消えた
クスクス、クスクスと、小さな笑い声が夜の街に響く。
その声の主は、【シュバルツ】の西区中世都市の中でも、最も高い建物である『王城』の天辺に立っていた。
この『王城』は、この中世都市の中心であり、最も警備の厳重な場所である。進入禁止区域に指定されており、未だこの城に入る事の出来たプレイヤーは存在しない。入口付近に近づくだけでも、高レベルのNPCに包囲され、連れ戻されるのだ。これほどまでに厳重な警備をしていることから、何か重要なクエストが受けられるのではないかと思われているのだが、そのクエストの片鱗すら誰も見つけていないのが現実なのだ。
その人物の背後に、新たな影が出現する。
「・・・行きましょうか?私の愛しい人を迎えに。」
「・・・・・・。」
コクンと、その影は頷いた。次の瞬間、その二つの影は、最初から居なかったかのように忽然と消え去った。
・・・・・・その影が眺めていた先には、大きな屋敷が経っていた。
☆☆☆
「ぐ・・・おぉおおおおお!?」
体中が痛い。
バキバキと骨が鳴るし、普段使わないような場所の筋肉を使ったので筋肉痛にでもなりそうだ。・・・というか、何でゲームの癖に、こんな無駄な痛みを感じる機能を搭載しているんだろうか?やはり、無駄なところに無駄に凝ったゲームだ。
「結局あれから一日中だもんな・・・。」
麗奈との決闘で、肉体的にも精神的にも疲れ果てていた俺たちを待っていたのは、以前の美しい光景が嘘のように荒れ果てた庭の修復作業だった。一度倒された式神や召喚獣は、二十四時間経過しないと召喚出来ないし、結衣やレオンはあの状態だったので、俺たち二人で、広大な範囲の庭を整備したんだ。
あの状態の庭を治す事は、普通の方法では不可能だと判断した俺たちは、街を駆け回って、修復に使えそうなアイテムを探した。
そこで見つけたのが、【土壌戦士X】という巫山戯た名前のアイテムだった。未来都市の花屋で売っていたのだが・・・これが、恐ろしい程の効力を発揮した。
これを土に混ぜると、周囲三m内の土壌が、好きなように改良出来るのだ。範囲が狭かったので、大量に購入する羽目になってしまったが、アレが無ければ、俺たちは未だに庭の修理をしていただろう。・・・考えるだけでも恐ろしい。
時刻は既に深夜の二時半を過ぎている。麗奈は、汚れた体をシャワーで清めてから、速攻で眠りについたようだ。
「・・・俺も寝よう。」
そうして、俺は疲れた体を引きずってベットへと入ったのだった。
☆☆☆
「・・・ん?」
「結衣、どうかした?」
ダブルベットで、私の隣に寝ていたレオンは、私のせいで起きてしまったみたいです。・・・が、今はそんなことに気を取られている時間はありません。
「何か・・・居る?」
「え・・・?」
私の隣で目をこすっていたレオンも、私の真剣な顔を見てベットから起き上がりました。クローゼットから直ぐに着れる上着を取り出して投げてくれたので、下着の上から羽織って、帯を締めます。
緊急事態なので、下半身は下着のままですが・・・まぁ、上着でギリギリ隠れていますし、大丈夫でしょう。
レオンも私と同じように着替えて、念の為に武器を所持しました。
「ねぇ、何か感じるの?」
「はい・・・。多分、【暗黒】スキルを持った何者かが、この敷地内に存在します。」
「・・・っ!」
レオンが驚のも無理はありません。私だって、スキル【闇を滅す者】を持っていなければ信じられなかったでしょうし。このスキルは、範囲内にスキル【暗黒】を所持した敵が存在すると、警告してくれるというスキルです。今このスキルは、この屋敷の敷地内全てを対象として監視していました。そのスキルが、突然反応したのです。
「でも、この家は僕の所有物だし、ギルド『希望』のホームにも登録されているんだよ?許可が無ければ入れない。システムに守られている筈なのに・・・。」
そう。所有者が居る建物や敷地に、無断で入る事が出来ないというのは、この世界の絶対のルールです。ダンジョンなどはそのシステムには入っていませんが、例え国王だろうと、他人の家に押し入る事は出来ません。法律がどうこうという話しではなく、この世界はそういうものなのです。
「私も、このルールを破る方法は知りません。でも、誰かがこの屋敷にいるのは事実です。・・・・・・いえ、もしかしたら・・・。」
その時、私は一つの仮説を思いつきました。
「銀狐さん・・・?」
「え、銀狐さんがどうかしたの?」
あの、何かと規格外の外の住人の姿を思い浮かべました。最初は頼りなく感じたあの人ですが、今はもう立派な人外の仲間入りです。レベルは50半ばの癖に、ステータス的には既にレベル90か100程度はある。
そのレベルアップボーナスのほぼ全てを筋力と敏捷に振り切った極攻撃型。最近では私たちの忠告を聞いて防御関係にも振り始めましたが・・・。命の掛かった世界でそんな事をするなんてアホだと思った彼ですが、今では銃弾すら斬り裂く域に達しています。
そんな彼が新しく転職可能になった『エクストラ』、【聖邪の剣士】。これは、【神衣剣士】からの派生エクストラの一つで、【神衣剣士】の状態で、強大な魔の力を持つ敵を倒した時に発現します。
その効果は単純明快、『聖なる力と邪悪な力を併せ持つ』。スキル【聖天】とスキル【暗黒】を同時に所持出来て、聖属性の敵にも悪属性の敵にも絶大な戦闘能力を発揮出来ます。更に、聖属性と悪属性の『神衣』系統のスキルが手に入るのです。
説明が長くなりましたが、もしも銀狐さんが【聖邪の剣士】に転職したのなら、突如屋敷の中に【暗黒】スキルを持った人が出現することになります。恐らく、それを感知したのでしょう。
「そういうことでしたか・・・。良かった。」
「成程・・・。・・・じゃぁ、遅いからもう寝ようか?銀狐さんには明日聞いてみればいいよ。」
「そうですね・・・。」
ここで、私がこの話をしてしまったのが失敗の原因でしょう。私たちはこの時、多少強引にでも銀狐さんに確認を取らなければいけなかったのです。本当に、【聖邪の剣士】に転職したのか?と・・・。
しかし、私たちはこの世界のシステムは完全で完璧だと信じていたのです。生まれてから今まで、システムのことを疑いもしなかったのですから、当然と言えば当然なのですが・・・。
知らなかったのです。
まさか・・・
システムによって不法侵入を許されたエクストラが存在するだなんて・・・。
翌日、私たちが起床したとき、銀狐さんの姿は屋敷の何処にもありませんでした。・・・彼は、この街から居なくなってしまっていたのです。
最近投稿が遅いです。・・・スイマセン。
なんか、気がつくと時間が過ぎていませんか?少し前まで二月だと思っていたのに、気がついたらもう四月です。二ヶ月も投稿していなかったっけ?こんなに時間が経つのって早かったっけ?
本当にスイマセンでした。もう少し早く書くようにします。