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52話 再会した私(R15)

レクルーは両性具有でなんちゃってBL?ですが、

今回は本物のBLカップルが出てくるお話です。

苦手な方はご注意ください。

 キン キン キン キン


 打つ。打つ。赤い光。


 キン キン キン キン


 打つ。打つ。金の床。


『おそい』――「はい」

『手首の角度』――「はい」

『抑えずれてる』――「はい」

『もっと速く振り下ろせ』――「はい」

『しかしうっとうしい』――「はい?」

『前髪切れ』――「やです」

『いいから切れ』――「やです」

『言うこと聞け』――「やです」

『強情だな』――「それが取り柄です」

『むかつく。性格直せ』――「やです」


 水鏡の寺院のすぐそばにある鍛冶小屋。その中で前髪で顔の半分を隠した少年が、真っ赤に焼いた鉄の塊を金槌で打って打って打ちまくっています。鉄の塊はほどなく、私の刀身となるものです。

 能面顔の少年が金槌を打ち下ろすたび、マエストロがいらいらと突っ込んでいます……。

 にわか鍛冶師の名は、サリャンディーク。

 南王国の王子ジェリドヤードの侍従にして、つい先日まで、白髪の匠業師ゼクシスの弟子であった少年です。すなわち鍛冶の技をひと通り仕込まれており、かつて我が主とジェリドヤード王子が封印所から持ち出してこわしまくった武器たちを、師匠と共に一所懸命直したことがあります。

 だから私もマエストロも、彼の腕はまあ許容範囲、と思って我が身をすんなり委ねたのですが――





 やはりというか、嫌な予感が当たったというか。作業が始まるまでに、ひと悶着ありました。


『ごめんエクス、仕事場に入ったから』


 サリャの手に抱かれて私が鍛冶場に入るなり、私と一緒に雲間の隙間から様子を覗いていたマエストロが、サッと私から離れました。なんだか心細くて私はマエストロの腕を掴んだのですけれど、そっと手をはずされました。


『炉に火が入っている。ここは神聖な仕事場だから、ごめんね。外に出たら、またイチャイチャしようね』


 頭を撫でられて申し訳なさそうに言われ、私は思わず泣きそうになりました。

 どうしてこんなに、マエストロの胸にすがりたくなるのでしょうか。

 不思議です。ほんとに、不思議です。

 でもどんなにねだっても、この鍛冶場を出るまではお預けのようです。

 マエストロはさすが大鍛冶師の肩書きを持っておられるだけあり、「鍛冶場でだけ」は分別を弁える方なのです。

 人間だった頃の私の記憶によると。私はマエストロにのべつまくなしどこででも四六時中べたべた可愛がられておりましたが、仕事場だけは唯一の例外でした。私はそこで触れられるどころか、決して中に入れてもらえませんでした。ただの一度も、です。


「ひと晩で直せとか、ほんと我が殿下も無茶なことを言うよな」


 サリャは始めから文句たらたら、やる気が微妙でした。

 私たちが修理されることになったのは、南欧国の王子ジェリドヤードがサリャにそう命じたため。我が主のために即刻剣を直せというのですが、とにかく急げ徹夜でやれと、王族らしくムリを言ってきたようです。

 モチベが上がらない雰囲気のサリャが金槌を握るや、マエストロはたちまち眉根を寄せました。


『なんだこの手つきは。金槌の握り方からして全くなってないとは、どういうことだ? 前はもっとましな動作をしてると思ったが』


 マエストロ、サリャも私たち同様、ずいぶん苦労したのでは?

 私はいらつく人を一所懸命宥めました。

 サリャたちは眠れるジェリドヤード王子を助けるために大奮闘したそうですから、きっと鍛冶の修行どころじゃなかったんでしょう。

 聞けばこっそりゼクシスの工房で飛行機の部品作って、こっそり寺院の屋上で組み立てて、こっそり封印所から王子の体を運び出して、こっそり寺院から離陸して、はるばるここに至る抜け穴の入り口までこっそり飛んできたそうじゃないですか。


『とはいえ、ひどすぎる。あれではいい打撃が入らない』 


 ま、マエストロ、それよりのんびり雲のコーヒーでもいかがですか?

