人は異形の神を殺せるか?
『我が貴様等の運命を告げてやろう。死だ。貴様等に待つのは死という運命なのだ!』
完全なる異形と化した『禁誘屍人』はおどろおどろしい声で僕達にそう告げた。
「ほほう、ならその言葉、そっくりそのまんまお返しするわ! バケモンめ」
「死、ね……そんなもの、私達は懐かしい程度の感想しか抱かないわ。アリスとユート以外……あ、『囁く者』もまだ生きたままね」
「……ぼくもまだ死んではいないんだけど……まあ、あまり怖くはないねぇ。死よりも生きている人間の方が百倍怖いんだから」
ラトが僕をチラリと見たけど、今はそんな場合じゃ無いだろう。
「……なあラト、いっそのこと、こいつ焼いて構わんよなぁ? 生半可な点の攻撃じゃ効かんなら、範囲攻撃すればいいんや!」
先手必勝と言わんばかりに、魔女先輩は『禁誘屍人』に向けて火を放った……だが、『禁誘屍人』は何事も無かったかのように蠢いていた……
『その程度の火が効くと思っているのかジャンヌダルク!』
「まさか! こんなつまらん火力だけしかない炎でアンタを葬れるなんて欠片も思っとらんわ! 籠手調べや、籠手調べ!」
「火に強いのなら……」「斬撃への耐性はどうかなぁ!」
直後、『禁誘屍人』の周囲を無数の小さなダアトちゃんが取り囲み、一斉に飛びかかった……
「ラト、ちいと時間稼ぎに手伝ってや! ラビ達3人を帰らすのにアタシとダアトはんの2人やと時間が足りんのや!」
「待って! なんで僕まで」
魔女先輩がナイフで『禁誘屍人』の触手を切り払いながら、怒りを露わにした。
「ちっ……やから、アンタは今の戦いに邪魔なんや!」
「でも……」
「でももドモンもない! せめてアンタには生きてほしいって気持ちが分からんのかこんのクソ後輩!」
魔女先輩が、ダアトちゃんと一緒に多方向から同時に『禁誘屍人』を突き刺し、そして先輩もダアトちゃんも、まるで埃を払うかのように飛ばされた……
「先輩! ダアトちゃん!」
『ハハハハハ! 所詮人の世の英雄とはこの程度か!』
「く……まだ……まだ戦えるわダアホが!」
魔女先輩が『禁誘屍人』に向けて火の玉を投げ、小さなダアトちゃんは無数の槍を投げつけた。
「ねぇおにいちゃん…………あいつと……戦う? アリスと一緒に」
「……アリスちゃん、その質問は聞く必要があるかな?」
そう答えた直後、僕は『禁誘屍人』に向かって走り出した……
「……っ、はぁぁぁぁぁ!」
「おにいちゃん後ろからも!」
迎撃してきた触手を籠手トレットで思い切り殴りつけると、触手は爆発するように弾け飛んだ……
『ぐぅ……無駄な事を……!』
そう言って『禁誘屍人』は魔女先輩達に向けていた触手諸共、全て僕に向けて一斉に殴りつけようとしてきた……
「無駄無駄無駄ですの!」
「ミラさん!」
遅れてきたミラさんは、遅れを取り戻さんと言わんばかりに速攻で青色の魔法陣を僕の周囲に幾重にも展開し……氷のドームを形作った
直後、触手の攻撃は全て氷のドームに当たり、罅は入ったものの砕けることはなかった……
「到着したのはミラだけじゃ無いわよ!」
『何……!?』
炎を纏いながら『禁誘屍人』本体にキックを放ちながら、エキドナさんも魔法陣を……ミラさんとは逆に、『禁誘屍人』の顔に当たるような箇所に極々小さな魔法陣を何十何百と寸分違わず重ね合わせていた……
「キックストライク! 極地的大爆炎!」
触手を引っ込める間もなく、『禁誘屍人』の顔は爆炎に包まれた……
『グ……ォォォォォ……!』
「……フッ……まあ、こんなところかしら? さあダアトちゃん達、やってしまいなさい!」
「あらほらさっさ〜!」
直後、『禁誘屍人』に四方八方から槍が突き刺さり、体中に魔法陣が浮かび上がっていた……
「……さようなら、ゴミクズ邪神」
直後、夜なのに太陽が現れたと錯覚するような爆炎の嵐が『禁誘屍人』を襲った……
その頃、陰ながら魔女先輩……ことジャンヌの命を救ったイアリは、666号室にて1人ふてくされていた……
