表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/64

2話 波乱万丈な私

 ご静聴ありがとうございます。 

 えっとどこまで話しました?

 ああ、この星に降りたとこですね。

 すみません私。結構、年なものですから。

 なにせ生まれて。一万と二千年ほど、たっちゃってますので。


 ええと。星船が降りてしばらくは、うっちゃっておかれました私。

 優先順位、というものです。


「生きているものがまず降りてから」


と、あの美少女が言ったのです。

 私を星船に詰め込ませた白い頭の美少女が。みんなにそう命じましたので。

 我慢しました。

 十年ほど。

 私たち、聖遺物の倉庫の中の面々は、あの汚部屋のままでおりました。

 

「生きてるものが落ち着くまで」


と、あの美少女が言ったのです。

 ですからそのまま、放置されておりました。

 その間、結構大きな地震が三回来襲。

 三回、変わりました。私の相手。

 最後にはルルドのマリア様を襲う形になっちゃって。まじで焦りました私。


『離れよこの不埒者! 天の父にへし折ってもらおうぞ!』


 何度、お美しい聖母様から、臓腑をえぐるような言葉を頂戴したか知れません。

 恐ろしい予言まで。されてしまいました。


『そなたは一生、女性の主とは添い遂げられぬ』


 そそそそんな! もうおっさんは嫌なんです! 勘弁して下さい!

 汗臭いのは! もう!

 とか、何百回目かの弁解をしていると。

 ついにようやく。倉庫の扉がぱっかりと開きました。

 この星に着陸してから、十年と二十一日と三時間四十分二十五秒ぶりに。

 やっと、我々聖遺物にも、新世界への扉が開いたのです。

 次々と、運び出されていく仲間達。

 なんだか、すごい勢いです。あれよあれよという間に、みな外へ……。

 ぬ? 運んでいる人の手が……ちょっとニンゲンのものではないような気がするのですが。

 う、ウロコの肌? 

 ……。

 ……。

 えっと。

 見たことない恐竜のような長い尻尾の生物に、ウロコびっしりのトカゲ人間モドキが次々と。同乗者たちを乗せて。どんどん外へ、って……。

 あのう。ニンゲンは、どこですか?




 ただならぬ事態に。クサナギさんが、なけなしの神通力を使いました。

 無口な村正さんの房飾りを自分の刀身に巻きつけて、離れようとしないのです。

 すごい執念です。こわいです。真似できません私。


『私達決して離れないわ』

『……』

『永遠に一緒よ』

『……』

『死だって私達を分かてないわ』

『……』


 村正さん。黙ってこっち見て……そんな儚げに光らないで下さい。

 ちょっ、怨霊出さないで下さいよ! いくらクサナギさんのごり押しが怖いからって。

 でも。その反応が意外にも効を奏しました。

 村正さんが出したどす黒い怨霊たちが、外に向かってぶわっと飛び散ると。ウロコ人間モドキは腰を抜かし、理解不能な現地語の大合唱で逃げ出しました。

 ていうか。

 あたり一面真っ暗闇になるぐらいの怨霊って。どんだけなの村正さん。

 日食になったかと思いました私。

 でも。

 助かりました私。

 と、以下半分ぐらいの聖遺物たち。

 

 助かりませんでしたマリア様。

 と、以下半分ぐらいの聖遺物たち。

 

 盗まれたものたちは、恐竜のような生き物に乗せられて。

 どこかに拉致られてしまいました。

 ああ……さよなら、ふくよかなおムネ……いえ、聖母様。

 助かった私以下半分ぐらいの聖遺物は。それからほどなく、白い頭の美少女の「臣下」を名乗る怪しげなニンゲンの一団に回収されました。

 そして岩窟に作られました、「封印所」なるところにしばらく安置されたのですが。


「僕これほしい」


 ある日ある時、見学にやって来た「王様」に。私は指をさされてそういわれました。

 その「王様」というのが。

 なんとあの、白い髪の美少女の息子! 

 びっくりです。

 ちっとも老いない不思議な美少女が、人並みに結婚出産とか、いつのまに?

