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11話 双子と私

 青くたゆたう海の底。私はずいぶん永いことそこで魚につつかれておりました。

 我が主人ロベールはあのあと、一体どうなったであろうと気にしながら。


『我が主! 我が主!』


 何度も呼びかけてみましたが。そのころの私はまだ今のような能力はほとんどなく。

 思念を遠くへ飛ばすことも、主の心の声をきくこともできませんでした。

 そのようなわけで私は、時折魚につつかれながら、海の底でもんもんとしていたのですが。

 ある時大きな大きな迷いクジラが通りかかり、ずざあと海の底を漁りながら餌を物色してきまして。私は辺り一帯のものもろとも、ひと呑みにされてしまいました。

 それはそれはどでかい大クジラで。なんだかすぐそばの沈没船らしきものまでばりばりばりーと割り。がつがつがつーと中の物を食いちぎっていたような気がいたしますが……。

 幸い髭のようなクジラの歯にブロックされ、私は体内に流し込まれるのは免れました。

 しかしクジラの口の端に引っかかってしまいましたので、クジラは歯になにかつまようじのようなものがはさまったと思ったらしく、大暴れ。

 海に大渦を起こすほどあちらこちらと泳ぎ回り、海上に出て暴れたものですから、さあ大変。近くを通っていた船団があばれクジラに巻き込まれ、あわや転覆の危機に陥りました。

 とある商船に乗っていた少年二人が、われこそは暴れクジラを仕留めようと勇み立ちました。数時間の格闘の末、二人はクジラを海岸に追い込んで、見事に大人しくさせました。


「兄さん、鯨の口がなんか光ってるぞ」

「本当だ光ってるな」

「お宝だ」

「本当だお宝だ」

「ごほうびだ!」

「本当だごほうびだ!」


 少年二人は私を見つけて手を打ち叩き、大喜び。


「すげえ! きっとローマ帝国の剣だ!」

「本当だローマ帝国の剣だー!」


 いや違いますって。

 私の生まれはイングランドですって。

 つまり、英国紳士ってやつですってば。

 二人の少年は顔が瓜二つ。背丈も声もそっくり同じ。


「俺のだ」

「いや俺のだ」

「俺のだよ」

「いやだから俺の」


 どっちがどっちかわからないぐらいそっくり同じ。

 すなわちまごうことなき双子で。

 彼らは私を取り合って喧嘩をはじめましたので、私はあわてました。



『や!やめてっ!私のために争わないで!』



 一度言ってみたかったセリフだったのは。秘密です。


「しゃべった!」

「ほんとだしゃべった」

「すげえ!」

「まじすげえ!」

「俺のだ」

「いや俺のだ」

「俺のだよ」

「いやだから俺の」


『ちょ! まちなさい! ストップ! ジャスタモーメン! ミオミオうるさいです。それ、一体何語ですか?』


「こいつ何て言ってるんだ? イタリア語じゃないぞ。おまえわかるか?」

「さあ? ローマの剣だからラテン語じゃないのか?」

「なんだか違うような気がする」

「まあいい、俺のだ」

「いや俺のだ」

「俺の――」


『だから! ミオミオいわないでください。ここはどこですか? 今はいったい何年なんですかー!』


 そのころの私はまだ言語翻訳ソフトを内臓しておりませんでしたので、古英語とフランドル語と古フランス語と、それからラテン語しか知りませんでした。

 十字軍でロベールのお供をしていた時には、周囲の方々はフランス人だらけ。イタリア語はちょろっとしかきいたことがなかったのです。

 双子はネアポリスという港湾都市の金持ちの商人の息子たちでした。私は二人に抱えられて、彼らの家へ連れて行かれました。

 その家はローマ帝国時代から海運業を営んでいた老舗で、なんとも豪奢な大豪邸でした。双子の父親はとても顔が広く、家には様々な人を絶えず招いておりました。

 西から東から外国人がたくさん集う家でしたので、そこでは時折ラテン語が万国共通語のように話されていました。

 私は父親と訪れてくる人々との会話から、聖地イェルサレムとその周辺がいまやキリスト教徒の王国となって百年ほど経とうとしており。それが現在サラーフッディーンという異教徒の英雄に攻められて、存亡の危機にあることを知りました。

