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プロローグ  出会いました私

拙作「白の癒やし手」のもうひとつの物語。

剣が主人公です。

剣は人ではなく、しかも隔離された環境に永らくいますので、

言語中枢がちょっとおかしいところがあります。

これはお話が進むにつれて、徐々に矯正されていきます。


 ……みなさんこんばんは。

 って今、夜? 昼? 解りません私。

 とりあえず、まっ暗いからいつも。そう挨拶いたします。

 イエスさま? 今日もだんまり? 挨拶したのに。

 いや、解ってます。あなた、ただの布。

 でも。ひまなんです。


 そこの千手観音さん。ちょっと。あの絵本、読んでくださいます?

 気になる。気になる。見たい見たい見たい。

 表紙きれい。美少女の絵。茨のお姫様。美少女。

 見たい。絵本めくって。そんなにいっぱい手があるなら。

 ……いや、解ってます。あなた、ただの仏像。

 でも。ひまなんです。


 そこの黒い石くん。その台座の、青いボタン。押してくださいます?

 昔々にここに来ましたくそ導師。そのボタン、ポチッとな。といたしましたら。

 まじ? 美少女! いっぱい、出てくるのです! 美少女だらけ!

 遊んでるのですよ! 青い青い水がいっぱい溜まってるところで。

「チョーオタカラエイゾウ・ゲイノージンスイエータイカイ」

 って何ですか?

「ワレワレノホシ・チキュウハ・カヨウニウツクシキ・トコロデ・アッタ」

 ってどういう意味ですか?

 ジャパニーズわかりません私。生まれも育ちも英国の、英国紳士ですので。

 でも、最高! 美少女の白い足。足……。足……!


 ……。


 記憶がまぶしすぎて。気絶してました。いやあれほんと最高。また見たいです私。

 だから押してくださいませんか? カアバの黒石くん。

 ……。いや、解ってます。あなた、ただの隕石。ごめん。悪気ありました。

 でも。ひま……なんです!


 なんで手がないのでしょう私。作った人悪い。コロス。

 なんで足がないのでしょう私。作った人悪い。コロ…

 ああ……喰っちゃってました。腹いせに。

 忘れてました。だいぶ昔の、ことなので。


 大体、ありえません。ここは真っ暗な宝物庫。めったに人がまいりません。

 なのに。ネズミ一匹いないなんて。

 ふつういますでしょ?

 なのに。(ゴキ)すらいないなんて。

 何それ。きれいすぎます。

 場末の食堂並みにしてください。腹減りすぎです私。くるくる円形自動掃除機完備? 

 何それ。ふざけてます。

 虫一匹! 喰わせないつもりですか? この私に?

 (ゴキ)すらだめって、理解不能です。(ゴキ)すら!

 仕方ないですね。呼んでみましょう。美少女。私の嫁を。

 つい先日、マスターに登録したのですよ、私。

 そう、先日、地上の寺院から降りて来たんです。美少女が。黒い衣の導師と一緒に。

 あの導師は、くそ。ほんとくそです。まーた連れこんできたと、思いました。

 ここは寺院の地下の、神聖な宝物庫なのに。あの導師は、下心いっぱい。

 ここモーテルですか? おやめなさい。

 まーたいちゃいちゃするんですか? おやめなさい。

 バチ当たりますよ? イエス様も。お釈迦様も。アッラーの神も。みんな見ております。

 ええ、ちゃんと見ております。知りませんよ私。

 じいー。

 ……。

 ……。

 おや? ちょっと! 前とは違う子じゃないですか! うわあこの導師、くそ。ほんとくそ!

 お。こっちに近づいて来ましたよ。前と違う子。な、なに? 何か用ですか?


「この剣……どこかで……見たことある……」


 お? お? おおっ!? こ……れは……なんという……


 美少女おおおお! 超弩級うううう!


 顔の形はうりざね型、ペルシア系の眼球ぱっちり顔、しかし肌はコーカソイドでまっ白、瞳孔は花馨る菫色、髪の毛は燃えるような鳶色で。

 秀眉麗目ドッテンカイメイ!


 うおおおおおお!

 さーわーらーれーまーしーたあああああ!

 美少女にいいいい! 柄にタッチされましたああああ! 私の心臓、真っ赤な宝石にいいい! ぴゃあああああどうしましょうううう!

 あ、指紋登録しましょ。

 っしゃあああああああ!


 ――これが。我が嫁に初めて出会った時の。私の記憶(メモリ)です。

 もう嬉しすぎて。あの時、気絶しました私。

 鼻血ブー。

 ニンゲンだったら。きっとそうでしょう。まじんブーじゃなくて。鼻血ブーでしょう。

 案の定、あの瞬間、舌打ちされました。向こう三軒隣のグングニルさんに。

 嫉妬されました。そのままシねばよかったのにと。すぐ隣に並ぶロンギヌスさんに。

 まあまあみんな、これは何かの間違いよ、とか。クサナギさんが、むかつくセリフでご近所さん方をなだめてましたよ。

 そしたらみなさん黙りましたけど。でもまだ、村正さんが私をシカトしてます。

 ていうか村正さん、あなたなんでここにいるの。あなた、妖刀でしょう?

 ここ聖遺物置き場ですよ。場違いでしょ。

 ……。

 ……。

 ……。

 やっぱり。村正さんは、口きいてくれません。

 けっ! どーせ一番! かっこいいですから私。

 名前は、だっさー。ですけど。

 エクスなんとか……おぼえられません。長すぎて。作った人、勘弁してください。

 


 はじめて会ったあの時。美少女は、とてもちっちゃい黒い箱を、宝物庫の奥の方に置いていきました。

 それから黒い衣の導師にキスしまくられて、ものすごくうんざりしてました。

 美少女は、雷みたいな光の魔法で、バチっと導師を撃退しました。ええ、当然ですね。

 それから二人とも、地上の寺院へ戻っちゃいましたけど。心配は無用。

 私にさわりましたから。美少女。さわってきましたから。美少女。

 指紋採取、脳波捕捉、光速で処理。美少女のマスター登録完了! 

 これでいつでも精神波を飛ばして、美少女とお話できるのです。

 私と彼女は、深く深く、繋がったのです。

 生まれてはじめて、「おっさん」違います。

 主人とは違います。 嫁です! 

 二十五代目にして、初めての嫁です!

 湖に投げ捨てられてもいいです。嫁なら、許します私!

 あ、でも後でちゃんと拾って……ください。

 さびたくないです私。本家みたいに。

 ちょっとグングニルさん! 「おまえ複製だろ」なんて言いがかりつけないで下さい。  

 本家より性能すごいんです私。任せなさい。

 神さまだって殺せますよ私。お腹がいっぱいならね。

 ああ、足があったら、小躍りしたいです私。

 夢みたいです。あんな美少女が、我が嫁だなんて。

 ああ……ほんとに、なんで足がないんでしょう私。作った人悪い。コロ……

 あ。喰っちゃってました。腹いせに。

 忘れてました。だいぶ昔の、ことなので。

 一万と。二千年前のことなので。


 ……しかし。お腹減りすぎました。

 呼び出しましょう。そのための、伴侶です。

 私の嫁。美少女に、おねだりしましょう。

 奥さんというものは、旦那さんにごはん作ってくれるものです。

 ですから――



 喰わせなさい。何か。




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