1話 どんぶらこっこな私
なぜ。この私「エク……以下長たらしすぎて忘れました」が。
こんなくらーい所にいるかといいますと。
それはそれは。ながーくなるので。まず三行で申し上げます。
拉致られて。
乗っけられて。
運ばれました。
拉致ったのは知らない女の子。
乗っけられたのは、知らない星船。
運ばれたとこは、知らない惑星。
それまで私は、さるイギリスの古城で月見しながら、惰眠を貪っておりましたが。
突然ウサギの商標マークの宅急便屋に押し入られてひっ摑まれ。あれよあれよとアメリカに運ばれて。
アメリカのNASA宇宙局から星船でちゅどーん。あっという間にお月様。
連れてかれました私。いや、見るだけでいいですって。お月様。
もう、宇宙旅行は体験しちゃってますから、お気遣い無用です。
お月様には百年ほどおりましたし、火星にも行ってますから、
どうせつれてってくれるんなら、まだ行ったことのない、
木星付近の、アステロイドの貸し別荘地あたりがいいです……。
もう、聞いてるんですか?
ウサギの商標マークの下のお問い合わせ先にクレーム入れますよ?
あ……スマフォ持って無かったです私。ガラケーすら。
それに手がないです私。
どうやって、クレーム入れたらいいの……。
とか、ぶつぶつ文句を垂れてる間に、月基地に運び込まれました私。
そこで待ってたおっきな星船に、詰め込まれました私。
乗っけていい?とか一言も聞かれませんでした。ただの一言も。
どういうことなの……。
お願いクレーム入れさせて。
でも。私、ひとりではありませんでした。
他にも被害者がわんさかおりました。
大きな星船の倉庫は、絢爛豪華な同乗者でひしめいておりました。
布にプリントされたイエスさんと。
キンキラキンの千手観音さんと。
なんか血みどろの黒い石さんと。
その他もろもろいっぱいのなんだか超有名な方々。
きっとどの国の教科書にも載ってますな方々。
世界中の。聖なるものが、いっぱい!
ぎゅうぎゅう詰めに詰め込まれて。ごちゃまぜで。いっしょくたで。
てか、もう十把ひとからげで。むぎゅう。
呼吸しない生物でよかったです私。
「こりゃ、ノアの箱舟お宝版だな」
私を倉庫に放り込んでくださった、ウサギの商標マークの宅急便屋のおじさんが。汗水たらしながらそう言ってましたが。
『軍手で触らないでよ!お願いだから!』と。プリントのイエスさんが涙目で叫んでるのにもかかわらず。
知ったこっちゃねえ、と星間宅急便のその人は。ワレモノ注意も天地無用もガン無視で。
あとからあとから、まだまだたくさん詰め込んでくれました。
もう、ぎっちぎちに。
なんか、時間に追われてたみたいです。
五分で詰めろとか。言われてたみたいです。
つっこまれた倉庫の窓から。きれいな光景を見てました私。
ちょうど窓に、押し付けられていたのです。
う。だれあなた。槍? 名前は? ロンギヌス? ちょっと、なんなの?突いてこないでくださいよ。
いやびびりました私。そんな趣味ないですからね私。もっと離れなさいよ。
『無理』
ちょ……早まらないでください。私が必死に押し返しますと。
『いいじゃないか、仲良くしよう』
いやマジでこの槍。なんなの? べたべたしてきて。なんとかしてほしいです。物騒すぎます。
ああああ、槍の穂先が、鞘を貫通しちゃうう。うああああ。とか。思ってるうちに。
窓の外がぱあっと明るくなりました。
目の前のまーるい青い青い星が。なんか、ひび割れています。
そして。
ぱきっ
……とか。チョコ板割るみたいに。きれいにぱっかり表面が割れて。
なんか中味が出てきました。
とろーり真っ赤なイチゴ餡みたいです。おいしそうー。
とか思ってるうちに。艦内アナウンスが入りました。
『ただいまより、M99星雲人の攻撃を避け、ワープドライブに入ります。お客様は席につき、シートベルトをお締めになってください』
そして。星船はそれからすぐにワープしました。
え。まって。とろーりイチゴ。どうなったの?
