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待っててね。今行くから

 私は、大きな扉の前で、深呼吸をした。


 恐怖はない。けど、やっぱり緊張はする。


 彼は、私を受け入れてくれるだろうか?彼の事だから、最初は驚いて、その後怒る。そして、最後には呆れて苦笑しながら抱きしめてくれる、とは思う。ああ、でも、凄く怒って、暫く口も聞いてもらえないかも。


 でも、私だってこれだけは譲れない。彼が私の事を愛してくれるのと同じくらい、ううん、それ以上に、私は彼を愛しているんだから。


 彼が、私の知らない所で死ぬなんて、想像しただけで震えてくる。


 彼がしんだら、多分私は後を追うだろう。家族もいない私にとって、彼だけが家族だったのだから。だから、今の私の行動は、誰にも止めさせない。私の為であり、彼の為でもあるんだから。




「どうぞ。」


 声が扉の内側から聞こえてきた。遂にこの時がきた。私は緊張しながら部屋の中に入った。


 その部屋は、広かった。同棲してたアパートの部屋の10倍はあるだろうか?地上150階から見える夜景は、この上なくロマンチックだ。この光景を、彼と一緒に見たかった・・・。


 この部屋の主は、部屋の中央にドテンと置いてある柔らかそうなソファーに座っていた。


「どうぞ。」


 促されて、私も反対側のソファーに座る。


「さて、私は無駄な話が嫌いなので、単刀直入にお聞きしましょう。<<桐条麗奈>>さん。<<月一銀狐>>さんの恋人、でしたね?私に何のご用で?」


「私も、【犯罪者の庭】に入れて下さい。」


 流石に驚いたようで、先程までの余裕な表情は消えている。


 そう、ここは、世界的大企業【ブライト・アームズ】。目の前にいるのはその社長、<<東条光一>>。私は、彼に自分もゲームの中に入れて欲しいと、直談判に来た。


「・・・何の為にそこまで?言っておきますが、生き残れる可能性は低いですよ?自分で言うのもアレですが、非人道的な実験です。決して甘くない。」


「覚悟の上です。そもそも、彼の居ない世界に意味なんてありません。彼が死んだら、私も後を追うでしょうし。そして、生き残る可能性が低いのなら、その可能性を少しでも上昇させるだけです。・・・これでも、ゲーマーなんですよ?以前やってたゲームでは、彼と私のPTは、不死身とさえ呼ばれていたんですから。」


 彼は目を丸くしている。多分、普通の人から見たら私は異常者に見えるんだろうな・・・。でも、こんな実験を始めた人にそんな目で見られたくは無い。


「私は、貴方に感謝さえしています。まるで最初から銀狐を犯人に仕立て上げるような強引な捜査と裁判で、彼の死刑は決定してしまいました。私も彼も必死に抗ったけど、ダメだった・・・。その時現れたのが貴方です。貴方は私たちに道を示してくれた。」


 そこで一旦言葉を切る。彼は、真剣に私の話を聞いていた。それを見て、続きを話す。


「でも、希望が見えれば、やっぱり絶望に抗いたくなるんです。どんな結末を迎えるにしても、私は、全力を出して、生きる為に努力したい。彼と一緒に歩いて、彼と一緒に生きたい。・・・・・・お願いします。彼のいる世界へと、私を連れていって下さい。」


 深々と頭を下げる。土下座でも何でもするつもりだったけど、何故かそういうことは嫌いな人な気がした。


 どれくらいそうしていただろう?未だに頭を下げる私の耳に、含み笑いが聞こえてきた。


「・・・っ!」


 怒りで我を忘れそうになる。何処が可笑しいのよ・・・!


「あ、ああ御免なさい。別に馬鹿にして笑った訳じゃないんですよ!一途さが私の古い友人と似ていたので、つい懐かしくなってしまって。・・・気分を害したのなら、謝罪致します。申し訳有りませんでした。」


 そう言って私と同じくらい深く頭を下げてきたので、私は呆然として、怒りなんて忘れてしまった。


「い、いえ!こちらこそ勘違いで・・・。」


「いえ、勘違いされるような行動をした私が悪いのです。今のタイミングで笑われたら、誰であれ馬鹿にされたと思うでしょう。本当に、申し訳有りません。」


 そうして、日本人特有の謝罪合戦に突入してしまった・・・。




 数分後、いい加減このままだとケリがつかないので、お互いに非があったとして強引に話を戻した。


「それで・・・どうでしょうか?」


 彼は少し考える素振りをしたが、


「わかりました。貴方は気に入りましたし、この銀狐という青年も死んでしまうには惜しい人材です。特例として、許可しましょう。」


「あ、有難う御座います!」


 思わず瞳に涙を浮かべてしまい、それが恥ずかしくてまた深く頭を下げる。


「貴方の健康は我々が責任を持ちますよ。我が社のダイブルームをお使いください。」


「え、そんなことまでしてもらう訳には・・・。」


「いいんですよ。・・・それより、銀狐さんは、本当に無実なんですね?」


 いきなり話がずれたけど、これは放って置ける話題じゃないので、直ぐに返答した。


「勿論です。彼は犯人じゃありません。」


「根拠は?」


「・・・現場に、私もいたからです。彼は、先輩たちを殺してなんかいません。寧ろ、殺されかけていた私を助けてくれたんです。・・・・・・彼が居なければ、私は今ここにいません。」


「な・・・・・・。」


 彼が絶句した。


「あの場所には、もう一人いたんです。全身が黒くて、男か女かもわかりませんでしたが、確かに、もう一人いたんです!」


「その事を警察には・・・?」


「言いました。何度も何度も・・・。法廷でも、ずっと訴えていたのに・・・。」


「それなのに・・・大した証拠も無いままスピード判決した・・・?」


「はい・・・。」


 私の顔は、今どうなっているだろう?悔しくて、悲しくて、きっと、人様には見せられない顔になっているハズだ。だから、だから、私は顔を上げない。


「わかりました。すみませんね、遅くまでお引き止めして。」


「いえ・・・こちらこそ。」


「私も、この事件に個人的に興味が湧きました。調べて見ましょう。」


「本当ですか!?」


「はい。しかし、期待しないでくださいね。」


「有難う御座います!」


「それでは、明日からゲームの中に入っていただきます。何か分かったら連絡しますよ。」


 そうして私は、部屋から出された。・・・明日、また銀狐に会えるんだ。待ってて銀狐。絶対生きて脱出しようね!





「月一銀狐と桐条麗奈・・・か。面白い二人だ。」

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