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憑き来たる者共  作者: 冷奴
日常と非日常、その間で
3/14

話す者、聞いて知る者

「……きみが、転入生くん?」





「え……?」


ようやく驚愕と混乱から回復した俺には、そう返すのがやっとだった。そんな俺を見た少女は「やっぱり」と言うと、答えも聞いていないのに腕だけで軽くガッツポーズ。得意げに胸を張り____ここであまり胸は無いんだなと思ったのは秘密だ____、どこぞの名探偵のように説明を始めた。


「ふふ、だと思ったのよ。だってきみの制服、まだ無改造だもん」

「む、ムカイゾー?」

「改造してないってこと。麗飛(うち)の生徒はもう全員終わってるからね。制服の改造」


ここで俺は、少女の制服が、学校の書類に載っていたものとはかなり違うことに気づいた。本来紺色であるはずの部分は彩度が上がり、より青に近くなっている。ブレザーは袖がなくなってチョッキ状だし、ブラウスは七分袖。スカートも少し短いが、これは折っているだけだろうか。などと考えていると、


「……そ、そんなに見ないでよ。私もちょっと恥ずかしいんだから……」


頬を赤らめられてしまった。恥ずかしながら、こういう事には全く耐性のない俺である。だからこういう時、脳内には謝るという選択肢しか出てこない。結果、


「ご、ごっごめん!」


俺は全力の謝罪とともに、とにかく急いで視線をそらした。慌てて言葉を付け足す。


「その、えーっと……な、なんで恥ずかしいんなら、なんでそんなカッコしてんの……?」


俺としては当然の疑問だったのだが、少女の方からむっとしたような気配が伝わってきた。遅れて、デリカシーのかけらも無い質問だったことに気付く。続いて聞こえてきた言葉は、やはりほんの少し鋭かった。


「痛い子みたいに言わないで。校則なんだから。第3条5項、『生徒は制服を改造する義務を負う』。生徒のアイデンティティ確立の一助とか言う名目らしいけど。それに、やるからには思いっきりやるのが私のモットーだし」

「へ、へぇー……」


早口でまくし立てられて意味を飲み込むのに少し時間がかかったが、今日何度目かの驚きだ。学校活動の範囲内ということで俺の生活費まで全額負担してくれるあたり、この学校は普通じゃないとは思っていたが、まさか生徒に制服の改造を強制しているとは。ぶっちゃけ制服の意味、ないんじゃないだろうか。

そこまで考えたところで、先ほどと同じようにデリカシー皆無の発言をしそうになる。ぎりぎりで思いとどまってから、さっきの失礼を詫びようと俺は慌てて姿勢を正した。

そんな俺を見た少女は、わざとらしく鼻を鳴らしてから、少し呆れたように言った。


「……別に謝らなくていいよ、もう怒ってないし。それに仕方ないわよ。きみは麗飛(うち)にずっと居たわけじゃないんだし」

「う、ご、ごめん……」


なんとも情けない。

やろうとしたことは全部見通されていた上に、フォローまでされてしまうとは。穴があったら入りたいとはこのことか。うぅ……。


「もー、そんなにヘコまないでよ! なんか私が悪いみたいじゃない!」

「ごめ……」

「そこで謝らないっ!」

「は、はいっ!」


俺はまた、慌てて姿勢を正した。

少女はため息を一つついて、口を開く。


「それで、どうしたの? 朝からいきなり大声出して……」

「へ?」


俺はしばらく惚けてから、


「………………あっ」


自分が道に迷っていたことを思い出した。そうだった。すっかり忘れていた。


「いやぁ、道に迷っちゃって……」

「なんだ、そういうことだったの」


そう言うと、少女は俺に背を向け、顔だけでこちらを見た。


「なら、一緒に行こう? 私も行くわけだし」

「ありがとう、えっと……」


そこでようやく、俺は少女に名前を聞いていなかったことに気付く。

既に進み始めていた少女は足を止め、きょとんとした表情で振り返る。そして「あぁ」と言うと、


(あずさ)

「へ?」

玉章(たまずさ) (あずさ)。私の名前よ。『玉章さん』って言いにくいだろうから、呼ぶ時は『梓』でよろしく」


また見通された。これはもう、素直に従うしかなさそうだ。頭を掻き、苦笑しながら、俺は答える。


「じゃあ、よろしく。梓」

「うん、よろしい!」


少女改め梓は、嬉しそうに頷く。

そして今度は「あ」と言うと、


「ところで、きみの名前は?」

「あ、俺? 俺は八神。八神 克樹(かつき)ってんだ。よろしく」

「うん、わかった。よろしく、克樹くん」

「いきなり下の名前かよ、面食らうぜ」

「きみだって私のこと下の名前で呼んでるじゃない。しかも呼び捨てで」

「いや、だってそれは梓が」

「何か言ったー?」

「いいえなんでも」


他愛ないやり取りの後、ひとしきり笑う。初対面のくせ変に馬が合うな、と思っていると、梓が口を開いた。


「さ、行こう! まだ余裕あるけど、初日から遅刻なんてきみも嫌でしょ? 転入生なんだし、いろんな人に挨拶しないと!」

「おう! って走んな!置いてく気かよ!?」


俺は梓の後を追って、まだ慣れない都会の道を駆けて行った。

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