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43話 呼びつけられる私

 私は走りました。

 一目散に走りました。

 あたかもまっ暗な洞窟の出口のような、光り輝く所へ飛び込むと。半透明の私の体は、すうと光の中に溶けました。

 眩しい光の渦の中をしばしたゆたっておりますと……あたりにたくさんの、0と1の羅列の帯が浮かび上がってきました。

 

 01010101010101010101010101010101010101…………

 

 えんえんと長い、二つの数字だけの羅列。

 ぱっ、ぱっと周囲がまばゆく瞬き、その数字が突然消えた――と思いきや。

 今度は四種類の記号が突然うわっと、周囲に浮かび上がりました。

 α、β、γ、δ……

 その四つが先ほどの数字のように長く長く連なり、螺旋の階段のような形に組みあがり、みるみるとぐろを巻いていきました。


『エクス、さっき設定した擬似ゲノムの展開を開始させた。新しい環境に慣れるまで少し時間がかかると思うけれど、これで君はより高性能になる。容量も能力も飛躍的に伸びるはずだよ』


 マエストロの声。どこから響いてくるのかさっぱり解りませんが、びんびんに聞こえてきます。

 今までは「遠慮してあげてた」とか仰ってましたが、これからは四六時中、こんな風に声が聞こえてくるのでしょうか。だとすると、ちょっと困……


『何か言った?』


 い、いいえ、マエストロ。何も。


 四つの記号の螺旋が私の周囲をぐるりと取り巻きました。

 その螺旋が巻きついてきて。きつく絞り上げてくるような感覚を覚えたとたん――


『ぷはっ』


 私はついに、内なる死から目覚めました。

 青一色の景色が見えました。星の紋がびっしり織り込まれた、真っ蒼な壁紙。ほのかに湾曲した天上から幾枚も垂れ下がる、真っ蒼な垂れ幕。天蓋つきの褥も、霊水という癒しの水が流れる円形の噴水の縁も、どこもかしこも真っ青。

 ここは飛竜船の緊急脱出船――すなわち胎の船の、一番下層です。

 胎の船は、三層からなっております。一番上が、操縦装置のある黄金色の太陽の間。現在スメルニアの皇帝陛下が、ここで船を操作されておられ、「水鏡の寺院」に向かっておられます。つい先日まで、スメルニアの皇太后が冷却安置されていた層です。

 真ん中の層は、我が主が皇帝に捕らえられてからしばらく閉じ込められていた、銀色の月の間。長きに渡り封じられていた魂が戻って目覚められた皇太后は、今ここで養生しておられます。

 そして一番下のここは、星の間。我が主と黒髪は、この層を使えと皇帝陛下から命じられました。

 窓がないので外の様子や物音を伺い知ることはできませんが、胎の船は順調に水鏡の寺院へ向かって航海しているようです。

 蒼い部屋の真ん中にある円い噴水には、とろりとした霊水が絶えず循環しています。大変滋養があり、非常食ともなる水です。またこの水は、呼吸に必要な空気を絶えず生成しています。というのも、飛竜船の緊急救命船であるこの胎の船は、星船のそれを模して作られているからです。

 この胎の船は、宇宙空間を十分に航行できる機能を備えていると、前に皇帝陛下がおっしゃっておりましたっけ。

 その奇跡とも呼べる霊水が流れる噴水の影に、私は置かれておりました。

 噴水の縁に掘り込まれた精密な模様や、蒼い壁紙に塗りこまれた非常に細かい模様が、驚くぐらいはっきり見えました。くらりと酔いそうなぐらい周囲が明るく、色濃い視界。

 マエストロの手によって、性能が底上げされたせいでしょう。

 それにしても我が主、私ようやっと、あなたのそばに戻ってこれて嬉――

  

――『やめろトリオン!』


 生還して感無量の念に浸る間もなく。私の新たな聴覚に、いきなりフィオンの悲鳴が飛び込んでまいりました。

 

「あっ……レナ……熱い……熱いよ……」

 

 うう。天蓋から真っ青な幕が下ろされている寝台から、我が主の悩ましい声が。

 復活早々、またこのシチュエーションですか?

