情報屋の憂鬱
本日、公務員試験の一次試験が終わりました。後一回あるんですけど、気分転換に一話書きました。大変遅くなってすいません。
「・・・嘘だろおい・・・。」
絶句した。思考が真っ白になった。一体誰だ?世界で最も危険な女は、【吸血鬼】か【人魚姫】だと言った愚か者は。
ここにいるじゃないか。もう一人、その二人に負けずとも劣らない悪魔が。
「悪魔。・・・いや、これは修羅か・・・!」
修羅。この言葉が、掲示板には飛び交っていた。世界でも最悪のレベルの犯罪者が詰め込まれたこの世界で、数十、いや、数百人の荒くれ者共が、たった一人の女を恐れている。
それも、今まで話題にも上がったことがないような、普通の女だ。このゲームに入れられている癖に、何故か犯罪歴すらも参照出来ないという、不可思議な女。【吸血鬼】のように、元から悪名高い犯罪者だったという訳でもない、ただの普通の女が、この世界に恐れられているのだ。
「たったの五時間・・・それだけでこの被害かよ・・・!?」
《桐条麗奈》。
この名前が恐れられるようになったのは、たったの三時間ほど前だ。始めて掲示板に『要注意人物』として名前が出たのが五時間前。この書き込みをしたプレイヤーは、既にこの世にはいない。この書き込みをした次の瞬間に、基本メニューの『死亡者一覧』に名前が乗った。
次の被害者が、一体誰だったのかは不明だ。次に書き込みがあったのが一時間後なので、恐らくその間に何人かを襲撃しているはず。
・・・・・・そう、この女、東区未来都市を拠点にしているプレイヤーを、無差別に襲撃していたのだ。その数、俺が【電脳の王】で調べた所によると、二十七人。二十七人だぞ、たったの五時間でだ!これが単独での行動だったのか、それとも他に仲間がいたのかはわからないが、それでもキチガイじみた速度と行動だ。
東区の人間たちは、最初はこの事態に気がついて居なかった。・・・しかし、自分の生命を脅かす空気には敏感な連中だ。徐々に変だと思っていたのだろう。その内、何名かで固まって行動するようになった。そして、そこに襲撃してきた《桐条麗奈》。この行動で、女がプレイヤーを殺しまくっているということがハッキリした。このメンバーも、すぐに掲示板に情報を書き込んだのだが。・・・しかし、そいつらは全滅した。五人でパーティーを組んでいたが、成すすべもなく殲滅されたようだ。
結果として、俺の所にやってくるまでに二十七人殺していた。・・・何だ奴は?バーサーカーか?しかも、こんな行動を起こした理由が、『【魔銃製作者】を見つけるため』だぁ?
あの後話を聞いたんだが、どうやらあの女、【魔銃製作者】が東区未来都市に住んでいる所までは把握していたらしい。どうやら、掲示板に投稿していた人間がいたようだ。しかし、それが一体誰なのかまでは分からなかった。
そこで思い出したのが、俺の存在だ。つまり、『東区未来都市に巣喰う情報屋』の噂。
俺のサブ職業エクストラ【電脳の王】は、その名のとおり電脳にしか効果がない。つまり、俺は東区の情報しか探ることが出来ないのだ。その為、『東区について限定の情報屋』として生計を立てていた。少し調べれば、『東区のことなら何でも知っている情報屋がいる』ということも分かったはずだ。しかし、【魔銃製作者】も【情報屋】も、一体誰なのかがわからない。
そして、あの女はこう考えたらしい。
『誰かが分からないなら、当たりを引くまで引き続ければいい』と。
イカレている。壊れている。たかがそんなことで、東区のプレイヤー全員を敵に回したのだ。正規の手段を取って俺に連絡を取れば、【魔銃製作者】の情報くらい売ってやったというのに、それでは間に合わないと言ってこんな手段に出た。
「・・・二度と外には出ない。」
もう、このゲームがクリアされるまで二度と外には出ない。そう心に決めた。俺から【魔銃製作者】についての情報を奪った彼女は、それに満足したらしく俺のことを殺さなかった。しかし、それで安心出来る訳が無い。二度目がないとは限らないのだ。
他人の家には勝手に入れない。それが絶対法則だ。家の中は、要塞と同じくらい安全な場所。そこに居れば、命を脅かされる心配もない。食事なんかは全部出前を頼めばいい。人間は、家から一歩も出なくても生きていけるのだということを、俺が証明してやる。
「・・・気の毒に。あんな女に目をつけられるなんて・・・。」
俺は、まだ見ぬ【魔銃製作者】に心からの冥福を祈った。・・・情報を渡したのは俺なんだがな。
因みに、麗奈さんは確かに暴走気味ですが、殺そうと思って殺したわけじゃありません。
襲う⇒情報を持っていないと分かる⇒興味がなくなったので次に行こうとする⇒突然襲われた挙句に放置されそうになったプレイヤーがブチギレて背後から襲いかかる⇒応戦⇒銀弧のことで頭が一杯で手加減できず、結局殺してしまう⇒以下ループ
という事態になってます。当然、中には力関係を正確に理解して襲いかからず、命が助かった奴らもいますので、彼女が襲った人数は三十人は超えています。