 百年経ったということは……。人間の寿命から考えて、我が主ロベールはすでにこの世の人ではなくなっているということです。

 双子にもラテン語で十字軍の英雄の事を知っているかと聞いてみますと。

 フランドル伯ロベールの名はうっすら出てきましたが。我が主ノルマンディー伯ロベールのことは、存在したことすら全く知らない様子でした。

 フランドルのロベールにうっかり柄を持たせなければ、我が主から離れることなどありませんでしたのに……。

 私はこのことを深く深く反省しました。そしてこれからは、主人以外の者には決して我が身を触れさせぬことを徹底することにいたしました。

 そして。私は次の主人を、双子の兄弟のどちらかにするべきなのだと悟りました。彼らには私の声がはっきり聞こえるからです。

 しかし。双子は私を所有したくてどちらも譲りませんでした。

 困った末に私は、彼ら二人を同時に主人と認めることにいたしました。

 というわけで、我が第四代目の主人は兄のバルトロメオ、第五代目の主人は弟のビクトリオとあいなったのであります。

 この二人の主人、さすが双子だけありまして、どっちがどっちなのかよくわからないほど性格も行動も似ておりました。

 彼らは好みも全く同じで、ひとつのものをいつも取り合うのです。

 分けられるものは分け。分けられぬものは、無理やり分かち合う。

 それほど仲の良い兄弟は、四六時中肩を抱き合っては酒を飲み。陽気に商売をして歌い騒いで過ごしておりました。 

 そんなわけで私は一日おきに、二人の主人の間をいったりきたりするようになり。もっぱら、彼らの格好良さをひきたてるお飾りとして過ごすようになりました。なにしろ彼らは商人の子で戦士ではありませんでしたから、実のところ剣は必要ないものだったのです。



 さてその数年後。

 再び異教徒から聖地を奪還しようとまたまた十字軍が召集され。

 西の諸侯方がまたもや大集結して、東の異教徒の国へ攻め入ることになりました。

 今度の顔ぶれは以前よりもとても豪華でした。フランス王とかイングランド王とか。大国の王様自らが、軒並み参戦したのです。 

 その噂を聞きまして、年頃になった双子たちはいろめきたち。ぜひぜひ俺たちも参加したいと父に駄々をこね。でかい武装商船をひとつ手配して、あっという間に東の国へと渡ってしまいました。

 ええ、ちゃんとこの私を一日おきに背に負ってです。まあ私は飾りのようなものですから、一日おきに交換されても全く支障はありませんでした。

 彼らの本気の武器は、金にあかせて作らせた見事な槍。防具は金にあかせて作らせた見事な鉄甲冑。


『ぜひ!イングランド王のもとで戦いましょう!』


 私はロベールの消息を知りたくて、二人の主人にしきりにそう奨めました。イングランド人ならば百年前といえど、自国の歴史を多少は知っているはずと思ったからです。

 かの国を攻めようと帰国したロベールが一体どうなったのか。かの国の王となれたのか。しもべとして知らねばなりません。

 私はかように忠義深いのです。

 ここ大事だから、もう一度言いますね?

 私は主人のことを、本当に大事に思う剣なのです。

 嘘じゃありませんよ。本当です。

 ですから美少女、そろそろ顔をあげてこちらを見てくれませんか?

 そんなに無口に武器を磨いてばかりでは、肩こりますよ?

