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憑き来たる者共  作者: 冷奴
日常と非日常、その間で
5/14

交錯する者共

通学路での出会いから数分。俺と(あずさ)は、他愛ない会話を挟みつつ、麗飛学園に向かっていた。

おしゃべりを続けていると、不意に梓が声をあげる。


「あ、来た来た。あそこの角を曲がったら、麗飛の校舎が見えて来るよ」


言いながら、少し先のT字路を指差す。それに応じつつ、俺は疑問を飛ばした。


「おう。……しっかし、ビルだらけだよなこのへん。どうなってんの?」

「うーん、私にもよくわからないんだけど……」


少し困ったような口調で梓は続ける。


「まず、この辺一帯が、麗飛学園の所有地らしいの。学園都市って言うのかな。スポンサーが運営するショッピングモールなんかもあるから、ちょっと違うかもしれないけど」

「へぇー」


ショッピングモールまであるのか。もっと調べておけばよかったと後悔しつつ、梓の説明を聞く。


「でも、そこかしこに建ってるビルは…………よくわかんないの」

「わからない? どういうことだ?」

「言葉通りよ。生徒の間では色んな噂が流れてるんだけど、実際のところはナゾ、って感じ。あ、そこを左だよ」


視線を前に移すと、目の前にさっきのT字路。指示通りに左に曲がると、そこには、


「ぅわ…………」


まず目に飛び込んで来たのは、そびえ立つ巨大な尖塔。続いて、ヨーロッパ建築の四角い建物が、尖塔を取り囲むように配置されていることに気付く。なんと言うか、これは学校というより、まるで____


「神殿とか聖堂みたい、って思ったでしょ」

「ああ…………すげぇ……!」


また考えを読まれたが、今はそれに対する感情よりも感動の方が勝っていた。ガキみたいだけど、純粋にカッコいい。そう感じる。


「やっぱり、外部の人にとっては珍しいんだね」


言ってから、隣の梓も俺と同じように校舎を眺めていたが、しばらくしてから顔を俺の方に向けた。


「そろそろ行こう。時間もないし、それに、内装も見たいんじゃない?」

「おう!」


######










ミツケタ。

ヤット、ミツケタ。


ニガサナイ。

モウオマエニ、ニゲバハナイ。


コンドコソ、カナラズ、






______________コロス。












######


「お、来たか」


麗飛学園・中央塔、生徒会室。

一人の青年が、双眼鏡で校門のあたりを見ていた。先ほど、麗飛PTAとの交渉を終えたばかりの彼の視線の先では、高等部の男女二人が、ちょうど門をくぐっているところだった。


「あれは……玉章くんか。なんというか、奇妙な巡り合わせだな」


これも影響(・・)なのだろうか。

そんなことを考えながら、彼は二人を双眼鏡越しに見つめ続ける。


「おや…………?」


不意に青年が双眼鏡を下ろし、こめかみに手を添えた。何かを感じ取るかのように、そっと目を閉じる。

しばらくして開けた彼の目には、少量の焦りが滲んでいた。


「これは…………」


この感じは。


そこまで考えたところで、青年は放送用のマイクのスイッチを入れた。


「生徒会執行部に連絡。茅野(かやの)くん、吉川さん。至急生徒会室まで戻って来てくれ。話し合いたいことがある」



######


「うわ、やっぱ中もすげえな……」

「そうなのかな?」


校舎に入った後も、驚きと感動の連続だった。これが校舎で、これからここで生活していくというのが、今だに信じられない。

加えて。


「でも、まさかクラスが一緒とはねー」

「ああ。なんつーか、偶然とは思えねえな」


そうなのだ。俺と梓、同じクラスだったのである。さっきも口にしたが、なんというか、ここまでくると何か不思議なものがはたらいているんじゃないか、なんて柄でもないことを考えてしまう。

そんな感じで思考を巡らせていると、あっという間に教室の前に着いた。これまた工芸品のようなドアの左上には、そこだけ普通の学校と同じように札が挿さっており、しかし字体はそれらしい感じで【1-3】と書かれている。