 私も淹れてみましたよ。ほわほわ湯気立っておいしそうでしょう?

 雲の椅子も作ってみましたよ。これ楽しいですねえ。粘土細工みたい。ささ、一緒に座って飲みま――


『なんだ、こいつは?』


 マエストロの声が突然、ドスの聞いた低いものに豹変しました。

 怒りと苛立ち。軽蔑のまなざし。

 ひらけた雲間からおそるおそるのぞいてみますと……。


「大丈夫? ごめん、僕が不注意すぎた」

「平気だよ、痛くない」


 サリャはいくらも打たないうちに金槌をほっぽりだして、がっちりと、同い年ぐらいの子の体を支えていました。

 たしかこの子は寺院にいた蒼き衣の子で、名前はセリク。サリャに協力してジェリドヤード王子を救い出し、一緒にこの水鏡の寺院に来た仲間です。この子の師も業師ゼクシスなのですが、かなりどんくさい子です。どうやらサリャのそばに行こうとして、滑ったか転んだかしたようです。


「ご、ごめんね、少しでも君を手伝いたくて。でも僕、ドジでのろまだから……役に立たないみたい」

「セリクは、役立たずなんかじゃない!」


 サリャは激しく頭を振り――


「ここにいてくれ。君がそばにいてくれるだけで、元気が出るから」


 いきなりセリクを抱きしめました。


「さ、サリャ……」

「セリク、君はすごいんだよ? ここに逃げて来るための飛行機――大鳥を設計したのは他でもない、君じゃないか。君がいなかったら、僕らは岩窟の寺院から逃げることなんてできなかった。僕らがこうしてここにいられるのは、君のおかげだ」

「で、でも僕は、とても不器用だよ? 図面を引いたのは僕だけど、実際にあの複雑な機械を作ったのは、サリャじゃないか」

「誰にだって一長一短あるものさ。セリク、僕は君の手足になれればいいと思ってる。これからも、君が考えるものを僕が形にできればって。二人で協力したら、僕らはきっとなんでもできるよ」


 サリャの声が異様に熱っぽいと思ったら。

 いきなりやってきました。その「瞬間」が。


「サリャ、どうしてそこまで僕に優しくしてくれるの? 僕はひどいぐずで、前のお師匠様には鞭打たれてばっかりで……ゼクシス様にも怒られてばっかりだったのに」

「君が好きだからに決まってるだろ」

「えっ……?」


 決定的瞬間の決定的セリフを聞いて、かあっと顔を真っ赤にするセリク。

 な、なんとかわいらしい! ていうか。


『……爆発しろ』


 ま、マエストロ?! かりそめの顔の眉が、ぴくぴくぴくぴく痙攣してる?

 ま、まずい。もしかして、かなりいらついてます?


「君が好きだ、セリク。誰よりも愛してる。だから僕のそばにいて欲しい。ここから出て行っちゃだめだ」

「さ、サリャ、あの……」

「離さないから。僕、君を離さない」

「あっ……」


 あ、さ、サリャ、ちょ、ちょっとやめ……セリクの顎をくいっと手で押し上げて口づけるとか、やめ……。

 ああ! い、いきなりセリクの衣を剥がすとか、そそそそれはまず……!

 あああ! ちょっと二人とも! 切羽詰まるような荒い息遣いは、ややややめ……!


『……爆発しろ』


 ま、マエストロ! あの、き、今日はいいお天気ですね。あの、二人の少年の後ろに見える窓から、ちょっと青い空でも眺めて深呼吸しませんか?

 す、吸ってー吐いてー。あー、えっと、でも目の前に広がるこの光景、ほら、マエストロがいつも私にやってるようなことですよね。こ、こんなの驚きでもなんでもないですよね?


『そうだね』


 う。マエストロったら、目つきが冷たすぎて死んでます。


『たしかに、いつも僕が君にしてることだ。舌を入れて口づけしたり、衣剥いで体中撫で回したり、耳たぶとか肩とか噛んでる間に胸の乳首つまんだり、腰をいったりきたりさせたり。うん、まさしくかつて仕事場以外のあらゆる場所で僕が君とやったことだし、今もこの雲間で僕と君がやってることだよね』


「さ、サリャっ……はずか、しいよ」

「セリク、楽にして」


 ひ、ひいいいっ?! ここここの二人、ま、まさかここでやっちゃうつもりですか?