 せめて私を磨きなさい。

 異教徒の王、かのサッラーフッディーンの剣と切り結びました我が刀身を。



 双子は私のお勧めどおり、イングランド王リチャード一世のもとへはせ参じました。

 お金をたっぷりもっていましたので、お金がないイングランド王に大歓待され。すんなりその陣営に入れてもらえました。

 騎士としてではなく、従者兼御用商人としてです。実際に戦うわけではないので、双子は物見遊山な観光気分満載でした。

 時のイングランド王リチャードは、精悍で野心に溢れていて。そしてどことなく、あの無鉄砲で無茶苦茶なロベールに雰囲気が似ておりました。

 我こそは英雄になるぞとか、そんな気概が特に。 

 私はさっそく双子を通して、この王に百年前のことを聞いてみましたが。


「しかし余はイングランド人ではないからな」


 はい?

 なんと。双子のラテン語の質問に、いきなり流暢なフランス語が返ってまいりました……。


「余はあそこで生まれ育っておらん。王位継承のために数ヶ月滞在したきりだ。しかしあそこは、雨ばかり降る暗い森の国だったなあ」


 そ、そうなんですか。でもロベールの領地ノルマンディーは大陸にありますから、そこらへんの噂などは……。


「フランドルのロベールなら知っておるが。エルサレムの英雄と呼ばれ――」


 いや、そっちじゃなくて。


「ああ、そういえば小さいころ家庭教師に年代記を読まされたな。百年前のノルマンディー伯のことは……確か……」


 ようやく私は、前の主人ロベールのその後をざっと知ることができました。

 ノルマンディー伯ロベールは十字軍から帰国後、イングランド王位を弟から奪おうと戦を仕掛けて大失敗! 実の弟であるイングランド王に捕らえられ、かの島国の西端の辺境に幽閉され、そこで数十年囚われの身で過ごして死んだ……そうです。


「俺の骨はイングランドに埋める! 冠つきで!」


 と豪語しておりました我が主は。冠こそいただかなかったもの、その望みを半分だけ叶えられようです。

 しかし……守護神の私を失ったがために、なんという悲運に見舞われたのでしょう。私がおそばにおりましたら、万が一戦に負けども、囚われの身になることはなかったでしょうに。おいたわしいかぎりです。


「しかし、よい剣だな!」


 ちらちらと、リチャード王が五代目の主人ビクトリオの背中にいる私を見て。

 にやにやと、手を伸ばしてきて。私をさっと抜き取りました。

 私は嬉しくなって、触れた手からちょっとこの王の生気を吸ってしまいました。

 いやほんとうに、百年なにも食わずだったので。お腹が空きすぎてつい……。

 だからほんとにちょっとだけ、いただいたのです。なにしろこの人は生気が溢れかえっていて、とっても元気そうでしたから。

 決して悪意は――ありませんとも。

 大体、我が故郷の王様に持っていただく事自体、なんとも光栄なことじゃありませんか。


「我に献上してくれぬか?」

「でもこれは、ただの飾りで刃がないですよ、王様」


 そのひとことで。リチャード王は私をすぐビクトリオに返しました。

 ひどくがっかりした顔を押し隠して。ビクトリオの肩をばしばし叩いて。


「いやいや、冗談だ。はははは」


 いや、私なまくらですけど、ロベールにキズ一つ負わせなかったんですよ?

 来るなオーラで何人たりとも寄せつけませんでしたから。

 すごく役に立つんですよ?