 ところで、父親はもとい旦那様はだれですか?

 ……え。いない? 何ですかそれ。未婚の母というやつですか?

 も、もしや聖母さまのように処女受胎!?

 やっぱりこの人、ただものじゃないです。

 

「ねえママ、いいでしょう? 僕この剣ほしいよ。かっこいい」

「うーん、そいつはナマクラだけど、オモチャにはいいかもね。てことで、ナマクラ。ちょっとよろしく頼むわ」


 白い髪の美少女は、息子可愛さにそう言ったものですから。

 「ニンゲンの王様」は、通算第十五代目、この星では初めての、我が主人となりました。

 ちなみに私。主人が生きてようが生きてまいが、百年に一度しか、持ち主の更新を出来ない仕様です。

 ですので、あと八十二時間三十六秒待ってください、先代の時効がまだーとか訴えたら。

 融通がきかぬと。美少女に蹴られました。痛かったです。

 蹴られようが殴られようが仕様は仕様です。変更不可。

 ということで。宮殿に運ばれて三日ほど待っていただいたあと。

 私は、ちびっこい「王様」に試し切りされました。

 

「これぜんぜん斬れないー」


 とたんに「王様」は不満顔。

 そこで母君の美少女が、ずさっとひと言。


「……ほんとナマクラ」


 ……。

 ……。

 えっと。

 刀じゃないんです私。西洋系の、ぶっ叩き系なんです私。

 ジャパニーズの村正さんとかと、比較しないでくださいます?

 藁の束なんて、絶対斬れませんから。


「それにこれ、おもたすぎるよー」


 ……。

 ……。

 えっと。

 ぐ、グングニルさんよりは軽いかと思――。


「こっちのが使いやすいねー」


 ちょ! グングニルさん出してきてるし! ブンブンと軽々振り回してるし! ていうか、槍と剣を比較しないでくださいよ! リーチ違うんですよ!


「ていうか、ナマクラ、太りすぎ?」


 ……。

 ……。

 えっと。 

 美少女に言われると。立ち直れないほど落ち込むのはなぜでしょう…。


「ナマクラは、ダイエットできないの、ママー?」

「あー、ナマクラは、オリハルコンにラミネート張られてるから、加工はムリね。こいつ、ちっとやそっとじゃ折れないわ。いじれるとすれば、柄のルビーに内蔵されてる、マッドサイエンティストが仕込んだって言われてるクレイジーなAIぐらいじゃない?」


 AIですと? 何て失礼な。精霊といいなさい精霊と! ファンタジーらしく!

 もとい。なぜナマクラが正式名称になってるんですか私。いつのまに!

 ちょっと小一時間問い詰めたかったです。

 「王さま」が、うんざり顔で頭をかいてました。


「そういえば、ナマクラとの契約めんどくさかったなー。規約を聞いて同意してくださいとか、パスワード入力して下さいとか、確認のためにもう一度入力してくださいっていわれて、間違えちゃったら、登録者名からはじめから入力し直しになったー。生年月日と秘密の暗号も入れさせられたよ。念のために認証番号もー」

「規約?」

「めんどくさいから聞き飛ばしたー。喰わせろとか、喰わせろとか、喰わせろとか、そんなのばっかりだったから」

「……」


 白い頭の美少女は私を睨み。ため息をひとつついて言いました。


「やっぱりナマクラは、お飾りにするしかないかもね。とりあえず玉座の隣にブッ刺しておくわ」



 それから数百年。

 私は、「王家伝来のナマクラ剣」として過ごしました。

 惑星グリーゼ667の、新生王国第一王朝の。「皇帝の玉座を守る」神として。

 この地に降り立ったニンゲンは、他の先住生物を気遣いながら、少しずつ増えて。王国の領土も、遠慮がちにちびちび増えていきましたが。

 年を取らない美少女が、新たな星にニンゲンの遺伝子を撒くためこの星を飛び立ってしまうと。

 怖い監視役がいなくなったので、もうみんなやりたい放題。

 いえ……ヤりたい放題。

 ニンゲンは別の種族と混じりまくり。

 背中に翼が生えていて、何それどこの天使? みたいなのとか。

 エラがついちゃったのとか。四六時中さかってる、菫の瞳の妖精ぽいのとか出てきちゃいまして。

 豪華絢爛、イレギュラーな配合種による、生命の大爆発! 

