7話 剣になった私
あれから工房にやってくるようになった我が嫁を何度も励まし。
必死に復讐を呼びかけた私でしたが。
「騒がしい。静かにせい」
工房の白髪のじいさまは、想像以上の地獄耳。
生気のない我が嫁は、まるで抜け殻のように無表情。
いやらしいロンギヌスさんは、我が嫁を見て鼻の下を伸ばしっぱなし。
そして。
村正さんは我が嫁に磨かれ始めて、自慢の房飾りを揺らして上機嫌。
えっ? 上機嫌ですと?
『村正さまあ!』
村正さん命の草薙さんが、我が嫁に嫉妬して大号泣しております……。
確かに。無口で根暗だった村正さんが、我が嫁に優しく撫でこすられ、いまや妙に明るい気をかもし出しているのを見せつけられては。嫉妬の炎も燃え上がるというものでしょう。
そんな私も草薙さんに負けず劣らず、ぼうぼう燃え上がっておりました。
我が嫁よ! 私を磨いてくださいよう!
「レクルー、反応するな。無視しろ」
業師のじいさまが我が嫁に命じて、怖い顔でこちらをにらんできます。
「こやつはとんでもない悪魔ぞ。おぬしではとても主人になれぬ」
な……悪魔ですと?
遠い遠い昔、キリスト教を信仰する国で生まれた、敬虔な英国紳士の私に向かって。
よりによって、悪魔とは!
「そいつは全くの無傷だ。さっさと封印所に戻したいのだが、そこからびくともせんでな。困っている」
白髪のじいさまはそういいますが。戻るわけにはまいりません。
私は、我が嫁を助けなければならないのですから。
「ともかく一切相手してはならぬ。よいな。決して、言いなりになるでないぞ」
白髪の業師はきっぱりと、我が嫁に忠告しました。
うぬぬ。こんな無体なことを吹き込まれては。
私の株が大暴落どころか、逃げられてしまうじゃないですか。
ここはひとつ真剣に、我が嫁にアピールしなければなりません。
いかにこの私「エク以下忘れました」が由緒正しい出自であり。
本家より優秀であり。史上最強最高の剣であるかを。
こうして私は意を決し。
我が誕生の瞬間より始まりました我が高貴なる生涯の記憶を。
微に入り細にわたって。我が嫁に語り出したのでございます……。
それははるかな遠い昔。一万と二千年前。
今はもう亡きあの青い青い星。大地よりも海が多い星が、いまだ美しく輝いており。そこで人間が入り乱れ。日々争いあっていた頃のこと――。
私の生まれた国は、当時人々にブリタニアとかアルビオンと呼ばれておりました。
その国には、大きな湖がありました。
一年中霧の立ちこめる処で、湖にはぽつぽつと、小さな丘のような島が無数に在りました。
湖のほとりには大きな修道院があり。土地の者はアヴァロンと呼んで畏れ敬っておりました。
そこはもともと、古き神々に仕える者たちの、神聖なる聖地でした。
キリストの教えが東の大陸から入ってきて、教会が建てられるようになると。人々は徐々に改宗し、いつしかみな、イエスを崇める者となり。
聖地アヴァロンもキリスト教を受け入れたのですが。
古き神々の魔法の息吹は、いまだアヴァロンに色濃くとどまっており。イエスの教えとともに、太古の魔法が綿々と伝えられておりました。
そのいにしえの技によって、私は生まれました。
いえ。生み出されました。
とあるひとりの敬虔な修道士……のふりをしていた、魔法使いの手によって。
生まれたての私は、アヴァロンの湖に浮かぶ小島のひとつに建てられた、小さな鍛冶小屋で目覚めました。
目覚めたとたん、お腹が空いて空いてたまりませんでした。
「腹がへっただと? そのような感覚をなぜ覚える?」
金床の上に横たわる私を、ハンマーを握った魔法使いが覗き込んでおりましたのが。私の、剣としての一番はじめの記憶です。
「さきほどからそれしか言わぬが。私を覚えておらぬのか?」
魔法使いは黒い修道服を着ており。なにやら古めかしい言葉で、怪しげな呪文ばかり唱えておりました。
目覚めた私のすぐ側には。いかつい甲冑を着た人間の男がひとり。並んで横たえられておりました。
その男は血まみれで。完全に息絶えておりました。
「言葉は覚えているか? この国のしくみや歴史などはどうだ?」
魔法使いは思い出せることを思いつく限り喋れと命じました。
しかし私の頭の中には疑問符ばかり。
ここは鍛冶場のようですが。どうして私はここにいるのですか?
