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人は謎の穴を降りれるか?

遊斗「糸に巻かれて死ぬんだよぉぉぉぉ!」

 なんだかんだあり、僕が代表として命綱を付けて下に降りることになった……

 ただ……

「やっぱり暗いね……」

 一寸先は闇、まるで人生のように先が見えなかった……

 ……詩的に言ってみたけど、暗くて怖いのを誤魔化したいからだったりする。

 ゆっくり、ゆっくりとドラグさんに降ろして貰っているんだけど、懐中電灯を付けていても照らせないくらいに暗い穴……いったいこの穴はどこまで繋がっているんだろうか……

「…………?」

 ゆっくりと降ろして貰っていると、急に降下が止まった。

 ロープを降ろして欲しいと、片手でロープの先をつかんでもう一方の手で合図を送ってみた……

 だが、僕が下に降りることはなかった……

「…………!?」

 しまった……! 僕はまんまと罠に掛かっていた……

 懐中電灯で足元を照らしてみれば、微かに光を反射する糸のようなものが、穴を塞いでいた……

 穴の内径がかなり広かった以上、この穴に住んでいるこの巣の主の蜘蛛は……

 …………どうすればいい? 助けを呼ぶ? ……無理だ。つい5分前までの場所だったなら出来たかもしれないが、今はもう声も聞こえないだろう……

 ……強引にでも糸を引きちぎって脱出する? ……無理だ。蜘蛛の巣の粘着力はかなり強いし、足がほぼ固定されてしまっている……

 どうすればいい? 僕はどうすればいい? どうすれば……

「あらあら、獲物がかかったと思ったら可愛い子……」

 下半身が蜘蛛の女……アラクネが、かかった獲物を捕食するために巣へと戻ってきてしまった……

 いや待てよ……? 言葉が分かると言うことは、言葉が通じる可能性が高い……そして、コミュニケーション次第では脱出することも可能……!

「健康そのものの童貞……! 美味しそう……! どれだけ真っ赤な血を流すの……!」

 絶対無理だこれ。

 ほっそり痩せている体型のアラクネだったからなんとなく察していたけど、説得はほぼ不可能だった……

「叫びなさい……! むせび泣きなさい……! ワタクシのディナー……!あなたの悲鳴で彩って……!」

 アラクネは蜘蛛の前脚で僕を抱え持ち、両腕で首を締めてきた……

「…………!」

「美しい……! その苦しみに歪んだ顔……! もっと悶え苦しんで……ワタクシを悦しませて……!」

 首を絞められ、死期の近付く状況にて……救いの手は突然に差し出された……

「いや……っ!」

「……っ、ケホッケホッ……」

 急に首を絞めていた手を離され、咳き込んでいた僕が辛うじて見られたのは、完全に竜人化したドラグさんが自らの炎で巣の一部分に穴を空けた光景だった……

「ユート、無事か?」

「……ケホ……うん、なんとか……」

 死にかけたけれどね、と付け足そうかとは思ったのだが、分かりきった事だから言う必要はなかっただろう。

「とりあえず私につかまれ。巣を焼き払う」

「え? 巣を焼き払うって……! 待って……! ほんの出来心だから……!」

「貴様の事情など知ったことか! 貴様は今、外の……これから友好関係を築かねばならない世界の民を、あまつさえ傷つけ、食料にしようとしたのだ! そのような悪人に」

「…………ドラグさん、だからってこれ以上巣を燃やすのはやりすぎじゃないかな?」

 少しずつ燃え広がっている巣やドラグさんの言葉で、泣きそうになっていたアラクネを見て思った。

 確かにドラグさんの言うとおり、出来心とはいえアラクネは罰を受けなければならないだろう。だけど、いくらなんでも巣を燃やすのはやりすぎだろう。

「ふん……ユート、私が抱えて上に昇るから、命綱はその蜘蛛にくれてやれ」

「…………! ……ありがとう……」

「…………愚図め、礼なら貴様が喰おうとしていたユートに言え」

 そう言ってドラグさんは僕をアラクネの巣から剥がし、僕の体に巻いていた命綱をアラクネにへと渡した

「さらばだ、名も知れないアラクネ……運命の巡り会わせ次第ではまた会うことになるかもしれないな……」

 そんな意味の分からないことをアラクネに告げて、ドラグさんは洞穴を一気に昇った。


「なるほど……まあ、もし腕の2本や3本ポロッともげちゃっても、このサマエルさんがチャチャっと創ぞ……じゃなかった、繋げちゃうぞ☆」

 副会長権限で開けた生徒会室にて、穴であったことを伝えると、サマエルはそんな事を言った。

「今日は色々と疲れたから、ツッコまないよ?」

「ドケチ☆ そんなだからデュラハンに呪血カースブラッドぶっかけられちゃったんだゾ☆」

「…………は?」

「…………え?」

 今こいつなんて言った? 呪血カースブラッド? 字面からしてヤバそうな臭いがプンプンするんだけど?

「ああ、ドラちゃんも知らないのか☆ 呪血カースブラッドっていうのはね……死にそうになるほどの不幸を呼ぶ、液状の呪いなの☆ 死にそうになる、って言っても、あくまでも死の近似値に断続的に近付くだけでぇ、運が良ければ死ぬことはないし、それに一週間も経てば呪いは解けるし☆」

「…………ユート、用事が出来たから先に帰っていろ……校舎の内側を通れば危険はないだろう」

「アッハイ」

 ドラグさんの『用事』になんとなく想像はつくのだが、気にしない方が身の為だろう。

「それじゃあドラグさん、また後で」

「ああ……」

 触らぬ神に祟り無しということで、とりあえずドラグさん達を置いて帰ることにした。途中、サマエルの悲鳴が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。


イズモ「今回はアラクネー!」

真理「蜘蛛のおねえさんだね~……ボクが天敵になるのかなぁ~?」


イズモ「元はギリシャ神話に出てくる機織りの得意な少女の名前ですね」

真理「あれ? 生まれもっての魔物じゃないの?」

イズモ「後の創作の過程で下半身が蜘蛛の魔物のイメージになったというか……元の神話だと、女神アテネに機織り勝負を挑まれて、それで編んだタペストリーが神を皮肉った内容だったので、それに怒ったアテネがアラクネーに罰を与えて、彼女が自殺した後も「ぶっ潰しても!ぶっ潰しても!私の怒りは収まらない!」と言わんばかりに彼女に転生させたとか…………(ペラッ)うわっ」

真理「う~ん……アテネが悪いよね? 極悪おばさんだよね?」

イズモ(タペストリーがデウス神の不倫を皮肉ったものだって事は黙っておこう。)


真理「でもさ~お兄ちゃんは怒らないかもしれないけど、間違いなくブチギレるのはいるよね?」

イズモ「サタンさんは最近大人しいけど……誰?」

真理「ルシフェルとかレヴィアタンとか」

イズモ「……ノーコメント」

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