 その中で。ニンゲンの王国の「玉座の守り神」として、がんばりました私。ええ、がんばりましたとも。

 ただただ、ひたすら一生懸命。見守っておりましたとも。

 「不動」の守護神として!

 きんきらきんの玉座を!

 


 

 その新生で神聖なるニンゲンの王国は。五百年の後、私の目の前で滅びました。

 最後の王が、混血の種族の軍勢に攻められ。玉座で刺されて死んだのです。

 それから永いこと。私は神殿住まいをいたしました。

 混血の王国の、太陽神殿の祭壇の上にずうっと寝そべっておりました。

 そのヒマさかげんといったらもう、玉座にいた時以上。

 遠き昔の、星船での船旅を恋しく思うほど。

 あの星船の汚部屋を遠い目で懐古するとか。なつかしがるとか。

 あのロンギヌスさんのいやらしい突きを思い出すとか……。

 も、もう一度突かれたいとか……。

 いえ、そ、それだけは、決して!

 ええ、決してありませんでしたとも。



 それからさらに数百年後。

 ようやく私は、外の世界へ連れ出されました。

 とても強力だった神官の力が、大陸全土に広がった戦乱のせいで、衰えて。盗人どもが、私を拉致したのです。

 いろいろな目に遭いました私。

 人の手から手へ。盗まれたり。漬物石にされたり。

 神殿に舞い戻ったり。また拉致られたり。また漬物石にされたり。

 とてもとてもたくさんの人と出会い。別れました。

 気が向いたら、これはと思う人と、契約しながら。

 トータルして一万と五年と十ヶ月と三日と五時間三十三秒ほど、この大地を巡り巡ったでしょうか。

 私がこの星で得た主人は。十五代目から二十四代目までの、総勢十人。

 主人がいない時の方が、多かったような気がします。

 主人を得た時には、もっぱら、戦いに参戦いたしました。

 大陸の歴史に残るような戦。名もなき人々の人しれぬ戦。

 いろいろな戦を、経験しました。

 敵を斬るのではありません。

 敵を喰らうのです。

 その生気を。魂を。私は喰らうのです。





 そういえば。この星に降り立って十年目に生き別れてしまったルルドのマリア様。

 再会しましたよ私。生き別れてから、四千九百九十九年と九ヶ月と九日と九時間九分後に。

 マリア様、さすがでした。神さまになってました。

 人間とウロコ人間もどきの配合で生まれた、ラケルタ族の守護神に居座ってました。

 それも、イケニエを喰らう怖い女神として。そこでも変わらず、大いなる奇跡を起こし続けてたらしいのですが。

 第二十代目の我が主人が。このマリア様を、まっぷたつにへし折っちゃったんですよねえ……。

 へし折ったのは、まぎれもないこの私ですけど。

 ラケルタ族のみなさんが、第二十代目の我が主人のカノジョをイケニエにしちゃいそうだったので。それで我が主人が切れちゃったんです。

 ほんと、すみませんすみません。



 他の聖遺物さんたちにも。たまーにどこかで会ったりしたのですが。

 みなさんもう、原型留めてなかったり、ばらばらになっていたり。

 その末路はどれも不幸なものだったと、記憶しております。

 いつだったか、さる王国の蚤の市で。八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)さんが、二束三文で売られちゃってた時は。ほんとどうしようかと思いました。