 黒髪が、我が主を褥で蹂躙しているのですね?

 

「溶けてしまえ!」


 寝台から、黒髪の怒鳴り声が聞こえてまいりました。

 え? 何やら様子が……

 

「消してやる!」


 変です。我が主に対する態度にしては、全然優しくも甘くもありません。


「熱い、よ……レナ……やめ……て」

『くそ! レクをもういじめるな!』


 ろれつのまわらぬ我が主。そして取り乱しているフィオン。

 これは一体? 何が起きているのですか?


『アクラ? アクラなの?!』


 はい、フィオンさん。お待たせいたしました。私、なんとか復活いたしましたよ。


「出て来い! フィオン!」

『やめてよトリオン! もうやめて!』


 我が主の中にいるフィオンの精神波はとても悲痛で、震えておりました。


『アクラ助けて! トリオンが僕をレクから引き剥がそうと躍起になってる! ばれてたんだ。僕がレクを時々動かしてたこと』


 な、なんですと?

 フィオンが泣きながら訴えるには――

 我が主が私を振り回して天幕村を救おうとしたのも。スメルニア皇帝の母君の魂を助けたのも。フィオンが勝手に我が主を動かしたせいだと、黒髪は思い込んでいるそうです。


『僕ら二人が望んだことなのに! トリオンは僕がレクを完全に操ってるって、勘違いしてる。そうじゃないのに。違うのに!』

「う……あ……レナ……」


 我が主が苦しそうに喘いでいます。あたりには、色濃い魔法の気配。黒髪は、我が主を半ば催眠状態に置いているようです。


『僕らはどうしたって離れられないのに……何度もそう訴えたのに、トリオンは全然信じてくれないんだ。レクは、手ひどく抱かれては意識を飛ばされて……それで見かねた僕がレクを護ろうと表に出るたびに、トリオンはいろんな韻律を試して僕らを引き離そうとするんだ。僕ら、ここからほんの少しも出してもらえない!』


 つまり黒髪は――ついに堪忍袋の尾を切らしてぶち切れて、「実力行使」でフィオンを追い出そうとしてる、ということですね?

 だから褥の中からしきりに喘ぎ声と、なんだか非常に悩ましい物音が聞こえてるわけですね? そのう、なんだか聞こえ方が今までよりかなり鮮明というか、これは聞こえすぎというか、精度上がりすぎというか。可聴域が前よりかなり広がっているというか。あきれるぐらい限度も節操もないというか。私のマエストロの方がまだ百万倍マシというか。

 ええと、ともかく要するに――


『これじゃあ、あのボケナスと一緒じゃないですか!!』


 私は大声で叫びました。黒髪の注意をこちらに向けるために。


『やぁぁぁっと復旧機能(バックアップ)が作動いたしましたよ。死ぬかと思いました私。しっかし我が主、何ですかこの体たらくは。あのボケナスの監禁地獄の再来ですか?』


 半分まどろみの中に置かれた我が主にも届くようにと、私は叫びました。あわよくば、目を覚ましてほしいと。

 果たして。我が主から、かすかに反応がありました。


「ボケ……ナス……?」

『ああ、ええと、コキュートス? クリとナス? ああ、キュクリナス!』


 我が主にとっては、それは禁忌の名前。決して口にしてはいけない名前を、私はわざと耄碌(もうろく)したように見せかけて言い放ちました。

 我が主を夜な夜な手篭めにし、逃げられぬよう足の腱を切り裂いた、あのくそ導師の名を。

 その瞬間――


「なまくらめ! 折れて狂ったか! この子の前でその名を言うな! 二度と!」

 