 そそそそれはさすがにやばいです。まずいです。ちょっと。待っ……


『おい、そこのガキども』


 ま、マエストロ! お、落ち着いてください。ほら、目の前の二人は若いですから。花の十代ですから。だからその、若気の至りというやつですから。どどどどうか、どうかお願いします許してあげてくださ――


『おまえら、爆発しろ』

「ひゃっ!?」「う? な、なんだ? 剣か? うるさいな」


『黙れ。人の前でアホなものを見せるな。やるなら、外でやって来い!!!!』


 マエストロの怒り声が炸裂するとともに。


「え?」 

「う、うわあああ?!」


 半分折れた私の刀身がカッと真っ赤に輝いて鍛冶場を覆いつくし。二人の少年は、一瞬にして目にも留まらぬ速さと凄まじい爆風で、鍛冶場の外に吹き飛ばされました。彼らの足元に落ちた、衣と下着と一緒に。





「あー……えっと。ただいま戻りました」

「待たせて、ご、ごめんなさい」


 一刻後。憮然とした顔のサリャと顔を真っ赤にしたセリクが鍛冶場の中に戻ってきました。

 二人ともマジでマエストロに爆破されて、髪の毛がチリチリ。顔は煤だらけ。

 外に放り出されたのですが、「やること」――いえ、「やりたいこと」をしっかりやってきて戻ってきたみたいです。あ、正確には、「サリャがやりたいこと」でしょうか。彼が一方的に押して押して押しまくってきたのが一目瞭然ですから。

 不器用なセリクは赤面してもじもじそわそわ、時折お尻をさすりながら申し訳なさそうに私たちをちろちろ見ておりました。

 しかしまさかマエストロが、私の力をいとも簡単に少年たちに行使できるなんて。私とこの人は、一心同体だからでしょうか?

 マエストロはすぐに戻ってこなかった二人にびきびき青筋を立てて、いらいらと苦言を呈しました。


『おい、ゼクシスのものども。普通怒られたら、ただちにマジメに作業にとりかかるんじゃないのか? まず言いつけられた仕事を終わらせてから、私事にいそしむものじゃないのか?』


 するとサリャは耳の穴を小指でかっぽじりながら、けだるげに言い返してきました。


「ですが史上最強の伝説の剣様、あなた様が『外でやって来い』とお命じになりましたので、まずはそのご命令に従ってきただけです」

『はあ?!』


 長い前髪をばさりと手でかきあげるサリャに、マエストロは鼻白みました。


『僕の叱咤を言葉通り受け取るとか、ありえない。エクス、今時の若い奴ってみんなこうなのか? それともこいつらだけが、とんでもないバカなのか?』


 ど、どうなんでしょう、今どきの子って。

 私、一万と二千年生きている老いぼれですから、今の若い人たちの思考はちょっとよくわかりません。でもひとつだけ確かなことは、サリャはセリクにぞっこんということですよね。


「まあとにかくスッキリいたしましたので、作業に取り掛からせていただきます」


 慇懃無礼なサリャと赤面顔のセリクは、こうしてようやくのこと、マエストロの厳しい指示のもとで修理作業を開始したのでした。

 内心煮えくり返っているマエストロの厳しさといったら、それはもう超ストイックなラケダイモン人の軍事訓練並み。キン、キンと金槌の音が鳴り響くたび、マエストロは何かひとこと突っ込まないと気が済まないようでした。


『おそい』――「はい」

『手首の角度』――「はい」

『抑えずれてる』――「はい」

『もっと速く振り下ろせ』――「はい」

『だがやはりうっとうしい』――「はい?」

『早く前髪切れ』――「やです」

『いいから切れ』――「やです」

『言うこと聞け』――「やです」

『かわいくないぞ』――「王子によく言われます」

『性格直せ』――「やです」


 歯を食いしばって金槌で鋼の塊を叩くサリャ。

 炉のそばには、ふいごを一所懸命伸縮させるセリク。

 再三に渡ってマエストロがサリャに「前髪を切れ」を連呼すると。


「あの、あの、伝説の剣様」


 セリクがもじもじしながら、本日恋人に昇格した少年をかばってきました。


「サリャの前髪は、どうかお許しください。幼い頃に、ジェリドヤード王子と剣の稽古をして目の上を傷つけられちゃって。それで跡が残っちゃって。あのだから、王子が見たら気にするからって、前髪伸ばして隠してるんです」

