決着?
光が収まった場所に立っていたのは、蒼いマントを着た女性。髪は黒のショート、瞳は金に輝いている。名前の欄には、『吸血鬼 Lv1』と書かれていた。
あの吸血鬼・・・真祖だっけ?との戦いで銀狐が手に入れたっていう”式神召喚”スキルだ。特定のユニークモンスターを”式神登録”を所持した状態で倒すと、一定確率で登録される。それを、”式神召喚”で召喚出来るらしいのだ。
でも、最近は色々なことがあってそのスキルを試す時間も精神的余裕もなかったから、あの式神を見るのは始めて(結局、転職もまだしていない)。多分、銀狐自身も使うのは始めてなのだろう、【土流弾】の流れに必死に抗いながら、出現した式神を見つめている。
「時間を稼げ!流石に、こんな強力な効果、そう長くは続かない筈だ!」
銀狐がそう指示する。確かに、残り効果時間は殆ど存在しなかった。っていうか、あと十秒くらいしかない。でも、その数秒もあれば銀狐の体力を削り切る事も出来たことを考えれば、彼のしたことは無駄じゃない。
それに、この短い僅かな時間でもやれることはある。この召喚された吸血鬼の体力を極力減らすこと。そうしなければ、自由に動けるようになった銀狐との連携で挟み撃ちされかねない。
「はぁああああああ!」
レベルが1と書いてあるからには、恐らくレベルによって強さが変動するんだろう。つまり、今の式神は最弱状態の筈。だったら、倒すのはそこまで難しくはない!
「切り刻め!」
”戦女神の剣舞”の自動攻撃によって攻撃しながら、私は近距離で銃を乱射する。出し惜しみはしない。全力で、速攻で倒す!
「”ファスト・リロード”!【獄炎弾】!」
吸血鬼の弱点である炎属性の最上級の弾丸。通常の戦闘では使用出来ないほど高価なこの弾丸も、惜しみなく投入する!
「”霧化”。」
でも、その弾丸も、敵の”霧化”によって避けられてしまった。
「嘘でしょ!?そのスキルも使えるの!?」
私たちを苦しめた、『物理攻撃無効化』のチートスキル。いくら同じ吸血鬼だと言っても、Lv1の状態から使えていいスキルじゃないでしょ!?
”戦女神の剣舞”による攻撃も全て無効化され、10本の剣は虚しく空を切る。
「”闇の剣”。」
私の攻撃を軽々と突破した彼女は、私を取り囲んだ霧から、一本の闇色の剣を突き出してきた。それは私の右腕に当たり、体力を減少させる。
「・・・っつう!舐めるなぁ!」
腕を切り落とされなかったのは運が良かった。もう少しズレていたら、部位欠損判定を受けていたかもしれない。今までは後衛で皆の援護をすることが多かったし、銀狐と再開するまではまともに攻撃を喰らった事が無かったから、これほどの痛みは感じたことが無かった。正直、泣きそうな程痛い。
「・・・っでも、私が弱音を吐けるわけないでしょう!!」
私は、銀狐にこの世界でも相棒として認めてもらう為にこの決闘を申し込んだんだ!私の攻撃を沢山受けた銀狐は、これ以上の痛みを感じているんだ!結衣や銀狐みたいに前衛で戦う人間は、いつもこんな痛みを我慢して戦っているんだから!
「だから・・・だから!こんな痛みに怯んでられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私は即座に【白翼】を最大限のスピードで発動して吸血鬼から離れる。この攻防の間に【土流弾】の効果は終了したみたいで、少し離れた場所まで流された銀狐が物凄い速さで走ってくるのが見える。
(”ファスト・リロード”!【空間弾】【無効化弾】!)
あの吸血鬼は放置しちゃ駄目だ!信じられないほどの強さを持っている。まだ使ってきたスキルは二つだけだけど、多分もっとヤバイスキルを持ってる!あの二人が健在の状態で『神衣』スキルなんて使われたら、勝ち目が無くなっちゃう!
「喰らえぇ!」
「ぐっ・・・!」
確実に当てる為に、【空間弾】で動きを封じてから【無効化弾】を当てた。これで彼女は、一分間の間”霧化”を使う事は出来ない!
「よし、今だ!”ウェポン・チェンジ”!」
光弾双銃【ツイン・カトラス】。この双銃は、変形機構を持つ珍しい双銃だ。私は再び、最大速度で彼女に接近する。
「馬鹿な、何故また近づくのですか!?」
さっきまで嫌に冷静で、人形か何かのように感じられていた彼女が、始めて感情を表に出した。もしかしたら、街の人たちや結衣やレオンなどとは違って、召喚獣や式神は感情を表す事ができるAIを積んでいないんじゃないかとも思っていたけど、どうやら違ったみたいだ。クールな女吸血鬼・・・みたいなAI設定だったんだろう。
「元々私は、接近戦のほうが好きなのよ!」
光弾を乱射し、近づきながら叫ぶ。銀狐も近づいているけど、私のほうが少しだけ先に辿り着く!
