続き
私は爆風に乗って飛翔した。今まで付けていた【ブースター】による一時的な飛翔ではなく、専用アタッチメント【白翼】による恒常的な飛翔。自分の意思により操作が出来るこの【白翼】は、慣れれば数ミリ単位での細かい飛翔も可能とする。・・・らしい。防具屋のNPCが言ってた。
【白翼】には起動条件があって、それは、翼を広げた状態で一定以上の強さの風を受けること。今みたいに爆風を使ってもいいし、走ったりして風を受けてもいい。目晦ましに最適だったから今は爆弾を使った。一度飛ぶことに成功すれば、地面に着地するか自分の意思で飛ぶことを止めるまで飛び続ける事が出来る。
コレが、第一の私の切り札。銀狐に確実に勝利するために用意した、勝利の為の第一歩。
そもそも、性能だけだったらもっと高い装備が存在したのにも関わらず、私がこの【戦女神シリーズ】を選んだのには訳がある。・・・まぁ、見た目がカッコイイというのも理由の大きな一つではあるけど、それだけじゃないんだよ?そもそも、銀狐の戦術は空中にいる敵とは相性が悪いのよ。
彼の攻撃は刀による攻撃。まぁ、今では【神衣剣士】で習得するスキル群に『符術』という項目があって、それによって幾つかの遠距離攻撃を習得してはいるけど、覚えたばかりでスキルレベルが低い為に、牽制用や補助用というべき威力なので、それはあまり脅威ではない。やっぱり、銀狐の最大の武器は無駄に上げた筋力、敏捷ステータスによる理不尽な程の攻撃力を持った一撃。そしてそれをサポートする『神衣』系のスキルだからだ。
言うまでもないことだけど、刀などの攻撃は近距離攻撃で、近づかないと攻撃することが出来ない。理不尽な程のステータスにより跳躍することは出来るけど、飛翔する事は出来ない。しかも、このゲームは物理法則をキチンと計算して作られているので、銀狐が空中で刀を振るっても、『踏み込む』という動作が出来ないために威力が極端に下がる。
だけど、私の場合は、武器は銃火器だ。このくらいの距離では威力に関係がない。私が【戦女神シリーズ】を選んだのは、何よりも銀狐に勝つためなのだ。
「やっぱり飛べるのかよ!凄いなそれ!」
爆炎の中から飛び出た銀狐の体力はほんの一ドットくらいしか減っていなかった。銀狐の低すぎる防御力ならもっと減らせると思ったんだけど、そんなに甘くはないみたいだ。爆風は継続ダメージ扱いだから”霞楼”は効果が薄いし、あの一瞬のうちに火炎耐性を上昇させるスキル”火炎制御の呪”でも使ったんだろう。普通なら有り得ないほどの反射神経。流石銀狐ね。
「でも、容赦はしないよ銀狐!私は、貴方に勝つ!そして認めさせるんだから!」
そう言って、実弾双銃【ツイン・ウルフ】を構える。これも今回の戦いの為に新調した武器で、装弾数は15発のオートマチック銃だ。全身が輝くような銀色をしていて、側面には大きな狼の顔が掘られている。この銃の特殊効果は【咆哮】。この銃が放った銃弾は、通常の銃弾よりもノックバック効果が1.5倍になる。特殊弾だと1.7倍という破格の効果だ。一撃でも当てることが出来れば、そこから連続攻撃を叩き込むことが出来る。
「”ファスト・リロード【土流弾】!」
先ず一発、地面に撃ち込んだ。その瞬間、大地が蠢き、土が流れる。
「な、何だ!?」
ザザ・・・ザザザザザザ・・・・・・
私の切り札二つ目。【土流弾】。まるで大地が川になったかのように流れ出す。
どんどんと勢いを増して流れていく大地に足を取られ、バランスを崩して倒れる銀狐。視界の端では結衣とレオンも巻き込まれていたけど、それは気にしない。どうせ、この弾ではダメージなどないのだから。
この【土流弾】は、特殊弾の中でも更に特殊な弾で、『地形変化』系統の弾だ。効果は、『土に撃ち込んだ場合、一分間そのエリアの土全てを一方向に流し、ループさせる』という物。撃ち込む対象は土でなくてはならず、石やコンクリートなどに撃っても何の効果も無いけど、フィールドが土で構成されている場合は非常に大きな効果を生み出す弾だ。ただ、対象の指定が出来ないので、敵だけでなく、今のように味方にも効果があるのが難点だけど、今の私のように飛んでいる者には効果がない。
「”戦女神の剣舞”!」
私の腰に付いていたスカート型のアタッチメント【戦女神の剣舞】が、自身の持つ同じ名前のスキルによって分解されて外れ、私の周りをクルクルと廻りながら宙に浮かぶ。その数は10本。このスキルは、味方と指定している対象以外の、自分の周囲二m以内にいるモンスターやプレイヤーに、自動的に攻撃をしかけるという強力なスキルを持っている。その代わり、発動中は継続的に霊力を消費するけど、そこまでの消費じゃないし、それを差し引いても強力なスキルだと思う。
「行くわよ銀狐!」
私は、【土流弾】によって流れていく銀狐に向かって飛んだ。この【土流弾】、時間が経つにつれて、段々と速度が上がっていくため、一度捕まったら抜け出すのは容易ではない。現に今も、銀狐が半分溺れかけている(といっても絶対に溺れないけど。ダメージも無いし、装備品の耐久力を減らす効果もない。ただ流れるだけ)。この好機を逃す手はないわね!
「はぁあああああ!!」
双銃と”戦女神の剣舞”による近接戦を仕掛ける。万全の状態じゃない銀狐なら、近接戦でも十分戦えるはず。
「うあっ!?」
「はああああああああああああ!」
十本の剣が同時に攻撃を仕掛ける。銀狐はそれに気がついて、不安定な体制のまま五本を迎撃した。こんな状態でそんなことが出来るなんて流石だけど、でもコレに耐えられるかしら!?
ガガガ、ガガガガガ!
「う、あああああああ!?」
銃弾と剣戟に飲み込まれて、銀狐の体力がかなり減った。・・・でも、ここで油断したらダメ。銀狐には、体力の差なんか軽く吹き飛ばしてしまう『神衣』系のスキルがあるんだから。
だから、今、この一瞬に全力を出す!この機会に銀狐を倒す!そして、私を認めさせるんだ!
「はあああああああああああああ!!」
「ぐっうううう!?」
どんどん銀狐の体力が減っていく。『神衣』なんて使わせない。削り切る!
「・・・もう、最初から認めてるっての・・・。全く、何をやってたんだろうな俺は。」
その時、銀狐が何かを呟いた気がした。戦闘の音にかき消されてよく聞こえなかったけど、彼の顔が、今までよりも穏やかになった気がした。
「でも!やられっぱなしはムカツクよなぁ!俺も、麗奈の隣に並び立つ者!相棒なんだからよ!少しはカッコイイところみせなきゃなぁ!」
次の瞬間、銀狐が叫んだと思うと、それまでの雰囲気が一変した。ジリジリと肌を焼く緊張感が、私を支配する。・・・銀狐が、本気になった。
「今度は俺の番だな!何か来やがれ!”式神召喚”!!」
土流に流されながらも、器用に懐から一枚の符を取り出す銀狐。
「しまった!」
慌てて止めようとしたけど、間に合わなかった。符が眩い光で包まれ、私は反射的に距離を取ってしまった。・・・そして、光が収まった後、そこに居たのは・・・