その決断は無情
誰かによって運命が決められているのならば、その誰かを殺してやりたいとさえ、私ことミラは思う……
ママをスネイルという腐りきった外道の嫁にしたその誰かを、そしてママに夫殺しの罪を背負わせたその誰かを……
そして……わたしにユートの命を奪わせた誰かを……わたしは絶対に許しはしない……
これは1人の人間の少年を巡る、通称魔人と呼ばれる半モンスターの少女達の物語……その物語の一つの最終章……
「……急に呼び出してごめんなさいね、みんな」
「なぁに? お姉ちゃん……? ……何か悪いことでも起こったの?」
いつもの余裕は影を潜め、申し訳なさそうに謝るリリスママに嫌な予感を覚えながら、わたしは周りを見た……
……姉の様子を訝しむアリス、バレバレの虚勢をはり続けている真理、目元を髪を目元まで下ろしたママ、リリスママの隣に立って今にも泣きそうな顔をしているイアリ……そして終始無言のまま俯いているイズモ……
……つまりはそういう要件なのだろう。
禁遊屍人がユートにかけた呪いの件……
性質は寄生、延々と命を吸い続け、最後には吸い尽くす、最低最悪の呪い……
授業中に倒れたユートを介抱した校医、そして自称魔界のDr間ことサマエルはそう解析した。更には、最悪の事態を想定してその覚悟をしておけとも……
……おそらくその最悪の事態の報告だろう。本当の、本当に、最悪の……ユートの命で禁遊屍人が蘇るという、最悪の事態の……
……悲しくないわけではない。泣きたくないというわけでもない。ただ……ただ悲しみよりも禁遊屍人に対する煮えたぎるような怒りの大きさが上回っていて、今は涙をせき止めているだけだ。
「……落ち着いて聞いて欲しいのだけれど……ユート君はもう…………魔皇としての決断をするとすれば、ユートを……誰かが殺さなければならないわ」
保健室にて……ノックして入ってきた魔女先輩はいつもの適当さなどつゆほども見せない、神妙そうな表情で僕の隣に座り……ベッドではなく隣に置かれていた椅子に座り……いつか見た、感情を捨て去った英雄のような表情で告げた……
「……ユート、落ち着いて聞いてくれないかしら? あなたは……もし周囲に迷惑をかけるような伝染病の最初の|感染者になってしまったとしたら……あなたはどうするのかしら? …………皆の事を考えて死ぬか、それとも……」
「魔女先輩……いえ、ジャンヌさん、問題を隠さないでくれませんか? 例え話なんかじゃなくて……直接、問題を……教えてくれませんか? というより……教えてください」
真剣な僕の言葉に気圧されてか、魔女先輩は顔を背けながらポツリ、ポツリと言葉を紡いだ。
「心して聞きなさい……あなたには……禁遊死人による呪いがかけられていて……」
「僕は……死なないといけないんですね……」
「……! アンタ、自分のことなのになんでそんな……!」
「……ショックですよ、流石に……死ななきゃいけないのは……本当は僕だって泣きたいですよ……でも……ジャンヌさんが……先輩が一緒にいるから……男として泣くのを堪えたいという、ただの虚栄ですよ……こんなの……」
ジャンヌさんは目元をハンカチで拭うと、無理矢理笑顔を作り、言った
「……ユート…………ほなら、死ぬ前に……せめて未練があんまし残らんように……手伝ったげるから……ユートはんも……な?」
「…………はい、分かりました……」
信じていた仲間のほとんどに裏切られ、未練を残したまま逝ったジャンヌさんには僕の気持ちが痛いほどわかったのだろう……それでも、僕の前では笑っていようとしていた……