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人は満ち月の昇った魔境を生き延びられるか

 満月の夜……スネークもかくやという動きで、こっそりと校舎の中から寮を目指して移動していた……

「待てクルァ……そっちはエネミーがうじゃうじゃ居やがるぞ……」

 成り行きとはいえ、モヒカンヤンキー先輩とその取り巻きも一緒だけど、特に重要ではないだろうから放置だ。

「オイクルルァ……今オレ達を雑にアツカッタルルォ……オレは詳しいんだよ……!」

「小声でも覇気がある辺り流石ベテランの不良だよね、先輩は」

 一応言っておくのだが、別に遊びでやっているのではない。至って真面目だ。

 命懸けでェェェッ! もとい、命懸けでスニーキングしている。理由は……

「オイ後輩、オレ達も初めてなんだがよぉ……」

「勝利条件としては、元凶のサキュバスをどうにかするか、安全な場所に逃げ込んで一夜を過ごす……だよね?」

「……アニキ、そろそろ女が来るかも知れないッスから急いでほしいッス」

「ああ分かってる……行くぞ後輩、困ったちゃんの退治だぞコルァ」

「……ああ、なるほど……逃げるのは先輩の性に合わないって事ね……」

「そういう事でゲス。分かったらちゃっちゃとこっそりと歩くでゲス」

 いつぞや魔女先輩が言っていた『満月の夜は避難しろ』という言葉……

 まさか、クイーンサキュバスの生徒が自身の魔力を押さえきれなくなって周囲に影響を及ぼす事により、生物災害バイオハザードめいた事が起こるからなんて、予想だにしていなかった……



「兄貴、御達者で…………! っ、女共! 俺が相手だぁぁぁぁぁ!」

「さ……三郎ぅぅぅぅぅぅ!」

 というか、我ながらどうしてこの様な事になった……

 ゴーレム少女と対峙した日の夜なのだ。せめて夜ぐらいは休ませてほしかったのだけど……

「オイコラ後輩、なにひとりで現実逃避してやがる……!」

「え? ……ああ、なんだ、先輩か……」

 一応僕ら3人は無事についさっきの包囲網から突破できた……

 ひとり足りない? ……多分死にました。もしくは捕まりました。一応は囮になりました。

「…………果敢にして獰猛なる河童の三朗、散る……なあ後輩……もしオレら3人のうち2人がハグレても……死んじまってもよぉ……ぜってぇに、クイーンを止めるぞ? そうしねぇと三朗は報われねぇ……」

 二、三回しか(僕ではなく真理ちゃんと)拳を交えていないし一緒に逃げた時間も長くはないけど、この人の性格が今分かったかもしれない。

 きっと仲間思いで負けず嫌いなのだ。

 だから、勝てないと感づいていても僕(と真理ちゃん)に喧嘩を売って、1人だけ真理ちゃんにボコられるのだ。

「いくぜ、後輩…………走る準備はいいか? 前後左右、走りながら確認は可能か? 今から第零女子寮……通称悪魔の館……に突入する」

「分かったでゲス。善は急げでゲスから」

全速フル前進アヘッド、了解」

 僕もモヒカン先輩みたいになりたいなと思いながら……2人と一緒に全力で走り出した……



「もう駄目だ……お終いだァ……!」

「………………」

 天狗の玄次ゲンジさんは僕らが逃げる囮になって、散っていった……

 あのひとはぼくたちのゆうきだった。ぼくたちがゆうきをうしなわないかぎり、あのひともたたかいつづけるでしょう……

 ……これといった意味もなくゲーム風にいってみた。けど……今はそんな場合じゃない。

「なあ後輩……お前はちゃんと知ってるか? 捕まった奴らの末路を……」

「知らない……相当酷い目に遭うのはなんとなく分かるけど……」

「…………この現象で女子連中の本能が刺激されてるのは説明したよな? 厳密には魔女先輩を除いた女子だが……この本能を刺激されてるってのがちょっと厄介でな……率直にいうけどよ……弱い男はなぶり殺されて……強い奴は強い男で魔力共鳴を起こして人間辞めさせられるか、色々出し尽くして腹上死する」

