その命は風前
「……これは……マズいわね……」
授業中に倒れたユー君の額に手を当て、その身にかけられている呪いの性状を分析しながら呟く……
ユー君にかけられているらしい呪いは、おそらく寄生の呪い……それも、コバンザメのような寄生というよりは宿主を食い破る寄生虫……それも、悪趣味にも解呪がほぼ不可能で、呪いをかけた主……禁遊屍人……が、魔王として魔皇として数々の悪党をほふってきたわたくしでさえ見たことのない悪党であると断言出来る程に、この呪いはわたくしが考えうる限り最悪の呪いだったわ……
人の命を少しずつ奪い、その命を糧に自身が復活する。その目的から考えれば、これほどまでに効率の良い呪いはないであろうと苛立ちながら……それと同時に恨んでも恨みきれない禁遊屍人に対して心の中で恨み言を呟いた。
「…………あれ、リリスさん……? どうしてここに?」
「……あ、ユー君……なんでもないのよ。将来的にわたくしの義弟もしくは身内になる可能性が高いあなたが倒れたと聞いて、丁度学園にいたから保健室に立ち寄ったのよ」
「そうですか……あ、アリスちゃんに聞いたんですけど、妊娠したんですよね? おめでとうございます」
「……ええ、ありがとユー君。人間でいえばつわりが来ているかどうかっていう時期だからまだ自覚はないのだけれど、これを嬉しくないといったら嘘になるわね」
そう、第二子の妊娠を嬉しくないといったら嘘になる。でも、ユー君にかけられている呪いがわたくしの心に暗い影を落としているわ。
どうしてユー君でなければならなかったのか……仮説を考えることはいくらでも出来るけど、今はただユー君を失ってしまう事になるという事を受け入れたくなかった……
この子を……時には義姉として、時にはミラの母代わりとして陰から見守りそして表に出て励ましてきたこの子を、わたくしは1人の女として……アリスの姉としてではなく、魔皇でもなくだ……ユー君を失いたくなかった……
「……ねえユー君……ちょっと酷い喩え話なのだけれども……もしもあなたが苦痛を伴う死病の患者だとして……あくまでも仮定の話よ……周りがあなたに苦しんで欲しくないが故の安楽死を望んでいたとしたら……あなたはどうするかしら?」
「…………まあ、多分僕は周りのいうことを無視して苦しみますかね? ……でもまあ、もしもその病気が致命的な感染症なら……大人しく死ぬことを選ぶかもしれませんね」
「……そう……あ、ユー君、ところで……手を握っても良いかしら?」
「……はい、どうぞ」
わたくしはユー君の手をギュッと握りしめた……
その手はとても暖かかった……