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憑き来たる者共  作者: 冷奴
日常と非日常、その間で
2/14

出会う者共

私立麗飛学園。

今から半世紀ほど前、由緒ある家系の何代目かの当主が自らの資産をはたいて設立した教育機関である。

創設者が当時の教育機関の閉塞感を憂いていたこともあり、他校にはない独創的な校則・機関・活動が特徴である。そのイベントはしばしばメディアで報じられ、度々物議を醸している。また、独創的であるが故に閉鎖的・排他的な校風も特徴であり、中等部・高等部から入学するいわゆる”転入”は、開校以来今までに一度も許可されたことがない。






だが、まさに今日。

前代未聞の”転入生”が、麗飛に迎え入れられようとしていた。



######


「ふんふふ〜ん♪」


4月6日、高校生初日。私はわくわくを鼻歌にしながら、登校準備中。

ちなみに、高校生は初日だけど、高校に行くのは初めてじゃない。それどころか、今までずっと通って来た場所でさえある。

なぜなら、うちの学校____麗飛学園は、小中高一貫だから。簡単に言えば、校舎が変わるだけなのだ。

さらに言えば、卒業まではずっと同じ顔と過ごすことになる。だから、高校に進級したところで何が楽しいのか、なんて言う友達もいる。

確かにそうかもしれないけど、悪いことばかりではないと私は思う。長い時間一緒に居られるのは、それだけ友情が深められる、ということじゃないだろうか。

それに。

新しい制服、新しい教科書、それに、高校生になった同級生。これが楽しみでないわけがない。


「よし、準備完了っ!」


朝ごはんは先に済ませてあるので、カバンを持って玄関に直行。


「いってきまーす!」


一人暮らしのワンルームに一声かけてから、私は学校に向かった。



######


「……やべえ、迷った」


4月6日、高校生初日。俺は焦燥を冷や汗にしながら、絶賛迷子中。


「ったく……まるで迷路じゃねーか」


都会というのはどうも慣れない。

俺は元々、こういう所とはかけ離れた、地方の町に暮らしていた。両親は俺が物心つく前に死んで、一人暮らし。本来はそのへんに就職する予定だったのだが、いざ就活だという段階で、俺の元に一封の封筒が届いたのだった。

中に入っていたのは、大量の書類と一通の手紙。




『前略 八神(やがみ) 克樹(かつき)殿』


そうそう。言い忘れていたけれど、八神 克樹というのが俺の名前。今となっては両親と俺とを繋ぐ、たった一つの大切なものだ。

文面はこう続いていた。


『この度あなたは、私立麗飛学園高等部への進学権を取得しました。外部からの転入生を迎えるのは本校初の試みであり、極めて異例のことです。つきましては、入学手続きのため、以下の住所までお越しいただきたく思い、このお手紙をお送りいたしました。同封の書類に____』


……この時は、『本当に前略なんだな』と思ったのを、今だに覚えている。なんの前置きもなく、名前すら聞いたこともない学校にいきなり入学しろと言われたのだ。困惑して当然だろう。

だが、手紙の最後に書かれていた文言が、俺の中の困惑を一気に吹き飛ばした。


『なお、本校に入学していただいた暁には、学校生活に不可欠な諸々の費用の一切を、学校側が負担することをお約束します。』




一応言っておくが、俺は別に金にがめつい訳ではない。

しかし、両親がおらず、金銭的にも身のよりどころのない俺である。義務教育過程を終え、バイトによる生活費の捻出をこれから余儀無くされるであろう俺としては、これはまさに願ってもない、破格の条件と言えるだろう。

結果、俺は麗飛に入学、もとい転入することを決意した。入学手続きを済ませ、さあ今日から学校だという今日、俺は致命的なミスに気づいたのだった。


「通学路、チェックしとけばよかったな……」


呟いたところで、今さら時既に遅しである。

とは言えどうしたものだろうか。せっかく学校の方から呼んでもらったというのに、初日から遅刻というのは失礼にもほどがある。だが、道を聞こうにも、どういうわけか人っ子一人見当たらない。学校に紹介してもらったワンルームマンションに戻りたいが、行ったり来たりしたせいで帰り道すら分からない。

万事休す。八方塞がり。そんな言葉が頭をよぎる。

どうしようもない不安に駆られて、俺はとりあえず叫んだ。


「誰かっ……! 誰かいませんかぁぁっ!」

「えっと……さっきからいるけど、どうしたの?」

「うぎゃっ!?」


後ろから聞こえた声に飛び上がって振り返ると、少女が怪訝そうな顔をして俺を見ていた。その顔を見て、俺はさらに、戦慄をおぼえた。

肩にかかる、艶やかな桑染(くわぞめ)色の髪に、透き通るように白い肌。少し緑がかった瞳、整った目鼻立ち。そういうことにあまり興味のない俺でもわかるほどの美人だ。

そんな事を考えていると、少女はずいっ、と俺を覗き込んできた。声も出せない俺をじっくりと観察したあと、少女は「もしかして」と顎に手を当てる。


「もしかして、きみ……」


続けて発せられた言葉は、さらに驚くべきものだった。


「……きみが、”転入生”くん?」

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