「…………今更だけど、凄く捕まりたくないね……」

 人間を辞めるのはさておき……もとい、ともかく、死ぬのだけは嫌だ。

「ちなみに、去年の留学生は――女子が大半だったけどな――全員魔物アルプ化した」

「…………はい?」

 アルプとはサキュバスの親戚のような種族らしいとは聞いているけど……いや、色々と処理が追いつかない……

「あれ、アルプって事は女の子が女の子を襲ったってコト?」

「何か問題か? 今はンな事大切じゃねぇだろ? 今大切なコトはなぁ……この先にいるクイーンを起こすことだろうがよぉ……だから、少し休んだら……」


《魑魅魍魎網、発動!》


「「っ!!」」

 敵地では一瞬の油断が命取り……声が聞こえた直後、僕たちは白い帯のようなもの……おそらく包帯だろう……に拘束されてしまった……

《我が名は†白屍姫†》

 全身の大半を包帯で覆い隠している少女(仮)はそう名乗った……

「…………はぁ? †白屍姫†?」

 ……確かに今、この子は『†白屍姫†』と名乗ったハズだ。どういう理屈か分からないが、『†』の部分も込みで聞こえてきた。

 頭がどうにかなりそうだ……まるで意味が分からんぞ、と叫びたくなった……

「ヤべェぞ後輩……あいつ、一年の白ゆ」

『その名で呼ぶな!』

 哀れ、†白屍姫†の地雷を踏んだモヒカンバハキシ先輩は包帯に拘束されて†白屍姫†の包帯を付け替えられてミイラと化してしまった

『フゴフゴ……!』

『貴様はそこで静かにしていろ!』

 しかしこれはマズい状況だ……肝心のモヒカン先輩は包帯に縛られて戦闘不能だし、僕の方も逃げることが出来ない程に巻き付けられている……

「ウヒヒ! 良い尻ッス! ウヒヒ!」

『な、きゃっ……』

 突如、見知らぬ変態天狗(知らないったら知らない)が†白屍姫†を襲って、隙を作ってくれた……

 その隙を逃せばみんな犬死にだと、一生懸命にあがき……モヒカン型砲帯先輩を置いて、先輩に教わった部屋へと必死に走る……

 誰かの手によって、室内ながらも向かい風が吹いたが、必死に走る……そしてそれが誰かの手によって追い風に変わったが、まだ走る……

 そして、問題の部屋……012号室の扉を開いた

 そこのベッドには、12歳くらいの少女が横たわっていた……

 ……いや、横たわっていたというかなんというか……

(すぴー……)

「ぐっすり眠ってた!?」

 ラスボスが封印されていたならともかく、まさか普通にぐっすりと眠っているなんて……

「後輩! そいつは眠りひ」

『黙れ愚図が!』

「アバーッ!」

「「兄貴ィィィィィィィィィィィィ!!」」

 後ろからモヒカン先輩の叫ぶ声と布擦れ音が聞こえてきた……おそらくモヒカン先輩がモヒカン型ミイラに変化したのだろう。

 …………ええっと……『眠りひ』の後に続くべき言葉、一つ思い浮かんだというか、一つしか思い浮かばないのだけど……

 眠り姫? そうだそれだ。

 眠っているお姫様を起こす方法って? ああ!

 ……無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!

 ムリーヴェデルチ! 僕が! この子に! キスなんて! 無理! バレたら死ぬ! でもやらなかったら先輩か女の子に殺される!

 ………………頑張る。ロリコンじゃないし、たまたまファーストキスの相手が小さな女の子なだけだし。

「ん〜?」

 えっ、今このタイミングで起きるの?

「ん〜ちゅっ」

 …………えっ、今この子キスしてこなかった?

「…………………………スヤァ」

「………………………………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 こうして、僕らの深夜戦争は終わった……僕、そしてモヒカン型ミイラ先輩は大切な物を失った……








 ……なんて、こんな綺麗な終わり方をしていたらどれだけよかったか……

「ところでユート、この新聞(朝刊)に書かれているコトは事実か?」

 朝一番にドラグさんが見せてきたのは、魔界新聞という新聞の一面……そこには、どこから隠し撮りされていたのか、僕とクイーンサキュバスの少女がキスをした瞬間の写真がデカデカと掲載されていた……

「いやちょっとおかしいですよねこれ色々と……」

 肖像権はどうなっているのだ。あの薄暗い部屋でシャッターも焚かずにこのような鮮明な写真をいったいどこから撮影したのだ。それと、相思相愛の相手と書かれているが、会話すらしていない。それと、深夜の2時にあった出来事を朝刊に載せられる魔界新聞はどうなっているのだ。

「…………エロめ」

「いや違うそうじゃないよ。割と誤解だから。キスしたのは事実だけど、それは割と事故だし」

 続けて弁解しようとしたけど、ドラグさんの方に気を取られすぎていて、背後から尻尾を延ばしてきていた蛇への対応が疎かになっていたから……

 まあとにかく、締められて気絶しました。


クイーン「ん……わたしの名前……」

和久名「パンドラの高貴なる姫君という意味のプリンプリンというのはどうだ?」

クイーン「んー……やだ」

和久名「」

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