 だってこの方、黄金の国ジパングの、三種の神器とかいう超有名な宝物だのに。きったない屋台で。他のアクセサリーと一緒に、てんこもりにされて売られてたんです。

 その時は、第二十二代目の我がご主人様が。ぽんとカノジョに買って帰っちゃいました。プロポーズ用に。


「け、結婚してください……」

「なによ! こんないびつなアクセ!」


 とか、不遜にも。そのカノジョは、目の前の緑色の海に勾玉(マガタマ)さんをどっぽんって……。

 さすがに青ざめました私。

 いやもう、勾玉(マガタマ)さんも、第二十二代目のご主人様も、不憫でかわいそうで。

 ご主人様の目の高さを、証明してさしあげねばと思いましたよ。

 そこで我が小形内臓DVD再生機で。黄金の島国ジャパンの、『皇室ご○家』なるアーカイブ映像を、映してさしあげようとしたのです。

 が。

 失恋して絶望なさった二十二代目のご主人さまは……すぐにその場で海に身を沈めて、自殺してしまわれました。


「ふん! 軟弱な男ね」


 その後たしか、鬼のように無慈悲なカノジョに。私、二束三文で売り飛ばされました。

 そしてさる料理人にさらに二束三文で買われて、さる食堂の漬物石になったのですが――それはまあ、よき思い出かなぁと思います。





 最も私を活用した主人は、第二十四代目の主人でしょう。

 つい百年とちょっと前のことです。

 この方は、エティアという王国の王になった方。恐ろしい魔王を倒したので、むやみやたらに世に知られてます。

 この汗臭い筋肉もりもり、でも頭真っ白なご主人がついに死ぬという時。

 私は、黒髪の黒い死神のような服を着た導師に託されました。

 その導師は、王の親友であり。王は、「こいつを好きにしてくれ」と言い残して、この世を去りました。

 好きにって……。ごくり。何されるの私。

 とか期待――いえ、緊張しておりましたら。


「悪魔め。おまえのせいであの人は…」


 黒い死神のようなその導師は。とても怖い顔で私を睨んできました。

 は? 私のせいって?


「おまえと契約などせねば……あの人は、こんな年で死ぬなど!」


 こんな年って。第二十四代目の主人の死因は、老衰ですよ?

 よ、四十歳っていいお年でしょう? ち、ちょっと若すぎるきもしますけど。こんな年、じゃないでしょう?

 ちょ、ちょっと老けて見えるだけで。で……。


「生気を喰らう悪魔め! おまえなど! 永遠に封印してくれる!」


 い、いや、村正さんじゃないですよ私! 

 ち、ちょっとお腹すいて。生気が吸いたいなあってぼやきましたら。


――「僕のをお食べよ」


 とか。第二十四代目の主人が。どこかのおいしそうな顔した正義の味方みたいなセリフをのたまわったので! 

 ちょ、ちょ、ちょっとだけ……すすす吸っちゃっただけで……!


「嘘をつけ! 問答無用!」


 真っ黒いくそったれな導師の手で。

 ほぼ一万年ぶりに、あの「封印所」に戻ってきました私。

 一番始めに、白い髪の美少女の命令で運ばれてきた場所にです。

 大陸の北の辺境、湖がたちふさがる岩山の中にある、岩窟の寺院。

 その、地下にある宝物庫に。

 って……。


『久しぶりだな。会いたかったぞ、エクスなんとか君。積もる話を聞かせてくれたまえ』


 だからどうして……ロンギヌスさんの隣に置かれるんですか!

 この人、ほんとにイヤらしいんですってばー!




 封印所の暗闇の中で。うつらうつら、まどろみながら。

 私はこのように、今までの人生を思い出しておりました。

 なんだかんだいって、たくさんたくさん。喰らってきたものだと思いながら。


『ずいぶん漬物石生活が長かったのではないか? エティアの武王が手にする前は二千年ほどブランクがあろう』


 ええ、そうですねえ。ん? なんでしょう今の声は。

 宝物庫のどこかから聞こえてきましたが。

 音源を探ってみますと。我が美少女が置いていった、小さな黒い箱からのようです。 

 え……中身なんなの、これ。一体だれですかー?


『……』


 あら。黙ってしまいました。何かの機械でしょうかね。調子悪いんでお蔵入りとかなったんでしょうか。

 さて今度の主人は。いつ私をここから連れ出してくれるのでしょう。

 楽しみで。楽しみで。仕方がありません。

 

 ああどうか。

 喰わせなさい。

 早く。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