「理解出来ません。確かに、私の”霧化”は短い時間とは言え防いだでしょう。でも、何故【双銃士】である貴方が、敵に近づく必要があるのですか?”戦女神の剣舞”があるとは言え、その攻撃力ではマスターが辿り着く前に私を倒せる筈が有りません。貴方は飛翔することが出来るのですから、逃げ回りながら遠距離から攻撃して体力を減らし、持久戦に持ち込むしかないのではありませんか?」
私の”戦女神の剣舞”の攻撃を恐ろしい程正確な剣捌きで逸らしながら質問してくる吸血鬼。その顔には、困惑が張り付いている。
そもそも、【銃士】系統の攻撃は、近接攻撃を主体とするタイプと比べると攻撃力が低い。何故なら、【銃士】系統の攻撃力は武器に依存するからだ。近接攻撃職業は、武器の攻撃力に、自身のステータスを上乗せすることが出来る。銀狐がその典型だ。
つまり彼女は、銀狐のように近距離特化のキャラならまだしも、銃使いである私の攻撃力では自分を倒すのは不可能だと言っているのだ。
「・・・そうでしょうね。・・・普通ならね!」
光弾双銃【ツイン・カトラス】の変形機構を発動!
グリップの部分がカシャンと音を立てて折れ曲がって棒のような形状に変化し、それと同時に銃口の部分から光で出来た刃渡り一m程の薄い刃が現れる!
「えっ・・・!?」
「銀狐が辿り着く前に、貴方を倒しきる事が出来るから、態々突撃したのよぉ!!」
”戦女神の剣舞”と、私の振るう光剣の、計12本の刃が全方向から迫る。”霧化”を禁止されている彼女は、流石にこの数は防げないようで、徐々に体力を減らしていく!・・・でも、
「やらせねぇ!」
あと少しというところで響く銀狐の声。あからさまにホッとした顔の吸血鬼。・・・・・・でも、残念。
「今倒すって言ったじゃない。」
「え・・・・・・?」
間に合ったとでも思っていたのかこの吸血鬼は。私は、一度言った事は絶対に曲げない主義なんだから!
「”剣の弾丸””全弾発射”!これで・・・トドメぇぇぇぇぇぇ!!」
【ツイン・カトラス】専用スキル”剣の弾丸”。文字通り、光剣を弾丸として撃ちだす事が出来るスキル。このスキルの利点は、『スキルの分類的に、剣による近接攻撃として扱われる為、ステータスの補正が乗る』事だ。つまり、遠距離攻撃が出来る癖に、威力は近接攻撃並みというスキル(術者のステータスが貧弱だったら恩恵があまりないけど)。
そして、光弾双銃限定スキル”全弾発射”。エネルギーと霊力が尽きるまで、直前に使用した攻撃スキルをクールタイム無視で連射するスキル。つまり、今の場合は、直前に使用した”剣の弾丸”を、エネルギーと霊力が尽きるまで撃ち続ける事になる。
「う、あ!ああああああああああああああ!!」
当然、ほぼゼロ距離で発動したこの二つのスキルを避けられるはずもなく、絶叫を上げながら吸血鬼は光とともに霧散した。あとに残ったのは、漫画とかで陰陽師が使っていそうな符が一枚のみ。
「はぁ!」
「フッ!」
私は気を抜かず、切り込んできた銀狐の攻撃を避け、空中に退避する。アイテムボックスから回復ポーションを取り出し口に含んだ。レモンのような爽やかな味が喉を駆け抜けると、霊力ゲージが少し回復する。
「・・・流石に、全快とはいかないか。”ウェポン・チェンジ”。」
エネルギーを使い果たした【ツイン・カトラス】は充填するまで使用出来ないので、【ツイン・ウルフ】に変更する。そして、眼下に佇む銀狐を見つめた。
「どう銀狐?私だってやるでしょ?」
「お前、分かってていってるだろ?」
「さぁ?言葉にしてくれないと分からない。・・・言って銀狐。」
少し意地悪をしてみる。とっくに彼の言いたい事は理解しているけど、それでも彼の口から聞きたかった。
「・・・・・・悪かった麗奈。俺は、自分でも気が付かない内にお前と壁を作ってしまっていたんだな。お前が怒るのも当たり前だ。」
そう言って苦笑する銀狐。
「何時も俺の隣にはお前がいた。俺の隣はお前じゃないと駄目だ。それなのに、それを忘れてた。分かんなくなってた。自分だけが命張ってるんだって、勘違いしてたんだな。」
深い溜息を漏らす銀狐。
「俺の隣で、一緒に戦ってくれ。吸血衝動とか、かなり不安はあるけど、それもお前と・・・お前たちと一緒なら乗り越えられる。」
「うん。・・・その言葉を待っていたんだよ。」
お互いに微笑む私達。これで、今まであった蟠りは全て解消された。
「じゃぁ・・・。」
「ああ。」
そして、私たちはもう一度構える。
「こんなに白熱したバトルを、途中で止めるとか有り得ないよな!」
「当然!ここまで来たら、最後までやる!」
『行くぞ(よ)!!』
私たちは、またぶつかり合った。
むっちゃ遅くなりました。ほんとスイマセン。
でも、年末までずっと忙しいんだよ・・・。
ってことで、また遅くなると思われ。
雪も降ってきたし、日常生活も大変になる季節だよね。
皆も、風邪引かないように気を付けてくださいね。