『黙れド初心者。今ここに王子はいないだろうが。髪の毛束ねて結ぶぐらいしろ!』


 マエストロは鼻を鳴らしながら、セリクもぎゅうぎゅう絞り上げました。


『のろすぎる』――「す、すみません!」

『まったくどいつもこいつも』――「ごめんなさい!」

『ゼクシスの弟子のくせに、どうなってる!』――「も、申し訳ありません!」

「くそ、セリクを責めるな! 僕だけに怒れ!」


 今度はサリャがセリクをかばってくるし、そうするとセリクがまたサリャをかばうし……という状況で、マエストロのイライラはマッハの勢いで加速していきました。


『ちくしょう、僕の前でむかつく! 僕はエクスに触るのを我慢してるのに』

「は?」

『いいからもっと速く打て。鉄が冷えて固まるまでに一万回打て。早く仕上げろ!』

「一万回? 無理です」

『無理でもやれ! また爆発したいか?』

「ちっ!」


 反抗的に私たちを睨んでくるサリャと、涙目になっているセリクを、マエストロはがんがん急かしました。

 そして時折私の方を振り向いて、とても優しく言うのでした。


「ごめんねエクス。早く鍛冶場から出してもらうから。だから泣かないで」


 いえ私、泣いてなど。マエストロとちょっと離れたぐらいでそんな――

 あ、あれ? 私の頬……??

 やっぱり、私おかしいです。マエストロはすぐ目の前にいるのに。涙だらだら? まさかそんな……とてもおかしいです……。


『よし、やっと形になってきた。いったん冷却しろ!』


 この鍛冶場の冷却槽はとても小さいので、マエストロは鍛冶小屋の目の前にある泉を使うよう指示しました。

 サリャは何度か泉で冷却しながら鉄の刀身を打ち続け、ついに私の折れた刀身も炉に入れて溶かし、根元から取り去って新しいものをつけてくれました。

 ぎんぎんに熱せられた私は泉へ運ばれ、一気に冷やされました。

 しゅわしゅわ湧き上がる蒸気。心地よい泉の水。

 ああやっと。やっと剣として、まともな姿に戻ってきました。でも、刀身がついただけではまだまだです。

 泉の岸辺でぜえぜえと力尽きているサリャを、マエストロは容赦なく追いたてました。


『よし、研ぎに入れ』

「ち、ちょっと休憩したいんですけど」

『却下する。早く仕上げろ。逆らったら剣の波動でセリクを吹っ飛ばすぞ』

「なっ、脅すとかなにそれ! しかも僕じゃなくてセリクを? ひ、卑怯だ!」

『黙れ。とっととやれ、ド初心者』

「ちくしょう!」


 サリャは力任せに私を泉にもう一度ざぶりと入れました。

 しぶきがあたりに飛び散った拍子に、ほわ、と光るものが水面から飛び立ちました。

 チラチラ光るそれは――とても小さくて青白い、光の玉のよう。

 え? あれ? この光、は……!?


「あ? ああ、君か。やあ」


 サリャが驚きもせずに、泉の岸辺の草に止まったその小さな光の玉に話しかけました。


「君、寺院からずっと一緒に僕らの飛行機に乗ってたよね。どこに行ったかと思ったら、この泉に住みついたのかい?」


 私はひどく驚いて、草の先っぽに止まったそれを凝視しました。

 こ、これは……この光るものは……!!


