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人は旧英雄の夢を見るか?

「……なあユートはん、いっつも思うんやけど、なんで怖い物のイメージが刃渡り15センチのナイフなんや? 庶民的どころか、凄いショボいやんか」

「いや……まあ、これは……」

 目の前に置いたナイフ……僕が魔女先輩に教わった、比較的簡単かつデメリットの少ない魔法で簡易的に創造した物だが……を見つめながらどうしたものかと目を泳がせた。

「『禁誘屍人デッドマン』にユートはんが殺されかけた日の次の日も、アタシ言うたよな?」

「「『恐刃の呪』は自分の思い浮かべる恐ろしい物を魔力で具現化させる呪文やから、あんまし連発出来んとはいえ使い方とイメージによっては銀の弾にも豆鉄砲にも成りうる」……ですよね?」

「アタシの言葉に丁度ハモらすくらいならもうちょい強いイメージを思い浮かべぇや! ユートはんの切れ味以外取り柄のないナイフやと……今度『禁誘屍人デッドマン』が来たらユートはんが死んでまうやないか!」

「…………」

 魔女先輩の説教も、ごもっともだった。

 ダアトちゃん、そして『禁誘屍人デッドマン』との事件の後もラミアさんの騒動と吸血鬼の事件があったが、僕は何も出来なかった。吸血鬼の時に至っては、半吸血鬼化しかけていた変態ユウ君の助けがなければ、僕が吸血鬼になっていたかもしれなかった……

 こんな状態の僕が『禁誘屍人デッドマン』と遭遇しようものなら、間違いなく殺されるだろう……いや、なぶり殺しに遭うだろう。

「魔女先輩は……先輩の恐いものは何ですか?」

「んー、人を救国の英雄だのなんだの持ち上げておきながら腹ん中で悪い考えてるような人間や」

 やけに具体的かつ参考にならない答えだった。

「なんや? そんな聞かなきゃ良かったみたいな顔して……まあ、具現化したんは次に恐いと思っとる炎やけどな。」

「炎、ですか……火じゃなくて炎…………」

「ユートはんにも使えるようにすることは出来るっちゃあ出来るんやけどなぁ……絶対トラウマになるでぇ〜? 磔にされた足元から少しずつ火が迫ってくるんはなぁ……」

 魔女先輩の答えに関して熟考する僕を見て、窓辺で空を見上げていた先輩がポツリと呟いた。

「…………先輩?」

「いや、な……ユートはん、アンタは英雄になりたいゆうて思うか?」

「……思いませんけど」

「……ならちょいと条件を付け足すわ。もしユートはんがこわ〜い兵隊に占領された街に住んどるほとんど何の取り柄もなかった男の子やったとして、もしある日神様から「あなたは英雄になるべき人です」ゆうて唆されたらどうする?」

「それは……」

 もしも僕がそんな立場になったとしたら、神様の言葉に従うだろう……自分の為ではなく、周りの人のために。

「ちなみにアタシは英雄になろうとした。そして色々あって魔女だのアバズレだの、味方やったハズの連中に掌クルリと罵られて、アタシは火炙りで死にかけた。ちゅーか一回死んだ」

「…………魔女先輩、先輩の本当の名前はもしかして」

「なんやユートはん? 今のアタシは名無しの魔女やで? ……多くの民を導き、惑わせ、そして狂わせた幻の英雄、ジャンヌ・ダルクはアタシじゃないんや……」

 こちらを向き、そう呟く魔女先輩の背後にあるハズの太陽は、厚い雲に覆い隠されていた……


魔女先輩の過去に関しては、最初からあのようにするつもりでした。伏線が不足していたような気がしなくもありませんが。

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