「さーて、それじゃあ……」


そこで何を思ったか、梓は大きく息を吸うと、


「おはよー!」


教室のドアを開けて文字通り開口一番、梓は他の教室まで聞こえる程の音量で、元気な朝の挨拶をした。ので、後ろにいた俺はびっくりしてちょっと飛んでしまった。3センチくらい。


「おっ、おはよう」

「梓ちゃんおはよー」

「朝から元気だねー」


すでに教室にいたクラスの面々は、いつも通りの事のようにそれに返答する。後で聞いた話だが、麗飛に入学してから、すなわち9年前から、梓はずっとこれで通しているんだそうだ。だからこの時のクラスメイトの反応も、しかるべきものだったということなのだが、


「あ、そうそう。みんな聞いて!」



個人的には、出来れば、



「転入生くんつれてきたよー!」


その流れとそのボリュームで俺を紹介するのはやめて欲しかった。



「へっ?」


いきなり自分の事に話題が移って、間抜けな声が出た。

が、それとは対照的に。




「「「「「マジでっ!?」」」」」




クラスの面々の目つきが変わった。

先ほどまでの穏やかな、あるいは呑気な表情はどこへやら、クラスメイトたちは、血に飢えた獣のような表情で俺ににじり寄って来た。



「あの、えっと……?」


ここでその視線に圧されて反応が遅れたのが、致命的だったんだと思う。

俺が廊下に向かって逃げ出そうと、新たなクラスメイトに背を向けた時には______


「…………げっ」


既に他クラスの皆さんが廊下に人だかりを作っていて、出入り口はがっちり塞がれておりましたとさ。


「「「「「はじめましてぇぇっ!!!!!」」」」」

「う、うわあぁあぁぁあ!?」


次の瞬間には、俺は前後から来る群衆に飲まれていた。


「どっから来たんだ!?」

「名前はー!?」

「好きな食べ物は?」

「なんで麗飛(うち)に転入したの!?」


前から後ろから、右から左から上から下から斜めからあらゆる方向から質問の嵐。更に俺を中心におしくらまんじゅう状態で、これまたあらゆる方向から凄まじい圧力が。


「待って待って待って! 死ぬ! 死ぬってば!」


言葉と動作で押し返そうと試みるも、抵抗虚しくどんどん押されていく。梓に助けを求めたいが、人が多すぎてどこに居るのかすらわからない。これは本格的にまずい、と思ったところで、


『ピンポンパンポーン♪』


校内放送だろうか。よくあるチャイムの音が響く。同時に、質問と圧力がピタリと止まった。


『全校生徒に連絡します。これより、進級式の準備を始めます。初等部・中等部・高等部、各学年協力して、準備に取り掛かってください』


ちょっと高めのバリトンで、聞き取りやすい男の声だった。そしてそれを聞いた途端、俺の周りに居た人だかりは、ぱっと散っていった。


「…………」


すぐには言葉が出なかった。

疲れたとか、助かったとかいう感情より前に、放送が流れた瞬間の麗飛生たちの反応に対する驚きが、頭の中を埋め尽くしたからだ。

加えて。


「あの……声…………」


何か、仄かな既視感を感じた、その直後。


『____あ、そうだ。もう一つ連絡です』


先ほどと同じ、男の声。


『転入生の八神君は、中央塔の生徒会室に来てください。……玉章くん、近くにいるだろう。案内を頼むよ』


最後の方は、声の主の本来の口調だろうか。それを聞いて、更に既視感が強まる。いったい何だ。こんな声、聞いたことなんてないはずなのに……


「あっちゃー、見られてたのかな」


不意に、隣に居た梓が声を上げた。


「へ?」


あっけに取られて、既視感が頭の隅へと追いやられる。


「玉章くん、って言ってたでしょ。私の名字、もう忘れたの?」

「えっと……あ、そっか」


そうだった。梓と呼べと言われたから、そこしか頭に残っていなかった。

そんな俺を見て梓は、「仕方ないなあ」という感じで鼻を鳴らすと、通学路で会った時のように俺に背を向け、顔だけをこちらに向けた。


「じゃあ、行こう。案内するわ、生徒会室に」

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