それになんだか。手足が動かせないんですけどどうしてですか?
それにひどく。お腹が空いてるんですけど。何か食べ物をくれませんか?
「食べ物など必要ない。おぬしは剣になったのだ」
あっさりさらりと言われましたので。私はひどくびっくりしました。
「体の損傷が激しくて、魂をどこかに移すしか、おぬしを生かす手だてがなかった。ゆえに剣に移した。おぬしが数十年苦楽を共にし、こよなく愛した剣に――」
魔法使いは深いため息をつきました。
「と、言いたいところだが。おぬしの剣は、湖の底に沈んでしまった。ゆえにその複製品に移したぞ」
ということは。私の隣で死んでいるこの甲冑姿の男こそが。
元の私というわけですか?
「本当に忘れてしまったのだな。いかにも、ここに横たわる男こそ、もとのおぬしだ」
つまり私は。戦で死んでしまった人間だったのです。
確かにすごい致命傷でした。男の頭は兜ごと、真っ二つに割れておりました。
「あろうことかおぬしは、腹心の臣下であるモードレッド卿に反乱を起こされ、しかも彼と一騎打ちとなり、相打ちになったのだ。モードレッド卿の方は即死だった。だから城を空けてはならぬと、あれほど忠告したのに」
修道服の魔法使いは頭を振り。眉間にしわを寄せました。
「おぬしの無鉄砲なところは、最期まで治らんままだったな。
我が弟子よ」
魔法使いの名はマーリンといいました。司祭にして医者にして学者にして鍛冶師で音楽家。なんとも多才な人でした。
生前のことをすっかり忘れてしまった私に、彼は「生前の私の人生」を教えてくれました。
それによりますと。私は幼い頃、この魔法使いの弟子だったのだそうです。
本当ならばアヴァロンの修道士になるところだったのに、手違いで戦士となり。ついにはキャメロットという城の城主にまでなったそうです。
「全くひどい手違いだった」
ある年のクリスマスの晩。腕白な修道士見習いの少年であった私は。祭壇に突き刺さっていた聖遺物の剣を、いたずらに引っこ抜いてしまったそうです。
その剣こそは、デウス・エクス・カリブルヌス。通称エクスカリバー。
私の父方の遠い先祖であるローマ帝国軍人、百人隊長アンブロシウス・アウレリアヌスの愛剣にして。アヴァロンの修道院の聖遺物。
百人隊長アウレリアヌスはこの地一帯に言い伝えられている英雄です。
ハドリアヌス帝の御世に築かれた、島を横断する長い長い城壁に陣を張り。愛剣カブリヌスを振り回し。南下してくる異民族の侵入を食い止めました。
彼は当時古き神々の聖地であったアヴァロンに、己が分身として愛剣カリブルヌスを奉納し。海を越えてローマへ帰っていきました。
それ以来ずっとカリブルヌスは、鋼鉄の守護神として、崇められておりました。キリストの教えが来ても変わることなく。数百年もの間、ずっと。
そんな大そうな御神体を、いたずらで引き抜いてしまった私を。周囲の者どもは放っておくはずがなく……。
「以来おぬしは、聖遺物を引っこ抜いた罪を償うために、先祖アウレリアヌスの再来として生きる道を歩むことになったのだ。すなわち剣でもって奉仕する道をな」