「まあ、ここはいい所だよな。地の底って感じがしないし。ずっとここにいられたら良かったんだけど……僕らは行かなくちゃならない。故国に帰って、ここが滅ぼされないようがんばってくるよ。僕たちが、絶対ここを守る」


 サリャは親しげに光の玉に語りかけました。


「おまえはここでのんびり平和に暮らしてればいい。な、はぐれカゲロウ」


 真っ白い小さな虫がふわりと飛び上がり、まるで話しかけてくるように尻尾の光を明滅させました。

 この小さな虫はまさしく、鍾乳洞の奥にいた蛍蜻蛉です。

 我が主と出会ってからはすっかり姿の見えなくなったあのはぐれ虫――なのでしょうか? 

 それとも、新しくはぐれ虫になった別の蜻蛉なのでしょうか?  

 でも、この飛び方。この光の出し方。これは。これはまさしく……。

 間違いありません。私が黒髪の記憶の中でみたあの虫の動きと大変そっくり。

 やっぱりこの虫は――?

 蜻蛉はしきりに尻尾の光をぴかぴかさせながら、すうっと泉の向こう岸に飛んでいきました。

 私は草葉の陰に入っていくはぐれ虫を見つめました。

 なぜ、あの虫は故郷を離れてここにやって来たのでしょう。

 偶然、王子たちについてきた? それとも意図的に王子とその仲間たちを見守っている? 

 かつて黒髪のそばにいて励ましつづけてくれたように?

 鍾乳洞を離れてはるばるこんな所にまで来るほど、執着している子がいるのでしょうか。

 一体、誰?

 ジェリドヤード王子? サリャ? セリク? それとももうあと二人のどちらか?

 やはり大本命は、王子でしょうか。

 サリャが私の刀身を研ごうと鍛冶場に再び入ると。


「サリャ! セリク! 大変だぁあああ!」


 その王子その人が、黄金色の豹の瞳をまん丸に見開いて飛び込んできました。


「レクルーが! 僕の妻が!」


 あ。そういえばこの王子も、我が主にぞっこんでしたっけ。


「あいつの家で、だんごになっちまったー!!」


 ……は?


「はい? だんご?」


 眉根をひそめるサリャの胸倉をつかみ、あわてふためくジェリドヤード王子は叫びました。


「違うっ、あーえっと、なんだっけ、でっかくて白くてまんまるのやつ! メニスが大人になる時になるやつ!」

「ま、まさか、繭、ですか?」

「そうそれ! メニスの長がたった今、僕に伝令よこしてきた。トリオン様が血相変えて騒いで助けを呼びにきたって」


『おや』


 聞いていたマエストロが眉を片方くいとあげました。


『ついに始まったんだね。君の主人の繭ごもりが』


 メニスの混血の幼体は普通二十五年か三十年の間に成体になります。その時、自ら繭を作るのです。

 でも我が主は、自称十四歳ですよ?!


『年を偽っていたのだと思うよ』


 マエストロは意外でも何でもなさげに、ひょいと肩をすくめました。


『メニスはもともと長命だしね。十四ていうのは、もう一人の同居人の方じゃないのか?』


 フィオン、ですか? たしかにそうですね。彼は十四で亡くなりましたけど。


『僕が見たところ、あの幽霊が著しくレクルーの成長を妨げていた感じだった。最近彼の影響がめっきりなくなったから、それで成長が促進されたんじゃないかな? まあ、大丈夫だよ。繭を動かさずに一ヶ月ぐらいたてば、ちゃんと成体になって出てくるだろう。スメルニアの皇帝みたいにね』


 フィオンの干渉がなくなったせいで、止まりかけていた成長が促された?

 そうなのでしょうか。

 しかし南王国の面々は、この事態に大変困惑しておりました。


「殿下、それは大変ですね。レクルーは僕らと一緒に南王国へくる予定だったのに」

「ああ、冗談じゃないぞサリャ。国へ連れ帰って僕の妃にする計画がパーになるじゃないか!」

「とにかく、様子を見に行ってみましょう」


『あ。おい! 待て!』


 マエストロはいらいらとサリャたちを止めました。

 でも。


『待て! 行くな! おい! 僕らを仕上げてからにしろ! せめて鍛冶場だから出しておけ! でないとエクスに触れな……!』


 その呼び声もむなしく。

 サリャたちは王子と一緒に、鍛冶場から我が主のもとへと一目散にすっ飛んでいってしまいました。

 全く斬れないごつごつした刀身をつけられた私たちを、金床の上に残して。



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