 蒼い褥から黒髪が鬼の形相で飛び出してきて、私を思い切り蹴り飛ばしました。

 黒髪は私の目論見通り、見事に反応してくれました。私は怯まずきっぱりと、この大馬鹿者に言い放ちました。


『ですが、二十日と五時間三十五秒間、我が主の代わりに主人であった方、今ご自分がなさっていることを胸に手をあててよく考えてご覧なさい。あなたのしていることはあのボケナスと同じです。私生児で捨て子で孤児院育ちのフルコンボで生まれも育ちも超最っ低ですのに、偉大な王族のけったいな趣味の猿真似なんぞなさって、なぜにさらなるどん底に堕ちるのですか?』


 怒りで蒼ざめる黒髪に、私は畳みかけました。足蹴にされて結構なダメージを喰らったはずなのですが、なんだか力がビンビンみなぎってくるような気がするのは、マエストロの機能更新(バージョンアップ)のおかげでしょうか。


『出血大サービスで我が主レクリアル・ノーンの声でお説教してさしあげましょう。コホン。

 〈お願い、僕を自由にさせて。まさかあなたもキュクリナスみたいに僕を監禁するの? 僕を物みたいに扱うつもりなの?〉』

「黙……れ!」

『〈黙らないよ。あなたも、僕の足を切るつもり?〉』

「黙れ悪魔!!」


 黒髪はとっさに噴水のそばにたてかけてあった銀の杖をひっ掴み、私を思いっきり壁際に打ち飛ばしました。

 な、なんのこれしき。マエストロに機能更新された私にはぜんっぜん効きませんよ。

 ぐ、ぐふ。


「おまえなどに、私の気持ちが分かるものか! レクは! この子は! やっと見つけた子なんだ! 絶対失うわけにいかないんだ!」

「レナ……レナン! お願いやめて」


 如実に黒髪が動揺したせいで、奴の魔法の気配が崩れ去りました。とたんにすっかり眼を覚ました我が主が寝台から這いずるように出てきて、激昂する黒髪を後ろから抱きしめ、私を打ち据えようとするのを必死に止めてくれました。


「レナン、アクラさんは壊れてるんだ。ほら、もう黙っちゃったから、だからもう許してやって。お願い。お願いだから」

「俺の気持ちなど、誰にも分かるものか! ようやく求めていたものを見つけたのに。やっと君を見つけたのに!」


 怒れる黒髪は銀の杖を床に叩きつけ、その場に頭を抱えて座り込み。幼い子供のように泣き出しました。ひとつしか無くなった目から、涙をぼろぼろこぼして。


「レナン、誰よりも何よりも、あなたが一番だから。あなたは、僕の命より大切な人だから。だからお願い、泣かないで。一番の人……」


 我が主の方がはるかに大人でした。えずいて泣く黒髪を、彼は抱きしめて宥めました。今の今まで、このケダモノにひどく蹂躙されていたというのに。

 「一番の人」。

 愛に飢えている黒髪には、その言葉がてきめんに効いたようでした。黒髪はきつく我が主を抱きしめ返し、しきりに謝りだしました。


「すまない! あの男と同じことをしていたと取られる状況だったのは認める。やりすぎだったと認める。反省する! だが……だが、あの剣だけは絶対許さない。君の前であの男の名前を平気で言うなんて、絶対許さない!」

「レナン……」

「頼むから、もう二度とあの剣を手に取らないでくれ」  


 こうして。黒髪は分別を取り戻し、大人しくなりました。しかし手放しでは安心できませんでした。我が主の中にフィオンがいる限り、奴はまたいつ無茶な行動を起こすかしれませんでした。

 黒髪は、おのれが愚行に及んだその事情を我が主に教えませんでした。フィオンの存在を、知られたくなかったのです。

 心優しい我が主のこと、もし自身の中にいる同居人の存在を知れば、必ず接触をはかろうとするでしょうし、きっと快く歓迎することでしょう。

 我が主を独り占めしたい黒髪にとっては、それはとても許容できぬことでした。

 愛する子の中に、自分を毛嫌いする敵が共存しているなんて。

 

『僕も嫌だな。好きな子の中に異物(・・)が混じりこんでるなんて』


 う。マエストロ。


『僕らのように深く愛し合う者同士が、ひとつになっているっていうならまだしも』


 ええと。だれとだれとが、深く愛し合ってるですって?