城持ちにまでなったとは。ずいぶん性に合った生き方だったのでしょう。
「数十年間、おぬしは民と彼らが信ずる神の教会を守るために戦い続けてきた。祭壇から抜かれた剣は常におぬしと共にあり。北から侵入してくる異民族どもを次々と屠ってきた。国土防衛だけではなく。盗賊や近隣に出没した化け物も剣のひと振りでみな倒したものよ。あの聖剣カリブルヌスこそは。あまたの経験と記憶をおぬしと共有する最大の盟友であったな」
魔法使いマーリンは、慰めるように言いました。
「しかし剣は今や湖の底だ。残念ながらおぬしの記憶を戻す手立てはないな。我が弟子よ」
我が師マーリン曰く。私が封じられたこの剣は、私が剣を引っこ抜いた後で、体裁をつくろうべく作られた「カリブルヌスの複製品」だそうです。
ゆえに刃がついておらず、人を斬ることはできません。
もし私が、ずっと苦楽を共にし、私と共通の記憶をたっぷり刻みこんでいる本物の方に入っていたら。絶対に私の生前の記憶が消えることはなかっただろうと、魔法使いはいいました。
そんな大事な己が分身を、なぜ私は湖に沈めてしまったのでしょう。湖の岸近くで戦っていて。敵にはじきとばされでもしたのでしょうか。
がんばって思い出そうとしましたが。私は何も思い出せませんでした。
「おぬしは虫の息でこのアヴァロンに担ぎこまれてきた。私はファタ・モルガーナに泣いて懇願された。おぬしを決して死なせるなと。ゆえに禁断の魂移しの法を行使したのだ」
ファタ・モルガーナとは、誰ですか? と聞きますと。
「自分の家族すら覚えておらぬのか。モルガーナはおぬしの異父姉だ」
ほどなく私はマーリンに抱えられ。霧たちこめる小島のひとつに舟で渡りました。
島には小さな小さな修道院がありました。
湖のほとりにあるものよりも、比べ物にならぬほど小さいものです。
ですがここがかつて。古き神々が宿る、一番の聖所だったそうです。
ファタ・モルガーナは。そこにいました。修道女の服を着て。
しかし彼女の正体は、古き神々の聖地を守る巫女そのものでした。
彼女はとても美しく、まだ十代かそこらに見えました。
これがあの、どう見ても四十は越えていた男だった私の姉?
とてもそうは見えませんでした。
ぬばだまの長い黒髪。花瞼の中に輝く澄んだ蒼い瞳。
薔薇色の頬。桜桃の唇。
真珠のごとき白い歯に白い肌。細い腕に柳腰。
濃くも薄くもない青蛾で遠山な眉。すらりと伸びた背筋。
たしかに傾城傾国を招くような妖艶さはありますが……。
「なんですって? 我が弟は剣の中にいるというのですか? あの子の躯を治してくれたのではなかったのですか?」
小鳥のような声。少し棘のあるようなその口調は、まさに解語の花。
三十二相完璧にそろっていて趙痩で。別嬪なことこの上なく。粉黛で上髱で貌佳花で華麗で佳麗で美麗で瓜実顔で。
あたかも清楚な聖母マリアのごとく。
この人が……私の姉?
なんで奥さんじゃないんですかぁ!
