよ」
「……そこまでは良いんだけど……それと僕が連れてこられたことに何の関係が……?」
「ここからが本題でさ……《ゲート》が国毎に一個ぐらいになってくると予測されちゃって、個人で交流するのではなくて国として交流するっていう結論に総理と相談した結果なっちゃってさ……」
「………………えっ?」
すごく嫌な予感を感じる……
「つまりね今の総理、雨狸総理が直々にまず日本に異世界の事とかを発信して、それを海外のニュースで紹介して……ね?」
「ね? じゃなくて……」
それってとんでもない事になるのではないだろうか? ただ交流の無かった国といきなり交流し始めるのではない。根本的に人とは違う魔人との交流をするというのだ。
僕個人の意見にすぎないのだが、言っていることがかなりむちゃくちゃだ。一緒に暮らしても慣れるまでに2、3日かかった(2、3日しかかからなかった、とも言えるが)のに、交流の無い人達の場合は……
……いや、考えるまでもないかな? かなり無茶だろう。
「遊斗殿は……作戦が難しいと思うのでありますか?」
「……そりゃまあ、自分たちと違う形をした人達と交流するのにはやっぱり勇気が」
「遊斗殿……今、魔人の事を人と言ったでありますよ」
「……あー」
確かに、言われてみれば姿形は違えども同じ人として見ている気がする。
「まあ、かくいう私も人間ではないのでありますがね」
「…………ひょっとして天使ですか?」
「御名答であります。名前を知っていたのでありますか?」
「まあ……あ、ところで世間に浸透させる為に何かやったり」
「基本的に宣伝あるのみでありますな……コミケでそういう本を量産したり、ネットの作家を商業誌デビューさせたり」
「うん、まあろくでもない作戦なのはなんとなく分かった」
政府に関連した組織が宣伝を作戦に組み込むとは、どういうことなのだろうか? 昭和の特撮の悪の組織でももっとマトモな作戦を考えるだろう。
「何故かアメリカの方でもかなりの成果が上がったのでありますが……マコト殿」
「うん、まあ、あれはね……そういうお国柄かな? ああいうのが元々人気だったんじゃないかな?」
言っていることはよく分からないけど、2人はすごく複雑そうな表情をしていた。
「そういえばさ、メタトロン……漫画好きの大臣にモン娘漫画贈ったのはメタトロン?」
「…………」
「そもそもなんで贈っちゃったの!」
なんということをしでかしやがったのでしょうか、本当に……ありがとうございました。
メタトロン「今回のモン娘講座は天使であります」
イズモ「そこは乗っ取っちゃ駄目! って前回が乗っ取られてる!」
メタトロン「基本的な説明は置いておきまして、天使というのは熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、多田野……もとい、ただの天使(階級無し)という階級に分けられているのであります」
イズモ「多田野って誰ですか?」
メタトロン「階級が上になるにつれて少なくなるハズなのでありますが……最近、イズモ殿がスカウトして来られた方が上の階級から入ってくるので、座天使以上の数もかなり多いのであります」
イズモ「…………別にいいじゃないですか」
メタトロン「一応、天使のイメージは神の遣いでありますが、一時期ガブリエル殿は主神兼熾天使をしておられたのでありますし、神に叛逆しているサマエルもいるのでありますから、必ずしも天使が神の遣い的な存在というわけであります」
イズモ「まあ、だいたい合ってますね」
メタトロン「ちなみに人間も頑張って善行を積めば天使になれるのであります。有名どころで言えばわたイーノックやエリヤでありますな」
イズモ「……メタトロンさんは悪行を積み過ぎてるから、20歳の女性に格下げしてもいいかな?」
メタトロン「……ウリエルの二の舞だけは勘弁であります」
※ウリエルやラグエルといった一部の天使は冤罪によって堕天使に仕立て上げられたことがあります。いわゆる大人の事情という奴ですね