 

『僕と君がだよ。さあエクス。定時報告の時間だよ』

  

 あの。ちょっと待って下さい。私まだ、ものの十分と――


『あの導師がいとしい子を抱いてるのを見たら、僕も君が欲しくなった。おいで』


 待ってくださ――!

 フッと接続が切れたように周囲の景色が消えました。

 それから私はぐいと引っ張られる感覚を覚えました。

 渦を巻いて中に引きこまれるような。ぎゅるぎゅると回転して小さく小さくなっていくような……。

 あの四つの記号の螺旋が見え。まばゆい光の空間が見え。

 そして私はまた半透明の体を持った者となって、すとんと暗闇の底に落ちました。

 マエストロの腕の中に。


『僕のエクス。寂しかった。すごく会いたかった』


 あの、マエストロ。あなたと私は、十分四十五秒前に離れたばかりなんですけど。

 

『僕には、永遠の時のように思えた』


 呼びつけるのは、一日一回のはずでは? 


『一日十回にしようかな。いや、それでもきっと寂しくなるだろうから、十分に一回? だってエクス、僕は本当にこの数百年間、ずっと遠慮していたんだよ? これからはもう、僕はいっときも我慢したくない』

 

 あ。なにす……!ややややめ……! いきなり口づけとか、やめ――!


『愛してるエクス』


 あ……

 

 



 ……。

 ……。

 ……えらい目に、遭いました。

 一瞬でも、マエストロが黒髪より百万倍マシだなんて思った私が、馬鹿でした。私が内臓しているこの「同居人」の方が、あのケダモノよりはるかにたちが悪いかもしれません。

 三時間ほどイチャイチャされてようやくのこと放免してもらえましたが、もう悪い冗談としか思えません。

 なんとか説得しました結果。マエストロはぎりぎり譲歩して、四時間に一回私を呼び出すことにすると妥協して下さいました。

 それからというもの。きっかり四時間ごとに私は外の世界と接続を切られ、マエストロの腕の中に落ちていきました。

 

『エクス、お茶でもしよう』


 マエストロは雲でいろいろな擬似の家具を作り出し、雲で作ったカップに雲から煎じた茶を淹れて、私とままごとのような茶会をするのを楽しむようになりました。大変困ったことに、それでたっぷり三時間は引きとめるのです。

 私はろくに現実の世界に干渉できない状態に陥りました。

 幸い黒髪は落ち着いている状態で、しごくまともに振る舞っておりました。

 我が主が体を抜け出して生き別れた人々を探しにいくと、黒髪は一緒に魂を飛ばして、その探索を手伝っておりました。

 二人の魂は、北五州の地をくまなく巡り飛びました。

 黒竜は白鷹家が統べるシベルネ州をぐるりと一周し、州全体を水没させる勢いでした。けれども存分に暴れさせられたあと、「救世軍」を謳う金獅子家が所有する神獣レヴツラータによって、倒されてしまっていました。

 狂った尚光(シャングァン)は虫けらのように撃ち落とされ、黒竜は山脈の中へ墜落。

 しかし。巫女姫を救いにひとり鉄の竜で飛び立った識破(シーポゥ)は、黒竜の体内から見事に彼女を救い出しておりました。

 二人は今はスメルニア兵が港町で奪った船と合流して、一路スメルニアへ帰国する途上にありました。

 ついに私がその尊顔を拝することができなかった巫女姫は、とても消耗して床に臥せっていたそうですが、識破(シーポゥ)がずっとそばについて看病しているから大丈夫だろうと、我が主と黒髪は話し合っておりました。