 そうアピールすれど。とても残念なことに、この王は私の声を聞くことができませんでした。

 私の声が聞こえる。これはとてもとても重要なことです。

 意思疎通できねば、私を使いこなすことなどできませんからね。

 しかして。生まれながらの騎士である王より、たしかに商人の息子たちの方が、戦士としての素質があったやもしれません。

 我が二人の主人たちは、王にひっついて実際の戦を目の当たりにおかげで、あれよあれよという間にいっぱしの戦士に叩き上げられました。数ヶ月もたたぬうちに、剣の双子従者と呼ばれるようになり。軍内で重宝される存在になったのです。

 そして。ある都市をリチャード王が異教徒から解放しました時。

 双子は出会ったのです。

 あの、美しい姫君に……。



 その姫の容姿を言葉にするのは無理です。

 百の言葉を並べたとて、表現しきれるものではありません。

 容貌美麗にして、気質優雅なるその方は、東ローマ帝国の古い貴族のお家の方で。小鳥のさえずりのごとき声と星のごとき蒼い瞳で、ひと目で双子を虜にいたしました。


「きれいだ!」

「まじできれいだ!」

「俺のだ」

「いや俺のだ」

「俺のだよ」

「いやだから俺の」


 予想通り。ミオミオ言うのが始まりました。

 しかし姫は生身の人間、二つに裂いて分けることはできません。

 ですが。双子はもちろん……分けましたとも。

 無理やりで、だまし討ちで、二人がかりでかよわい女性を……という。

 始めは完全に征服者の暴虐そのものでしたが。

 なんとか二人同時にかの麗しき人を宥めすかして口説き落とし。お金もたっぷりと積みまして。姫を正式に「妻」に迎えまして。仲良くかわるがわる、愛することにしたのです。

 私と同じく、一日おきに。

 ですがすぐに、三日おきとか。一週間おきとか。

 四代目のバルトロメオ、双子の兄の方がずるずる約束を破り始めました。

 そしてついには。


「剣はおまえにやるから、姫をくれ」


 この言葉で、固く結ばれた双子の絆に決定的にひびが入りました。

 五代目のビクトリオは怒り、絶望し。

 いつしかそれはどす黒い憎しみへと変わり……。

 ついには。兄弟の絆を裏切ったバルトロメオを殺そうと思うようになってしまいました。

 ヴィクトリオはそれからというもの、兄とともに従軍しながら、恨みを晴らす機会を窺うようになりました。

 兄はといえば、姫を荷馬車に乗せて連れまわすほどの入れ込みよう。毎晩馬車の中で睦み事をされては、弟の憎しみもさらにいや増すというものでした。


『仕方ありませんよ。男二人に女一人ってそりゃあ、いつかは均衡が崩れるものです』

「姫は、俺のだ」

『きっともっときれいな姫君に出会えますよ、我が主』

「あの・・姫は、俺のだ」


 何を言っても「俺のだ」一点張りのヴィクトリオに、私は同情すると同時に閉口しました。この人は、ほんとに「俺のだミオ」しか言わなくなってしまいました。

 あんなに仲の良い双子でありましたのに。女性への愛というものは、げにおそろしきものですねえ。 



 双子の兄を殺す機を窺う弟は、ほどなく千歳一隅の機会を得ました。

 リチャード王の軍がある都市へ攻略に向かう途中、かのサラーフッディーンの軍が夜襲をしかけてきたのです。それはまったく予期せぬ事態でしたので、我が軍は大恐慌。荷物をおいて逃げ出す者大多数。