倉庫の上の方から。たくさんの泣き声が聞こえてきます。
ニンゲンの泣き声です。
同情しました私。
ニンゲンのみなさんも。きっと喰いたかったに違いないでしょう。
とろーりイチゴ。本当に、おいしそうでした。
それから。どんぶらっこっこ。どんぶらこっこ。
のんびり二十光年。
運ばれました私。星船で。
ひまと思いきや。日々ロンギヌスさんのいやらしい突きに翻弄されて。
あんあんひいひい言わされました。
いえ。そんな趣味ないですよ私。でも。鞘が。鞘がー。
初代ご主人様の手ずからの刺繍の鞘がー。穴開けられちゃって…。
二度目のワープで。船長がなんか失敗こいたみたいで。天地がひっくり返りました。
やっとロンギヌスさんから解放されたのは良いものの。
今度は……無口な村正さんに張り付かれました。
いやなんであなたがここにいるの? あなた妖刀でしょう? ここ緊急聖遺物収納倉庫、なんですけど。
……。返事がないですね。ほんと無口です。
すると草薙さんが。
『いいですねえ。「エクスカリ…以下忘れました」さん』
と、恨めしそうに言うのです。
恨めしそうって……。草薙さん、ちょっと、まさか。あなた、村正さんのことが……!
ご! 誤解です! そんな嫉妬にとち狂った刀身にならないでください!
ジャパンの国宝三種の神器のひとつ、草薙の剣がどす黒くなるなんて聞いてないです私!大体、そんな趣味ないんです私!
とか、弁解してる間に宇宙嵐が来て。むぎゅう。
ますます無言な刀と密着してしまいました……。
く、くすぐったい……ちょっとその房飾り。どけてくださいよ。あふう…。
あ。プリントのイエスさんが千手観音さんの胸に張り付いてる。イエスさんが、鼻血出すぐらいニタついてます。
ちょ……何なの、このカオス空間は。
血が渇いた黒石くんが。グングニルさんのとこにころがってはじかれて。水晶のドクロさんの開いた口に、ゴール! とか。
いや。ホッケーじゃないから!
うああ。ガネーシャさんの、まんま象さんの長い鼻に。ロンギヌスさんがまとわりついてる。ち……尻軽め! 私というものがありながら! あれだけ私を突いたくせに!
いや。そんな趣味じゃないですってば私! そんな趣味じゃ――
ああ。開発されてしまったのでしょうか私。勘弁して下さい。
なにコレ一体どんな宇宙開拓物語なの。
百年ぶりの宇宙旅行。本音を言えば。航星日誌つけたかったです私。
手があればペンが持てるのに。
なんで手がないの私。作った人悪い。コロス。
……ってああ。もう喰っちゃってました。忘れてました私。
だいぶ昔の。ことなので。
どんぶらこっこ。どんぶらこっこ。
のんびり二十光年。
ぎゅうぎゅうカオス。
二十光年。
ようやく。目的地が窓から見えてきました。
金色の星。翠緑の海……ちっさー。
たぶん青い星と間逆でしょう。そうでしょう。
七対三じゃなくて三対七でしょう。そうでしょう。
船が着陸しまして。倉庫の扉が何十年ぶりかで開きました時。
白い髪の女の子が入ってきて。ひと目見て。冷たく。
「……どこの汚部屋」
おまえのせいでしょううう!
なにせこの女の子が。「とりあえず」倉庫に突っ込めと、宅急便屋に命令した張本人なのです。蒼い蒼い星では、とても偉い立場にいたようです。
だから世界中から、お宝や聖遺物や怪しげなものを一斉に集められたのですね。
しかし航海中一度も。倉庫は開けられませんでした。ただの一度も。
この女の子は、一緒の船に乗っておりましたのに。
一度ぐらい、様子を見に来てくれたっていいのに。
冷たいです。優しくないです。
でも、許しましょう。
ええ、許しましょう。
だって。
美少女は。
正義! ですからあああ。