 我が主と黒髪は、スメルニア軍が北の辺境に設営した基地も軒並み金獅子家に占領されているのを目の当たりにしてきました。

 二人はシベルネ州の北端あたりで、一路南下するトォヤ族の一団の姿を発見しました。スメルニアの基地で薬草採取部隊として雇われていた彼らは、金獅子家の軍に攻撃された折、命からがら逃げだすことができていたのです。

 彼らを先導していたのは、黒髪の兄弟子にしてもと導師のカイザリオン。

 黒髪と共に濡れ衣を着せられ、一緒に「処刑」された金髪の導師です。水に流され頭がぼやけ、欠伸ばかりしていた彼ですが、なんと愛しい妻を守るために目ざましい働きをしたようです。

 彼のいとしい妻とは、ツヌグさまの双子の姉、イクグさまのこと。

 寺院から追われたカイザリオンを看病しがてらしばしば関係を持っておられたイクグさまは、現在、彼の子どもをめでたく身ごもっておられるとのことでした。

 我が主はトォヤ族の人々が無事安住の地を見つけられるよう、そして赤ん坊が無事生まれるよう、胎の船から祝福と加護の呪文を送れないかといろいろ韻律を試しておりました。

 そして。金獅子家の軍にさらわれたツヌグさまと天幕村の人々の行方も、我が主たちは探し当てることができました。

 金獅子家の救世軍は、黒竜の災禍に遭った地をことごとく占領しておりました。白鷹家の常駐軍は、黒竜が起こした洪水のせいで逃げたり撤退したりして、ほとんど無力な烏合の衆と化していたからです。

 家を水没させられた多くの民を、救世軍はシベルネ州の東西南北四箇所の収容所に振り分けて、強制収容していました。そこでは幾万もの人々が、天を突くような塔を建てるために使役させられておりました。

 我が主たちはその収容所のひとつ、鉱山を擁する北の収容所でツヌグさまと天幕村の人々を見つけました。ツヌグさまが一所懸命、収容者たちの食事を作るまかない人として働いている様子を目の当たりにして、我が主たちは己が体に帰ってまいりました。

 

「よかった! 生きていてくれた。生きていてくれた……!」


 その時の我が主のとても嬉しそうな涙顔を、私は一生忘れないでしょう。

 哀しい嫉妬の影を落とす、黒髪の切ない顔も。

 心優しい我が主は今すぐツヌグさまを助けに行きたい衝動にかられ、一体どうやったら彼女を救いだせるかと考え始めました。我が主の意識の底で、フィオンも全く同じことを考えておりました。

 水鏡の寺院に至った後は、この船を貸してもらえるだろうか、とか。それとも何か別の乗り物は手配できないだろうか、とか。北の収容所に乗り込む気満々でした。

 ツヌグさまの名ばかり口にする我が主に黒髪はたちまち不機嫌になり。案の定またおかしくなって、四六時中我が主を腕の中に閉じ込めていないと気が済まなくなりました。

 つまりは、醜い嫉妬です。独占欲、というものです。

 我が主が黒髪以外の者を気にかけるなんて、奴にはとても耐えられなかったのです。

 私には、全く理解できないことですが……。


『僕は解るな。だって僕も耐えられない』


 う。マエストロ。


『好きな子には、僕だけを見てほしい。僕だけと話してほしい。僕だけを気にかけてほしい。他の子を気にするなんて絶対嫌だ。だから、僕のエクス……』


 あの、まだ定時じゃないですよ、マエストロ。私達は、五分三十二秒前に離れたばかりです。


『わかってる。だから臨時(・・)報告しにきてよ』


 ちょ――! い、嫌です勘弁してくださ――!


 哀れな私に、拒否権はありませんでした。マエストロが来いといったとたん、私は外の世界との接続を断たれ。記号の螺旋の中に放り込まれ。彼の腕の中へ落とされて……優しく抱きしめられました。

 マエストロは、我が主を愛でる黒髪のように無理やり私を組み敷きました。

 深く深く私と繋がりながら、彼は何度も私に囁くのでした。



『僕のエクス。僕らは、永遠に一緒だよ』


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