「……イアリが役立たずなわけ、ありませんわ……ただ、ちょっと体が弱くて、適材適所の精神でいけば後ろにいるのが適しているだけですわ……ブツブツ……」
そう呟きながら、1人タロットカードを弄び、シャッフルし、捲り、そして再びシャッフルした……
「……死神(DEATH)……? ……まさかそんな……抜いたハズですのに……どうして……」
直後、雷光がイアリの居る部屋を青白く照らした……
「ハニー……!」
嫌な予感を覚えたイアリは、居ても立っても居られず、何も持たずに部屋を出ていった……
「はぁ……はぁ……終わったん、やろうな……?」
動かない『禁誘屍人』を見下ろしながら、魔女先輩が肩で息をしながら誰に聞くでもなく呟いた。
「これだけボロボロなら、悪くても虫の息でしょうね」
そう言って白いダアトちゃんは更に5本の槍を突き刺した。
おそらく本当にもうこれで死んでいるのだろう。
「みなさーん! さっきの炎は……って何なんですかこの怪物は……?」
飛んで火に入る秋のイズモさんというかなんというか……さっきの魔女先輩の炎を見てホイホイやってきた。
「あ、お兄ちゃんお兄ちゃん! ちょっと色々あってダアトおばさんと合体したんだけどね」
「誰がおばさんかしら……!」
「まあまあ、ダアトちゃんも真理ちゃんも落ち着いて、ねっ?」
つい5分前まで死闘を繰り広げていたとは思えないくらいに、呑気な真理ちゃんだった……
まあ、いつまでもピリピリしてるよりは遥かにマシだけどね。
「なあイズモはん? ちょっち頼みたい事があるんやけどな~すまんけど、アタシ何日か後に行きたいとこがあるから、ちょっとマコはんに許可取っといてくれへん?」
「え? まあいいですけど……」
「ユートはん、一緒にデート行こうや!」
「僕とのデートだったんですか!?」
初耳だと言わんばかりのツッコミを入れるも、両方の側頭部を軽くはたかれた。
「ダーリン、他の女とのデートは私の許可をとってからにしてくれないかしら? でないと……あなたを殺して泥棒猫を殺しちゃおうかしら」
「ユート、どうして魔女先輩まで攻略しているんですの……? 流石にそれは許し難いですの」
「いやいやいや! 僕巻き込まれてるんだけど!」
「おにいちゃんー! おにいちゃんはアリスのものだよ」
パタパタと小さな翼で飛びながら、アリスちゃんが僕に言った
「……賑やかですね、遊斗さんの周りは」
「……賑やかで済むのかなぁ?」
日和見的なイズモ君に対して珍しくツッコむ真理ちゃんは、同じくらいの身長も相まってどちらが年上か分からなかった。
『……グゴゴ……オノレコスギユ-ト…………コノウラミ……ハラサデオクベキカ……!』
すでに死んでいたハズの『禁誘屍人』は肉片と化しながらもはっきりとした意思を持ちながら、人知れず何かを行い……そして今度こそ力尽きた。
この話のラストである展開を考えていたのですが、少し後回しにしておきます。
とりあえず、結構日常回をやった後にそろそろラストにしていくかもしれません。
ところで、リリスさん家の家系図がかなりカオスになってました
アリス←姉妹→リリス←親子→ディア←実質夫婦→コンコルド
ドラグ←いとこ→ガイギンガ←叔父と甥→アルカード←夫婦→リリス←親子→『???』
リリスさんとアリスちゃんは姉妹ですが、魔人基準でもかなり年の離れた姉妹です。クイーンサキュバスの一族では稀によくある事ですが。ディアさんから見ればアリスちゃんは叔母なのですが、10歳は年下なので妹のように扱っています。
吸血鬼辺りを補足しますが、アルカードとブラドちゃんの関係ですが、遠い親戚です。更に、ディアさんとガイギンガはいとこでガイギンガとドラグはいとこですがガイギンガの母親(ドラグの叔母)が龍人の家系で父親(ディアさんの叔父)が吸血鬼の家系なので、ディアさんとドラグに血縁関係はありません。
完全に裏設定ですが悪しからず。




