表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憑き来たる者共  作者: 冷奴
日常と非日常、その間で
6/14

繰り返す者共

「きみ、転入していきなり”ルーシェ”から呼び出されるなんてね。まあ、当然と言えば当然なのかもしれないけど」


生徒会室まで俺を案内する途中、(あずさ)は不意に聞きなれない単語を口にした。当たり前のごとく疑問が飛び出し、俺はそのままに質問する。


「ルーシェ? 何だよそれ?」

「Rehi Student council executive、略してR.S.C.E.で”ルーシェ”。麗飛(うち)の生徒会執行部のことよ。昔から麗飛(うち)はこの呼び方で通ってるんだって。役員はみーんな、すごい人ばっかりよ」


いきなりの、しかもかなりネイティブな英語に少し混乱しつつ、言われたことを整理する。

レイヒ・スチューデント・コンスル・エグゼクティブ。日本語に訳すと、『麗飛学園生徒会執行部』ってところか。日本語だと普通なのに、英語にした途端かっこ良く聞こえる。とはいえ、


「名前はそれっぽいけど、結局のところは生徒会だよな? いくら役員が優秀だからって、そんな大した活動は出来ないだろ?」


少なくとも、俺の中学の頃の生徒会はそうだった。俺も一時期成り行きで学級委員長をやっていたから、少しくらいは分かる。

学校活動の中心なんて言わせておきながら、実態は他の委員会と同じ。

なあなあで選出された役員たちが、担当の教師に指示されたことを、ただこなしていくだけだった。もちろん当時は、それを悪いとは微塵も思ってなかったし、今だって思っていない。けど、なんというか”お飾り”な感じはどうしても否めなかった。もちろん、今も。

そして”お飾り”の生徒会は、たとえ中学が高校になろうと、さほど変化していないはずだ。生徒と教師とが、対等でない限りは。


「へえ、やっぱり普通はそんな感じなんだ。麗飛(うち)って特殊なんだなぁ」

「え、麗飛(ここ)は違うのか?」


言ってから強烈な違和感を感じた。

あれ? 俺、今…………


麗飛(うち)はね」


疑問を口に出そうとしたところで、梓の、心なし強めの言葉に遮られた。


麗飛(うち)はね、”ルーシェ”が学校の中心なのよ。紛れもなく、言葉通りにね」

「へ、へえ、そうなんだ」


なんとか相づちを打った時には、違和感の原因は俺の中ですっかり行方不明になっていた。こうなってはどうしようもないので、仕方なく梓の解説に耳を傾ける事にする。


「体育祭とか文化祭の方針は生徒と先生みんなで決めるんだけど、もっと根っこの部分…………例えば、行事に協力してくれる業者との打ち合わせとかは、完全に”ルーシェ”の管轄ね。あと、最近は学校全体の予算とかも決めてるらしいけど」

「ふぅん……って…………え? いや、ちょっと待ってくれ」


今何か、物凄いことを聞いたような。


「? なに? どうかした?」


梓は、頭の上にクエスチョンマークが浮かんだような顔をしている。

いやいや。多分聞き間違いだろう。

一応、確認のために質問してみよう。


「今、生徒会……”ルーシェ”が、学校全体の予算を決めてるって…………そう言ったのか?」

「何? それがどうかしたの?」


即答だった。そして同時にこの回答は、聞き間違いではなかったことを意味する。が、あまりに話がぶっ飛び過ぎていたので、とりあえず反論を試みる。


「い、いやいやいや。だってさ、いくらその、”ルーシェ”が学校の中心だからって、予算まで管理するなんてさ……ね、根も葉もない噂かなんかだろ、そんなの……?」

「……はぁ…………」


ため息をつかれてしまった。


「克樹くん。きみ、会った時からいちいちびっくりしてるけど、麗飛(うち)がどんなところか、ちょっとは予備知識とかないの? 初日で道に迷うっていうのも、通学路調べてなかったからとかじゃないの?」

「うっ…………そ、それは……」


図星だ。

通学路に関して言えば完全に凡ミスだが、実は俺、麗飛学園についてはほとんど調べずに今日に至っている。生活費を負担してくれるんだから、お金持ちの学校なのかな、くらいにしか思っていなかった。

なぜ俺にそんな支援をするのか、という疑問はなくもなかったが。


「……まあいっか。それよりここから先、気をつけてね。踏み外さないように」

「お、おう」


俺はどうにも言い返すことができず、梓の注意に素直に頷いて____

ん?

踏み外す? 何を?


そう思って前を向いた俺の視線の先で、


「どうしたの? ほら、こっちだよ」



梓は、校舎の三階から一歩踏み出したかと思うと、


空中を歩いていた。



「え、えぇえぇぇぇ!?」


俺は素っ頓狂な声を上げて、ついでに飛び上がりそうになった。が、また梓が「やれやれ」という表情になっていたので、ぎりぎりで踏み止まってよくよく見てみると、


「これは……ガラスの、橋?」


俺の言葉の通り、それはガラスで出来た橋だった。横幅はかなり広く、自転車が並列しても大丈夫そうな位に広い。それに加え、きっちり手すりまでついて、これもガラス製だ。

陽光にきらきらと輝くそれは、まっすぐに尖塔____梓によれば中央塔と呼ぶらしい____に続いている。遠くから見た時は全く気付かなかったが、他の校舎からも同じ物が伸びてるのに気付く。


「ほら、ここから登って」


いつの間にか近づいていた梓が、ガラスの橋の上から俺に手を差し伸べてくる。手を引いてもらって橋に登って、先ほどまでと同じように梓の後をついて行く。


「すごいな……」


今日何度目かわからない感嘆の声を上げる。


「これは割と最近増設されたんだ。生徒の意見を参考に、”ルーシェ”が計画したんだよ」


梓が解説してくれる。ひとつひとつ俺の気持ちを汲んで説明してくれることに心の中で感謝しつつ、ガラス越しの地上を眺める。

しかし。


「しっかし……怖えなこれ」


橋が透明だからなおさらだ。


「ふふ、大丈夫。強化ガラスだから、銃を撃ち合っても崩れたりしないんだよ」


冗談めかした梓の言葉に苦笑する。とはいえ、強化ガラス製と言われただけで、結構安心できるもんだ。

なんてことを考えていると、







「……ふぅ、危なかった」


梓が不意に何か呟いた。解説を聞き逃したのではと、とっさに聞く。


「え? 何か言った?」

「うぅん、なんにも。あ、それより、降りるときも気をつけてね。この橋意外と段差あるから」

「おう、わかっ……おぉう!?」


返事しようとした矢先に段差を踏み外し、派手に転ぶ。笑う梓に手を貸してもらって立ち上がってから、なんだか可笑しくなって、俺も笑ってしまった。

そのまま中央塔に入ると、中心に日本の筒が通っていた。この感じからすると、エレベーターだろうか。


「ここを登ったらすぐ、”ルーシェ”の本部だよ」


エレベーターに乗り込み、ボタンを押しながら梓が言う。ルーシェ本部というと、つまりは生徒会室か。


ゆっくりと扉が閉じられる。エレベーターは静かに、しかし素早く、俺たち二人を運んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