失楽の聖女、楽園の魔女
「ああ、もう……ただいまー……ラト、プリンないか?」
暗い顔の魔女先輩ことジャンヌ・ダルクが帰宅した直後、開口一番ぼくに無い物ねだりをした。
ちなみにジャンヌの要求はぼくもラビもお菓子作りが下手なことを分かっていて、かつここ数日ぼくが学園の外に出ていないことを分かった上での発言だ。
「プリンなら、お小遣い渡すから買ってくれば良いんじゃないかい?」
「なんでアタシがほんな事……面倒くさいやんか」
「……ジャンヌ、君の面倒くさがり癖は相当の物だ」
「しゃあないやろうが、こちとらアンタに無理矢理英雄やらされた挙げ句にち〜んって実質死んでもうたんやし。反動で働きたくなくなってもしゃあなしやろうが」
「……イズモ君の知り合いと同じ事を言うんだね、ジャンヌ」
そんな事をぼやきながら、ラビが無言で渡してきたジャンヌの下着類を受け取った。
……サキュバス謹製の勝負下着だけど、いつもズボンしか履かないジャンヌがスカートを履いてチラリと見せるべきパンツを有効活用した事なんてこれまではおろかこの先もほとんどないだろうね。
「……なあラト、一応言うとくけど、アタシはジャンヌダルクだった頃はすんごいモテとったんやぞ? アンタが処女捨てたら予言やめるゆーたから今の今までずぅっと処女のまんまでいたけどな」
「へぇ、ジャンヌダルクに求婚した男の中にマトモな男はいたのかい?」
「ウグッ……そりゃあ、聞く方が野暮やろ? いっつも青髭のおっちゃんに守られとる美少女やから、求婚したくても出来ひん男の子の1人や2人、おってもおかしく」
「青髭…………」
どこか青髭の呼び名が引っかかったが、すぐに思い出した。
ほとんど四六時中ジャンヌダルクの隣でジャンヌダルクの純潔を良かれと思って守り続けていたジル・ド・レだったか……
生前の彼は本当にぼくとジャンヌダルクの運命を狂わせたよ……
ただ、惜しむらくは……『禁誘屍人』に唆されてさえ正気を失わずにジャンヌダルクの為を思い、ジャンヌダルクと同じ姿でジャンヌダルクの記憶を持ったホムンクルスに対しても尽くしてきた彼が現代では『狂気の魔術師』と呼ばれているのだからねぇ……
まあ……ジャンヌからすれば青髭はただの狂人か……
「ん、どしたんラビ? にゃ、フランス語の手紙? なあラト……この名前、ジル・ド・レって……おっさんか?」
「……!? 中には何て書いてあるんだい!?」
「まあまあ、焦らんでええやろ、ラト? …………なるほどな、なあラト……『禁誘屍人』を殺すには…………いえ、ジルおじさんの名前を騙った『禁誘屍人』を滅ぼすには、ワタシの魔力で足りるかしら?」
……本当になにをやってるのかな、『禁誘屍人』は……
ふつうのにんげんがなんびゃくねんもいきているはずがないじゃないですか
申し訳ございません、このような和久名の不手際で超展開めいた事をやらかしてしまいまして……
いつか全面を書き直す機会があるとすれば、伏線を増やすなりなんなりしましょうか。




