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ヤンデル

「あ・・・・・・・・・。」


 首筋に手を触れる。


「あああ・・・・・・。」


 ドロリとした血液が、ベッタリと指に付いていた。


「ん・・・・・・・・・。」


 震える指を、口に含む。濃厚な血の味。凄い。凄い。凄い。・・・とても、ドキドキする・・・。


「あぁ・・・。血が、こんなに美味しいと感じたのは・・・何時ぶりだろう・・・・・・。」


 私が自分の血を吸っていたのは、まだ私が吸血鬼として覚醒する前。まだ、人間という種族の病弱な、余命幾ばくもない少女だった頃以来。初めて血液を口にした時と同等・・・いえ、それ以上の陶酔と感動を、私は感じていました。


「私の【眷属完全支配】を断ち切って攻撃してくるなんて・・・。やっぱり貴方は特別。絶対に私の物にするわ。身も心も、全て私が奪ってアゲル。貴方を他人に渡すなんて・・・考えられない!」


 私は、【爆弾魔ボマー】こと《シモン・グラドニフ》によって気絶させられた《月一銀狐いとしいひと》を見て、熱い吐息を漏らした。血涙を流し、体中から大量の血液を噴出させながらも、私の束縛を破って命を奪いに来た、この愛しい人を。


「・・・恐ろしい子ねぇ。まさか京香ちゃんの束縛を破るだなんて。驚きすぎて手が出せなかったわ。ゴメンね京香ちゃん。」


「ううん。私も油断してたから。もう少しシモンが遅ければ、確実に殺されてたわ。前回とは違って、今回は生身・・・・・だし。・・・有難うシモン。」


 【人魚姫マーメイド】《マリアン・イグニス》。彼女はとても私に良くしてくれる。私の人生で、初めての友人だった。・・・犯罪者になってから初めて友人が出来るというのも、可笑しな話だけどね。


「コイツは、今までの雑魚とは違う気がしたからな。何かトンデモナイことをやりそうな気がしただけだ。・・・まさか、お前のスキルを突破するとは思わなかったがな。」


 そう。彼は、私があの女・・・の話をした直後、豹変した。それまでも、隙が有れば私を殺そうとしていたけど、あの話の前と後では、全く別人のようだった。


 ギチギチギチギチと体が軋んでいるのも構わず、懸命に前に進もうとした。両目から、血涙が流れ落ちた。噛み締めた口からも血が出た。そして、毛細血管が千切れたのか、体中を血まみれにして、それでもなお私を殺そうとしてきた。


 あの時振るわれた刃を避けられたのは、偶然でしかない。私は、彼の気迫に完全に飲まれてしまっていた。無意識の内に、一歩下がってしまっていた。そのたった一歩が、私の命を救った。


 それでも、完全に避ける事は出来なくて、喉元からは血がドバドバ流れているんだけど・・・このくらいは直ぐに治る。


「怯えたの。怯えたのよ私。どんな人や武器を前にしても、恐怖を抱かなかった私が。軍隊に囲まれても、笑って殲滅してきた私が。・・・ねぇ、信じられる?私、人間の少女だった頃のように、彼に恐怖したのよ!!」


 あの時、ゾクゾクと背筋が寒くなった。彼から発せられる殺気に、私は屈服してしまった。吸血鬼という、人類を超越した存在になったこの私が!人を餌としか認識出来なくなった、この私が!!


「あぁ・・・本当に、この世界に来られて良かった・・・。」


 シモンやマリアン達とも出会えた。孤独に世界を生きていく筈だった私が、自分と同類だと認めることの出来た仲間達。私は、求めていたのかもしれない。こうやって、笑い合える関係を。


 そして、この人に出会えた。《月一銀狐》。この躰になってから、初めて私を恐怖させた人。この人の事を考えると、体が火照ってくる。頬が熱くなる。間違いない。この人は、私の運命の人なのだと。そう認識した。


「あぁ・・・貴方がそこまで愛する《桐条麗奈》・・・悔しいわ。妬ましいわ。貴方の愛を独占する彼女が・・・。」


 どんな形でもいい。彼には、私だけを見てもらいたい。恨まれてもいい。憎まれてもいい。愛してくれるのが一番だけど、そこまでは望んでいない。兎に角、貴方の目に映るのは、私だけでいい・・・!!


「あらあら、これはダメね。完全に恋する乙女の顔だわ。」


「乙女?コイツがか?」


「シモン、女の子はね、恋を知ることで変わるのよ?彼女は、やっとそれを知ったの。・・・見てなさい。彼女、これからドンドン綺麗になるわよ?あと・・・行動も過激になるかも。」


「・・・今以上にかよ。」


 横で二人が何か話していたけど、私の耳には入って来なかった。今の私の頭は、どうすれば彼の目を独占出来るかだけを考えている。

 

 ・・・でも、


「あぁ・・・考える必要も無かったわよね。いつものとおりにやればいい。」


 そうだ。私は何を悩んでいるの?何十、何百回と繰り返した行動をすればいい。ただ、今回はより派手に。より過激に。彼の印象に残るように。彼の頭に、私だけしか入らないようにすればいい。・・・ただ、それだけなんだよね?


「今夜・・・もう一度乗り込むわ。皆を招集して頂戴?」


 《桐条麗奈》・・・貴方にだけは、絶対に負けたくない!!!






彼女は、自分は吸血鬼という、新たなる種族として生まれ変わったと考えています。・・・まぁ、実際に恐ろしい程の身体能力を現実世界でも発揮してますし。

ってか、完全にヤンデル。

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