喧嘩終了
「はああああ!」
銀狐が最大速度で突っ込んでくるのに合わせて、私も全速で後方に下がる。
今の私は、さっきの”剣の弾丸”と”全弾発射”のコンボによって、全ての霊力を消費している。回復ポーションによって少しだけ回復してはいるけど、微々たるものだ。
多分、”戦女神の剣舞”なら十秒。他の単発スキルなら、二発分ってところかしら?回復ポーションにもクールタイムがあるため、そう何度も回復することは出来ないし、今は逃げながらチマチマと銀狐の体力を削っていくしかない。
せめて、単発スキルが4回は使えるくらいまで回復しておきたい。だから、ポーションのクールタイムが切れるあと三十秒が勝負!
「ああああああ!」
ドンドンドン!と、銃弾を発射する鈍い音が響く。
「甘い!」
キンキン!と音を立てながら、銀狐はその銃弾を切り裂いてしまった。
「嘘!?」
現実の一般的な銃弾とほぼ同じ速度だよ!?
「何か、どんどん人間離れしていってるね!」
「お褒めに預かり光栄ですってな!」
その言葉と同時に、更に加速してくる銀狐。
「嘘、今までのが最速じゃなかったの!?」
「今までのは、スキルを使用しない最速だ!」
「くっ!?”脚力強化の呪”!?いつの間に!?」
騙された・・・と気がついた時にはもう遅かった。銀狐が力強く大地を踏みしめ跳躍する。まるで閃光のようなスピードで襲いかかってきた銀狐の刃は、私の左腕をかすめた。
「あぁあああ!?」
寸でのところでギリギリクリーンヒットは回避したものの、やはり銀狐の攻撃力は凄まじい。空中にいることによってかなり攻撃力は落ちている筈なのに、私の体力の四割近くをたったの一撃で持って行かれた。先程の戦闘の時にも結構ダメージを喰らってしまっていたので、私の体力もレッドゾーンに入る(因みに、街中ではいくら体力が減っても、絶対に1以下にはならない。部位欠損判定を受けても、自然に治るらしい。・・・まぁ、決闘システムは別なんだけど)。
「でも・・・避けれた。まだ戦える!!」
「くっ!?」
私は、更に上空に飛翔しながら、銀狐に牽制の為の弾丸を撃つ。
「ウ・・・オラァ!!」
でも、銀狐には普通に撃った実弾じゃ意味がないらしい。いつの間に弾丸を切り裂けるようになったのかは分からないけど、これは私にとってとても不利な状況だ。
【ツイン・カトラス】はまだエネルギー充填が出来ていないから使う事は出来ない。その状況で通常の弾丸が効かないとなると、特殊弾かスキルしか銀狐にダメージを与えることは出来ないってことになる。・・・けど、どちらも使える数が少ない。
あと残っている特殊弾は、【氷結弾】が二発、【空間弾】が一発、【炸裂弾】が一発のみ。最初に使った【土流弾】とか、吸血鬼に使った【獄炎弾】とかが高価すぎて、他の特殊弾にまで手が回らなかったから。
今クールタイムが終わったからポーションを飲んだけど、それでも単発スキル4回分。これだけで銀狐を確実に倒せるかと言われたら、相当厳しい。
銀狐の攻撃が届かない程上空に逃げて時間を稼ぐという手も確かに存在する。ただ勝利だけを狙うなら、この方法が一番勝機が高いだろうとは思う。
「・・・けど!そんなの面白くないわよね!」
先程までは、どんな汚い手を使ってでも勝ちたかった。・・・でも、銀狐が私を認めてくれた今となっては、別にそこまで勝ちに拘る必要はない。
そりゃ、やるからには勝ちたいけど、ここまで来たら正々堂々、正面から戦いたい。カートリッジを取り外し、それぞれ【氷結弾】と【炸裂弾】を装填する。”ファスト・リロード”を使う霊力すらも惜しい。流石に、この弾丸ならダメージも通る筈。・・・まぁ、避けられたら意味がないんだけど。
・・・さて、準備は整った。
「行くわよ銀狐!!」
「来い麗奈!」
突撃する!
真下に向かって急降下しながら、先ず【氷結弾】を一発撃ち込んだ。
「効かねえって・・・うお!?」
先程までと同じように弾丸を斬ろうとした銀狐は、【氷結弾】を切り裂いてしまった為に、腕の一部が凍りつきダメージを受けた。
「【氷結弾】か!?クソ!」
「まだまだぁ!!」
続いて、同じ銃で通常弾を撃つ。
「クソッ!!」
また【氷結弾】だと思ったのか、銀狐は回避した。でも、私が飛び込んでくるのにカウンターを合わせたいらしく、大きく移動はしていない。
「狙い通り!」
そこに、【炸裂弾】を撃ち込む!
この弾丸は、かなり広範囲に小さな弾をバラまく特殊弾なので、今と同じように小さく回避した銀狐はかなりのダメージを受けた。元々の防御力の低さもあって、レッドゾーンだ。
「・・・っ!」
度重なる被弾に、銀狐が焦りだした。いい傾向ね。焦りは冷静な判断力を奪い。ミスを誘発する。動きが鈍くなって、それが更なる焦りを生む。・・・もう、私の勝利は目前だ!
「”ファスト・リロード”【空間弾】【氷結弾】!」
最後の特殊弾をリロードし、即座に撃ち込む!このコンボは、【空間弾】が撃った瞬間に着弾するので、基本的に必中だ。いくら銀狐でも、防ぐ事は出来ない。
「がぁあああ!」
予想通り、【空間弾】の壁に取り囲まれた銀狐は、何もできずに【氷結弾】を受けた。そして、【空間弾】の効力が消えないうちに、私は最後のアタッチメントである【エネルギー・ボム】を投げつける。
「ぐ、ああああああああ!!」
「勝った・・・!」
そう私が思った瞬間だった。
私は、油断してしまったんだろう。あれだけ警戒していたアレのことを、すっかり忘れてしまっていたんだから。【エネルギー・ボム】の攻撃を当てる為には近づかなくちゃいけなかったのは確かだけど、ここで油断せずにまた上空へ逃げるべきだった。
「”神衣:黄神威”!!!」
「あ・・・・・・。」
その言葉が聴こえた時にはもう遅かった。私の目の前には既に銀狐がいて、刀を振り上げている最中だった。
「あぁ・・・負けちゃったか。」
とても悔しい想いを胸に抱いて、私は目を閉じたのだ。
遅くなりました。次はもう少し早く出来ると思います