 この襲撃の時、双子の兄は武装せずに姫と一緒に荷馬車に乗っていて。中で互いに愛を確かめあっている真っ最中で、まったくの無防備状態でした。

 もちろん私は、双子の弟を止めましたとも。


『や、やめましょうよ』

「俺のだ」

『悪いことは言いませんから、とりあえず私で我慢し――』

「俺のだーっ!」  


 敵味方入り乱れる大乱戦の中。双子の弟は、荷車の扉をこじ開け。

 中に入って裸の兄に剣を振り上げました。

 しかしその瞬間。


「危ない!ビクトリオ!」


 兄はとっさに弟を押し倒し。弟を殺そうと背後から襲ってきた異教徒の剣を代わりに受け。どうと倒れました。


「に……兄さん?」 

「ああ……ビクトリオ、おまえが無事でよかった……」  

「兄さん! 兄さーん!」


 兄にかばわれたのだと察した弟は、我にかえって泣き叫びましたが。

 鎧を着ていなかった双子の兄は、その場ですぐに命を落としてしまいました。

 しかも。

 麗しき姫までが敵の手で荷馬車から引きずり出され。弟の目の前で容赦なく斬り殺されてしまったのです。


「俺の……俺の……うあああああ!」


 絶望しながら双子の弟は、私を抜き放ち。がむしゃらに振り回しました。

 またすぐに主人無しになるのは正直困ります。

 私は必死になって周囲の敵を喰らいまくりました。

 弟は涙を流しながら雄たけびをあげ、ついには敵の大将サラーフッディーンの懐にまで迫り。

 私はかの「異教徒の英雄」の剣とがっつり切り結びました。

 ああ。あの時の我が身の痺れは永遠に忘れることができません。

 電撃のように我が身に走ったあの英雄の覇気。なんと濃ゆく激しかったことか!

 私はすかさず喰らいました。あの覇王の生気を。

 リチャード王とは比べ物にならぬほど気高き理想に燃え、血と汗にまみれた魂を。

 双子の弟の、死を覚悟した鬼神のごとき剣幕に、かの英雄は少しもたじろぎませんでした。

 しかし私に喰われた瞬間、その鬼のごとき戦心に人間の心がたちまち舞い戻りました。

 かの英雄は怖気づきました。圧倒的な優勢でしたのに、サラーフッディーンは弟を突き放すや、すぐさま退却していきました。

 こうしてリチャード王の軍は辛くも全滅をまぬがれました。

 双子の弟は敵の大将をしりぞけた英雄だと賞賛され。リチャード王から騎士の位を授けられました。しかし当の本人は……己れがあの時荷馬車の扉を開けなかったら兄も姫も失わなかったと、そればかり悔いて泣き崩れました。

 何日も。何ヶ月も。泣いて。泣いて。

 そして。

 頭を丸めて名を変えて。戦場で戦う僧侶となり。異教徒を屠り続けることを己が罪の贖いとして生きることを誓ったのでした。



 こうして我が五代目の主人ビクトリオは、白地に赤の十字架の盾を背負う聖堂騎士の一員となり。生涯故郷に戻ることなく、何百何千という異教徒を屠って屠って屠りまくったのです。

 魂のかたわれとも言うべき兄と愛する姫を奪った「己れと異教徒たち」の両方を、決して許すまじと。

 片目になろうが、片足になろうが、彼は狂ったようにずっと戦い続け。

 そして……。

 戦場で。華々しく死にました。

 腕を斬りおとされ、私から離れてしまった彼がついにそれを望んだ時。

 私は敵を喰らうのを止めました。

 我が主人の望み通りに。命令通りに。私は主人を死なせてやりました。

 そうすることこそが、この双子の弟の魂を救う唯一の方法でありましたから。

 我が主人の胸に敵の刃が深々と刺さるのを、私は見届けました。

 血の涙を流す気持ちで。

 いまわのきわに我が主人は私を抱きしめ。つぶやきました。



「剣よ……おまえは、俺のだ」



 ああ。なぜ私には、目がないのでしょう!

 作った人……! 殺す! 殺す! 殺す!

 このときほど、私を作ったあの魔法使いを恨んだことはありません。

 このときほど、目ぐらい作ってほしかったと強く望んだことはありません。

 私は。己が涙を。この哀れな主人にどんなに捧げたかったことでしょう。

 どんなに泣きたかったことでしょう……。

 ああしかし。あの姫のなんと美しかったことか。

 二十歳になる前に散ったあのかぐわしい花は、生涯我が主人の心の中に密やかに咲き続け。決して枯れしぼむことはありませんでした。

 その美しくも恐ろしい呪縛から解放された瞬間の、我が主人の死に顔は。

 なんとも安らかで。

 赤子のようにあどけないものでありました。


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