ああ……修道女なのが本当に、もったいないと思いました私。
立てば芍薬座れば牡丹。歩く姿は百合の花。太陽も月も恥じ入る美しさ。
女神。
ええ、たったひと言でいえば。
女神そのものでした、この人は。
「マーリン、我が弟の様子が変です。まさか私がわからぬのでしょうか?」
「申し訳ないファタ・モルガーナ。新品同様の剣に封じたせいか、記憶がすっかり飛んでしまったようだ。魂封じは秘法中の秘法。やはりそれなりの代償が要るということだ」
「記憶が? ああ、なんということ……」
麗しき我が姉は。美しい口元を崩し、私を悲しげに見つめました。
「ファタ・モルガーナ、だが私はこうしてあなたの弟を救ったのだ。報酬をもらおう」
「あ……!」
モルガーナさんはいきなり強引に。我が師にその場で修道服を脱がされてしまい。
「あなたのために、あなたの弟を救ったのだ。愛している……」
あっという間に我が師の腕の中に抱かれてしまいました。
二人は修道士と修道女だというのに。
目の前にいた私は、大変困りました。せめて私に服をかけるなりして、隠すなりなんなりしてほしかったものです。
二人はひとしきり激しく愛し合いました。
この時の二人は本当に。まちがいなく相思相愛でした。
密事が済むと。泣きながらモルガーナさんが懇願しました。
「お願いです。剣を……弟を、ここへ置いていってください」
「だめだ。これはアウレリアヌスの聖遺物。大修道院で保管する」
「ここでよろしいでしょう? 私の弟なのですから」
「だめだ。女などには任せられぬ」
相思相愛だった二人の仲に。この時小さなひびが入りました。
個人的には、美女のモルガーナさんのそばにいたかったのですが。
マーリンはそれを許さず、有無を言わさず私を連れ帰り。湖のほとりにある、大きな修道院の祭壇に飾ってしまいました。
我が師と我が姉の間のひびは。それからどんどん大きくなっていきました。
もともと古き神々の時代には。女神の依り代となる巫女の地位が絶大だったそうですが。
キリスト教の時代となった今。司祭である男の地位が急激に高くなったのだそうです。
もと巫女だった修道女たちは、そのことに危機感を覚え。加えてモルガーナさんは、私を手元におけぬことを恨みに思い。
ほどなく大小の修道院、つまりマーリン率いる修道士と、モルガーナさん率いる修道女は。ことあるごとに対立するようになってしまいました。
私はといえば。お腹が減って減って仕方ありませんでした。
剣だから食べ物などいらぬといわれても、飢えは一向におさまらず。
日がな祭壇の上で、ひもじい思いをしておりました。
そのような中で我が師マーリンは、神の声を告げる剣、すなわち私のご利益を津々浦々に知らしめて。近隣一帯をアヴァロンの修道院のものにし。あたかも王のようにふるまいはじめました。
対立するモルガーナさんは、それを看過することができませんでした。
そしてついに……
美しき我が姉は。大修道院に火をかけるという暴挙を犯したのです。
麗しき我が姉は。燃え盛る炎の中で。私を抱えて逃げようとした我が師マーリンを阻み。
気が狂ったように高笑いして。そしてこう叫びました。
「マーリン!よくもこの私をだまして弟と契らせましたね! 私はモードレッドはずっとあなたとの子だと信じておりましたのに! 反乱を起こすようモードレッドをそそのかしたのも、あなただったとは!」
私は混乱しました。
私を倒したモードレッド卿は我が姉の子? しかも父親は……この私?
古えの巫女の血をどうしても入れたかったとか。禁忌の子は魔力が強くて魔王にうってつけとか。従順な弟子が欲しかったとかなんとか。マーリンはぶつぶつ言い訳めいたことをほざいていましたが。
美しき我が姉は、この魔法使いを容赦なく糾弾しました。
「モードレッドを傀儡にしてキャメロットを乗っ取ろうなど、何と忌まわしいことを! その計画が潰えても悪びれもせず、謀略で殺した我が弟を聖遺物に封じ込め、その威光を利用して世を支配しようとするとは!」
「モルガーナ、あなたの弟をよみがえらせたのは、愛するあなたに懇願されたからだ。私は野望など決して抱いてはおらぬ」
美しき我が姉は。革にくるまれた細長いものをマーリンに突き出しました。
「しらばっくれても無駄ですわ。何年もかけ湖を探させ。ついに引き上げさせました。私は見ました。この剣に刻まれた弟の記憶を!」
マーリンは凍りつきました。
かなり汚れて錆びてましたが。それはまさしく、私にそっくりの、まごうことなき本家。
エクスカリバーでした。
「見えました。この剣からくっきりと。我が弟の絶望と悲しみが。だれが弟を殺そうと企み。だれが弟を甦らせた際にその記憶を都合よく消し。だれが弟の記憶を持つこの剣をアヴァロンの湖に沈めたのか。マーリン、すべてあなたです!あなたのしわざです! 許しませんわ!」
姉は本家の剣を抜き放ち。マーリンに斬りかかりました。
魔法使いは私を抜き放ち。その攻撃を受け止めました。
剣の刃が合わさったその瞬間。
生前の私の記憶が、どっと本家の剣の刃から流れ込んできて。
私の脳裏にその情景が浮かびあがってきました。
相対する二人の戦士。
ひとりは私。もうひとりは少年のような若者。
私の剣は、しっかり見ていました。
一騎打ちする直前に、若者が私に真実をすべて告白するさまを。
私はその告白を聞いて知ったのです。
私を倒したモードレッドが実は私の息子であり。この美しい姉が産んだ禁忌の申し子であったことを。そして我が師マーリンこそが。モードレッドを養育して、私を殺すよう洗脳していたことを。
そして私と姉は、モードレッドの父はマーリンだと、ずっと思い込まされていたことを……。
剣は全部見て、覚えていました。
すべてを知った私が、絶望したゆえに気狂いのごとくになり。
容赦なく実の子を殺し、虫の息で我が師を責めるさまを。
我が師が我が美しき姉に懇願され。わざと私の記憶を消して私の魂を剣に移植したさまを。
そして我が師が。すべてを見ていた剣自身を、湖に沈めるさまを…。
我が分身であった剣は。
すべて深く深く刻みつけていました。
その銀色の。隕鉄の刀身に。
『我が姉を愛するゆえに、私を殺しきれなかったとは。私を剣に移植などしなければ。悪事がばれることなどなかったでしょうに』
「そ……そんな目で見るな!」
突然我が師は私をとり落とし。あとずさって私に叫びました。
困りました私。
だって、目なんて。どこにもありません私。
ですが我が師はあとずさり、ひどくおびえて喚きたてました。
「弟子の癖に、ことごとく私に逆らうおぬしが悪いのだ! 寄るな! 近づくな!」
困りました私。
だって、足なんて。どこにもついてません私。
剣の中に封じられて。ひとりで動くこともままならないというのに。
ああでもなぜか、じりじりと。我が身が、我が師にむかって動いていくのです。
しかもなぜかお腹が空いているのです。どうしようもなく。
いますぐ、何か食べたい気分でした。
我が師の体から、どす黒いうねうねするものが見えました。
それは。とてもおいしそうでした……。
『食べさせてください』
私は我が師にそう言うなり。我慢できずに黒い影を吸い込みました。
そうしたいと思ったら。すぐに吸い込めたのです。
ずるずると、影がこちらに流れてきてくれたのです。
「やめろ悪魔め! なにをする! やめろ! やめろおおおお!」
私は善良なキリスト教徒の守護者だったと。我が師はいいました。
悪いものをことごとく成敗する英雄だったと。我が師はいいました。
ですから悪い裏切り者を、食べてしまってもいいですよね?
我が師のどす黒い魂は。とてもおいしかったです。
こってりしてて。最高の味でした。
こうして怒れる私は、燃え盛る炎の中で食べ尽くしました。
生前の私を裏切り。その記憶を消した張本人の魂を。
抜け殻となった我が師マーリンの体はその場に倒れ。ぶすぶすと炎に焼かれていきました。
麗しき我が姉は本家の剣を放り出し、とっさに私を抱え。私を炎から守ってくれました。
姉は炎に焼かれながら、しきりにあやまっておりました。
色恋に目が眩み、マーリンの野望にずっと気づけなかったと。
彼を愛していたゆえ、盲目であったと。
ずっとあやまっておりました。真珠のような涙をぽろぽろ流しながら。
私はかろうじて焼かれずに、我が姉の、黒い炭となった体の下に埋もれました。
あの時の麗しき我が姉のいまわのきわの言葉は、当時まっさらだった私の刀身に深く深く刻み込まれ。
今も決して、消え去ることはありません。
『どうか許して……アーサー』